第2話 真昼の朝食は世界一だ

 「……ぎさくん、起きてください。渚くん、起きてくださーい」


 声が段々と大きくなっていく。ゆっくり目を開くとそこには俺の上にエプロンでまたがっている真昼の姿があった。


 「おはよってなんで俺の上にまたがってるんだよ!」


 俺は勢いよく体を起こす。すると、目の前に真昼の顔があり、気まずくて俺は真昼から顔を逸らした。


 「だって、渚くん全然起きないんですもん。渚くんが前に見せてくれたライトノベル?の本ではこうやって主人公のこと起こしてくれてました。渚くん、美少女にこうやって起こされてみたいって言っていたじゃないですか。私、ですし!渚くんの夢が叶ったんですしよかったじゃないですか」


 確かに夢だったけど、今の状況はやばい。顔が近すぎる。あと少し近づけば口と口が触れそうだ。


 「なんで、顔逸らすんですか?」

 「……」

 「もしかして、恥ずかしいんですか?……えいっ!」


 真昼は両手で俺の顔をぎゅむっと掴み、真昼の顔のおでこに俺のおでこをくっつけた。


 「これだったら、顔を逸らすことは出来ませんよね?」


 意地悪だ。


 「っ」


 ピリリピリリ。

 真昼は驚いて俺から手を離した。俺は目覚まし時計を止めるために目覚まし時計に手を伸ばす。

 目覚まし時計は止まり、俺は急いでリビングにまで走る。


 「はあ」


 俺は深くため息をついた後、リビングの机の上を見た。いつもはない朝食が用意されている。


 「パン……じゃない?」


 いつもの朝食は適当に買ってきた八枚切りのパンを二枚だけだ。こんなに豪華な朝食は母さんたちと暮らしていた時ぶりだ。


 「家事全般は出来ると言ったじゃないですか。もしかして、いつもはパンとかしか食べてなかったんですか?」

 「お恥ずかしながら……」

 「飽きないんですか?」

 「朝食作るよりは、パン食べる方が良かったし……」


 真昼の視線が痛い。面倒くさくてもちゃんと作って栄養を取れとのことだ。


 「……すまん」

 「はあ。まあいいです。それで、食べないんですか?冷めてしまいますよ」


 真昼は腕を組んで俺にそう聞く。

 俺は急いで椅子に座り、手を合わせる。


 「いただきます」


 ご飯とみそ汁、鮭の塩焼き、だし巻き卵に漬物もついている。

 まずは漬物を。


 「美味しい」


 自然と零れた言葉だった。

 これ、今日だけで作れるのか?


 「家で作っていた物を持ってきたんです。お口に合って良かったです」

 「真昼が漬けたのか?」

 「はい」

 「すごいな。こんな美味しく作れるなんて」

 「そんなに褒めなくても……」


 真昼は恥ずかしそうに人差し指で頬をかいている。

 次にだし巻き卵。俺が好きな味だ。


 「これ……母さんの味」

 「渚くんの好みの味になるよう、おばさんに作り方を教えてもらったんです」

 

 鮭も美味しい。ご飯も俺が好きな硬さだし、みそ汁も美味い。これをこれから毎朝食べられるなんて――。


 「真昼の朝食は世界一だ。真昼が来てくれてよかったよ」

 「そんなに褒めなくても……でも、私も渚くんが喜んでくれて嬉しいです!」


 「ごちそうさま」


 久しぶりにパン以外でお腹を満たせることが出来て幸せだった。

 俺は歯磨きと着替えを済ますとカバンを持って足早に家を出た。ゆっくりご飯を食べていたため、時間ぎりぎりだ。

 

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