第4話 一緒に帰ろう
——放課後
ホームルームが終わった直後に教室のドアがバンと勢いよく開く。
「先輩! いらっしゃいますの?」
ああ、来ちゃったんだ。 楽しみにしてたもんね……
唐突な黒髪美少女の来訪に教室内の視線はドアの方へ集中する。
漆黒堕天使ちゃんの噂は広がってもまだ顔まで知ってる人は少ないため男子生徒達が沸き立つ。
うわぁ……この状況で名乗り出るのなんて無理なんだけど。
俺を探して教室内を見回す沙耶乃に陽キャ男子が声をかける。
「君一年生? 誰探してんの? 俺でよければ手伝っちゃうよ?」
「ありがとうございます。 でも見つけましたので大丈夫ですわ」
沙耶乃は教室に足を踏み入れると真っ直ぐ俺の方へ歩いてくる。
もちろん教室中の視線を集めたまま俺の前へ。
「さあ一緒に帰りますわよ?」
「お、おう……」
そこへ先ほどの陽キャ男子のカットイン。
「ちょ! そんな陰気臭え奴と帰るの!? それより俺と遊びに行こうぜ!」
変に目立つとこういうのあるから怖かったんだよおお!!
それに直接そういう風に言われるのって傷つくし……
「貴方わたくしの先輩を愚弄するんですの?」
沙耶乃は先程までのお淑やかな微笑みを消して冷たい視線で陽キャ男子を睨む。
「だ、だって何も喋んないこんな奴といたって楽しくないのは違いねえだろ!」
「それは貴方が低俗なお話しか出来ないから周りが付いて来れないのではなくて?」
その言葉に周囲から失笑が漏れると沙耶乃はお淑やかな微笑みを戻して俺を見る。
「先輩、行きましょう?」
俺は無言で立ち上がり沙耶乃の後ろを歩いて教室を出た。
あの教室から早く逃げたかったから。
教室から少し歩いた誰もいない廊下で沙耶乃は突然足を止め振り返る。
「先輩、大丈夫ですの? 先程少しくらい顔をされていましたわ」
俺を心配してくれているのか……
やっぱコイツはいい奴らしい。 だから言える。
「直接あんなふうに言われると少し傷ついた。 でも、言い返してもらえて嬉しかったかな……」
「そうですの。 大きな貸しを作れたみたいで何よりですわ!」
やったぜと言わんばかりの沙耶乃の笑顔が凄く可愛いく見えた。
何故か負けた気がして悔しいけれど胸がどきりとした。
「先輩? 何を棒立ちしていますの?」
「ちょっと考え事してたんだよ……」
くるりと踵を返し歩き始めた沙耶乃を俺は追いかけた。
帰り道。 隣を歩く沙耶乃が悪戯っぽい顔でこちらを見る。
「四捨五入すると二十年近く生きてますのに、初めて女の子と一緒に歩いた感想はいかがですの?」
俺は女の子と一緒に歩いたことないなんて教えた記憶ねえぞ!?
「ねえねえ、先輩? 答えてくれないんですの?」
答えられねえよ。 お前みたいな美少女と歩いてちょっと緊張してるだなんて。
「まあ、先輩。 わたくしの隣を歩くのに緊張して声も出ないのですわね!」
人の心を読むのやめてくんない!? てか、子どもをあやすみたいに頭を撫でないでくれよ照れるだろ!
「ちょ、頭撫でるのはやめろよ! 周囲の視線が痛い……」
「皆さんガチガチに緊張している先輩が微笑ましいのですわよ。 ね? おばさま?」
微笑みながらこちらをみていたおばあさんに沙耶乃は声をかける。
「青春ねえ。 彼氏さんも緊張してないでちゃんと彼女をエスコートしてあげなきゃだめよ?」
「ちょ、おばあさん!? こいつ彼女じゃないですからね!?」
「ぐすん。 彼ったらいつもこう言うんです……」
おいこら! 関係ない人を巻き込んでまで変な悪戯するんじゃない!!
あと、お前の嘘泣きは役者もビックリなレベルの完成度だから乱用すんな!
「あなたの恥ずかしい気持ちもわからなくはないけど、気持ちはちゃんと言葉と行動で示さなきゃ伝わらないのよ。 好きなんでしょう彼女のこと?」
おい、浦影! キラキラした瞳でこっち見んな! 瞳の奥が爆笑してんの気づいてるんだぞ!
はぁ……これ言うまでおばあさん帰ってくれないやつだよね。 ノーリスクで美少女に告白できるチャンスだよ! やったね!
何この状況……つら……
「はい、好き……です。 ちゃんとエスコートして帰りますね。 ありがとうございました」
うんうんと頷いたおばあさんに頭を下げると沙耶乃の手を引いて足早にその場を立ち去った。
「ごめんなさい先輩。 わたくしはまだ先輩のことをよく知らないのでそのご好意にお応えする事はできませんの……」
沙耶乃は引かれていた手を振り払い悪戯っぽく笑った。
なんで好きって言わされた上に振られなきゃいけないのォォ!!
「お、俺の純潔が……」
「どうせ先輩に彼女ができる日など来ないのですから気にする必要はありませんわ!」
「酷えな! そんなこと言われたら先輩泣いちゃうぞ!」
「酷いだなんて心外ですわ。 わたくしとの契約は生涯有効ですのよ?」
「いつの間に俺はお前の所有物になったんだよ!」
「生涯童貞だなんて可哀想ですわね…… あ、当然魔法が使えるようになったらわたくしに一番最初に見せてくださいますわよね?」
「その発言はセクハラじゃね!? てか、なんでそんな興味津々なんだよ!」
「可愛い女の子からのセクハラなんて先輩にはご褒美でしたわね。 じゃあ、そのお礼に魔法を……」
「ご褒美とか言うな! どんだけ魔法好きなの!?」
「魔法は全オタクの夢ではありませんか! 先輩には分からないんですの!?」
その後、各々の自宅への別れ道まで延々と魔法の魅力を力説されるのだった。
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