第3話 本当の気持ち

 ——翌日 昼休み

 屋上に来ると先に来ていたお友達(?)と目が合う。

 「よう、浦影」

 「ごきげんよう、先輩」

 今日は少し対抗して先制とか牽制をしてみようと決めていた。

 ひとまず挨拶は先行したぞ……

 「隣、座ってもいいか?」

 「ええ、構いませんわよ」

 お弁当のバスケットを膝に移し開けてくれたやたら隣に近いベンチに座る。

 今日も沙耶乃の隣は香水なのか良い匂いがした。

 ここまで順調に先制してるな……

 今のところ俺リア充。 いぇーい!

 あれ……? 雑談ってなに話せば良いんだっけ。

 授業以外で人と話す機会なくて全然わかんねぇ……

 「今日も凄く熱いね」

 「そうですわね」

 なに俺、トーク力なさすぎじゃね!? 会話すら続かないんだけど!

 「お弁当食べないのか?」

 「今食べ始めようとしていたところですわ」

 「お、俺も……」

 少し動けば体が触れるほど近く並んだ二人は会話もなく黙々とお弁当を食べる。

 気まずい……遊ばれてた今までのがなんか楽しく思えてきたんだけど!?

 おかしな言動のない沙耶乃はただの美少女でしかない。

 気まずいより寧ろ緊張してきた……

 俺なにやってるんだろ。 美少女のこんなに近くで黙々とお弁当食ってるなんて。

 そもそもコイツの事よく知らないし……

 「なあ、お前が2週間前の入学式後の自己紹介でなんか面白いこと言ったって噂を聞いたんだがどんなこと言ったんだ?」

 いつもの調子に戻って振りまわされた方が楽しい気すらして聞いてみた。

 俺ってマゾなの? 違うよ断じて!

 そんな俺の思いとは反対に沙耶乃は真面目な雰囲気で語り出す。

 「わたくし、前の学園では友達のいない大人しい女の子でしたの」

 まじか。 想像もつかないけど確かに今の沙耶乃は大人しい女の子そのものにしか見えない。

 「入学から卒業までずっと、ずっと一人でしたの」

 入学から卒業までずっと一人……その辛さは俺にもわかる。 同じだから。

 「だから、今度は明るく面白くなってお友達ができるように頑張ったの……」 

 「でも、人と話してこなかったわたくしにはうまく出来なくて……また失敗して」

 沙耶乃は両手を膝の上で強く握り震える声で言った。

 「変な子って思われるくらいならまだよかった。 だって誰も私に関わろうとはしてくれないのですもの……」

 我慢していたものを吐き出すように大粒の涙をこぼした沙耶乃に俺は共感を覚えた。

 「ねえ先輩、わたくしはなにを間違えたの……? どうすればよかったの……?」

 涙で濡れた瞳で見つめられる。 それは俺もずっと解らなくて失敗を繰り返した疑問。

 でも沙耶乃は一度失敗したことをもう一度繰り返して、一人だった俺に声をかけてくれたんだな……

 俺には怖くてそんなことはできない。 失敗が怖いから……

 「浦影、俺の話も聞いてくれるか……?」

 沙耶乃は小さく頷き見つめてくる。

 誰かに伝えて変に思われるのが怖くてずっと言えなかった気持ちを沙耶乃なら受け止めてくれる気がした。

 だから頑張ってみる。

 「俺も前の学園の入学式で失敗して、ずっと一人で卒業まで過ごしてた。 今度こそは頑張って友達を作るって意気込んで去年入学したのに……誰にも声をかけることができなかった……」

 言葉に詰まってしまう。 また拒絶されるのが怖い。 否定されるのが怖いから。

 「また失敗するのが怖かったから……最初から誰とも関わらない方が幸せな気がしてたんだ」

 沙耶乃は黙って聞いてくれていた。 否定も肯定もせずにでも真剣に。

 だから言える。 飾ることなく秘めていた気持ちを。

 「でも、ずっと寂しかったんだ……辛かった。 楽しそうな周りを見るのも、こうやって自分と向き合うのも全部が」

 「わたくしもわかりますわ……毎日帰宅したわたくしに学園は楽しいかと笑顔で聞いてくる家族も、どうしたらいいのか分からない自分自身も。 全てが嫌で。 怖かった」

「でも、浦影がここで俺に声をかけてくれて……友達って言ってくれて。 俺は凄く嬉しかった。 救われた気がしたんだ」

 無理に変わらなくても受け入れてくれる人は居るって思えたから。

 変わらなくてもいいんだって思うと少し楽になれた。

 「だからきっと、変わろうと無理をするは必要ないんじゃないかなって思う。 少なくとも俺は浦影の友達だから……」

 「先輩は、わたくしを拒絶しませんか……?」

 「しないよ。 俺を救ってくれた友達だから」

 「病める時も健やかなる時もわたくしを拒絶しないと誓いますか……?」

 沙耶乃は涙で濡れた顔で笑って言った。

 なんだよ結婚すんの俺!?

 「誓いますの? 誓いませんの?」

 よかった、いつもの感じ戻ってきたみたいだね。

 「契約されちゃったし、誓わざるを得ないよな」

 俺も久しぶりに笑って話せた気がする。 若干苦笑い入ってるけど。

 「まあ、それでいいですわ。 サーヴァント! 今日から一緒に帰りますわよ」

 なんだよちょっと浮かれちゃって……わかるよ。 友達ができたんだもんね。

 「おう、楽しみにしてるわ」

 その後、二人はそれぞれ教室に帰りそわそわしながら午後の授業を聞き流すのだった。

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