第2話 ロシアンシューと間接キス

 ——翌日 昼休み

 なんで無意識に屋上まで来ちゃったのォォ!!

 一年に渡る屋上ぼっち飯生活によって昼休みになると自動で屋上に来る機能が実装されたみたいだよ。 やったね!

 どうやら屋上には先客がいたようで黒髪美少女と目が合う。

 うん、いるね……だって明日も来いって言ってたし。

 「あら、先輩。 ごきげんよう」

 「こんにちは。 浦影……」

 これで会話が終われば黒髪美少女に挨拶されて幸せ! で終われるのにな……

 「お座りになってはいかがですか? 陰気な男性に正面から見つめられると……少々不安感を覚えてしまって……」

 屋上には二人掛けの小さなベンチひとつしかない。 日差しで灼けたコンクリートの床に座れってか……鬼じゃん。

 てか、陰気とか不安になるとか挨拶の次に出てくる言葉じゃないよね普通。 失礼すぎない!?

 「灼けたコンクリートに座るってなんの拷問だよ! 俺がなにをした!」

 「まぁ。 それはとても素敵な拷問ですわね。 でも、ベンチが空いてますわよ?」

 沙耶乃は隣に置いていたバスケットを膝に乗せるとお淑やかな笑みを浮かべて座りなさいと自分の隣を指差す。

 「ふふっ、ご心配なさらなくても大丈夫ですわよ? 可愛い女の子の隣に座っても無くなるものはありませんわ。 初恋以外は……」

 どういう思考回路してたらそういう話になるの!? あと、昨日シュークリームも無くなったぜ? しかも二個。

 「わたくし待たされるのはあまり好きではありませんの」

 なんでちょっとキレ気味なの! 怖い……大人しく隣に座ろう……

 「し、失礼します……」

 「先輩とわたくしはお友達なのですから隣に座るのは当たり前ですわ!」

 沙耶乃はキレ気味だった数秒前とは打って変わり満足そうに言った。

 この子気持ちの高低差やばくない……? 為替よりも安定感ないよ?

 てか、何だか凄く近いんだけど。 凄く良い匂いもするし……

 美少女とこんなに近づいてるなんて会話が無ければ俺ってリア充なのでは……?

 「これ……差し上げますわ」

 沙耶乃が白い包紙に包まれた丸い物を二つ手渡してくる。

 まさかこれ……昨日のお詫びか……?

 「ありがと、開けるな?」

 やはり中身はシュークリームだった。 しかもかなり豪華な。

 「今朝うちの料理人に作らせたものですわ。 遠慮なくお召し上がりくださるかしら?」

 「いただきます……」

 めちゃくちゃ美味い。 これは昨日安物と言われたのも納得できるレベルだね。

 うん。 許す。

 「めちゃくちゃ美味いな、これ。 昨日のお詫びってことなのか……?」

 「あのあとわたくし反省しましたの。 シュークリームが二つも持ってくるほど先輩はお好きでしたのに……」

 根はいい子らしい。 ちょっと暴走しすぎなところが多すぎるけど。

 「もうひとついかがですか?」

 二つ目を食べ終わると沙耶乃は包みをもうひとつ差し出してくる。

 「じゃあ、遠慮なく」

 受け取った包みを開いて大きく一口食べる。

 「うん、美味……って辛っ!! なにこれ!?」

 「わさび唐辛子味ですわ」

 辛いなんてレベルじゃない。 口の中が痛いんだけど!

 悶絶する俺を愉快そうに眺めんな。 てか爆笑してるじゃん!!

 「お茶でしたらありますけど。 お飲みになります?」

 なんでもいいから早く飲み物で口の中を流したかったので即答で何度も頷いた。

 沙耶乃は水筒についたコップを取り外しお茶を注いだ。

 「先輩、お茶ですわ」

 差し出されたコップを奪い取る勢いで受け取ると一気に飲み干す。

 「熱ッ!! これ熱湯じゃん!! 最悪だァァ!!!」

 沸かしたてなのではと言うほどに熱いお茶を飲み叫ぶ。

 「先輩……わたくしとの間接キスがそれほどに最悪でしたか……申し訳ありません……」

 目尻に指を当てて涙目で謝る沙耶乃をみて冷静になる。

 間接キス……浦影と。 変わり者に違いはないがこんなに可愛い女の子と……

 「ごめん。 浦影との間接キスが最悪だったわけじゃない…… 寧ろ嬉しいかな……?」

 はにかみながら真面目に答えた俺を沙耶乃は潤んだ瞳で見つめる。

 照れるだろやめろよ……。

 沙耶乃は目を逸らすと大きくため息をついた。

 「寧ろ嬉しいかな……ドヤ。 なにそれ気持ちわる」

 ちょ、酷えな!

 「先輩、こんなに暑いのにこんなに熱いお茶飲む方がいるとお思いですの?」

 ああああ! またやられたのかよ!

 喜んでしまった上に変なこと言ってしまったことを後悔した。

 「わたくし、お茶は熱々がいちばん好きですの。 年中ホットを飲むほど」

 沙耶乃は少し顔を赤くし自分の唇に触れる。

 えっ……? 間接キスは本当……?

 「へ、変な味とか……感じませんでしたの……?」

 顔を赤くしたまま聞いてくる。

 なんて答えればいいのだろう。

 「……感じたのですわね……」

 なにも言わなかった為かそう解釈した沙耶乃は潤んだ瞳から涙を溢す。

 「……嘘泣きだろ?」

 「あら、気づいてましたの?」

 「流石に二度は通用しないぜ!?」

 「ちなみに昨日忘れて帰った水筒に熱湯と茶葉をここにくる前に淹れてきたのですわ」

 「えっ?」

 「洗うのが面倒だった為そのまま淹れましたので間接キスと言えるのかも知れませんわね?」

 これは嘘か……?本当か……?

 「では、また明日もお待ちしていますわ。 先輩」

 沙耶乃は精々悩むがいいと言いたげに微笑むと校舎へと入っていった。

 どっちなんだ……? いくら考えても結論は出なかった。




————————————————————————————————————



読んでくださりありがとうございます!

気に入ってもらえましたら下記リンクの作品トップから評価してもらえると嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/works/16817330647576644602

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る