第5話 なんでウチにいるの!?

 ——翌日 登校時

 「学園行ってきまーす」

 リビングにいた両親に声をかけ玄関に向かう。

 はぁ……学園行きたくねえな……でも行かなきゃ沙耶乃に文句言われるもんね……

 頑張っていこ。 でも、別に沙耶乃に会いたいわけじゃないし……ないよな俺……?

 覚悟を決めて玄関のドアを開ける。 あれ、なんか沙耶乃の幻覚見えたぞ。

 おいおい、ほんとうは沙耶乃に会いたいのか俺……?

 無意識に閉めていたドアをもう一度開けていざ外へ……

 「って居るし! なんで俺んちの前にいるの!?」

 やはり玄関の外には悪戯っぽい微笑みを浮かべた沙耶乃がいた。

 「先輩? わたくしに朝から会えて嬉しいのは分かりましたからもう少しお静かにお願いいたしますわ」

 「まだ早朝だもんね……気を付けなきゃ。 って、違う! どうして俺の家知ってんだ!」

 「ふふ、ひ・み・つ!」

 「ふふ。 じゃねえよ! 普通に怖えわ!」

 「大丈夫? 何かあったの?」

 玄関で大声を出して騒ぐ俺を心配したのかリビングから出てきた両親が、玄関に立つ黒髪美少女を凝視する。

 やばい、終わった。 何この状況……絶対面倒事起こるやつじゃん。

 「ついにうちの息子にも迎えにきてくれる可愛い彼女ができたのね……」

 「一時は友達すら居ないんじゃないかと心配したものだが……」

 ちょ、父さん母さん何泣いてんの!? あと、浦影。 なんでお前はそんな嬉々としてんだ!

 「おはようございます。 お父様、お母様。 わたくし浦影沙耶乃と申します」

 「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。 優柔不断で頼りない奴ではありますが……息子をどうかよろしくお願いします」

 俺を置いて話がめっちゃ進んでるし両親誤解してるし……

 「ちょ、まって! 浦影は彼女なんかじゃないからね!?」

 「たとえ照れ隠しでも彼女じゃないは酷いんじゃないのか?」

 えー、俺怒られんの!? 理不尽すぎる!!

 「先輩はいつもこう言うんです……でも、わたくしもう慣れましたから……」

 おいこら嘘泣きすんな! てか、いつもって昨日がこのやり取り初めてだよね!?

 「うちのバカ息子がすみません……今晩キツく躾けて置きますので……」

 「母さん!? 俺何されんの!?」

 「人様の家のお嬢さんを泣かせておいてなんだその態度は」

 やべえ、今日は家にも帰りたくなくなってきた……つら……

 「浦影、早く行かないと遅刻するぞ」

 盛大に勘違いした両親を無視して、今にも吹き出しそうに俯く沙耶乃に声をかける。

 「じゃあ、今度こそ学園行ってくるから」

 沙耶乃は丁寧に俺の両親に頭を下げると駆け寄ってくる。

 「行きましょう! 先輩」

 「おい! なんで俺の手を握っ…」

 握られてしまった手を離そうとすると背後から刺すほどに痛い視線を感じて振り返る。

 怖っ……めっちゃ見られてるし!

 諦めて沙耶乃と手を繋いだまま学園に向かって歩き始めるのだった。


 「そろそろ手を離してもらえないか?」

 「良いんですの? お母様がついて来ていますわよ」

 沙耶乃が顔を近づけて耳打ちしてくる。

 え、怖すぎでしょ! 慌てて振り返ってみるも誰もいない。

 「先輩って、お母様の言う通り”バカ”息子なんですのね」

 なんだ! 嘘かよ騙されたじゃん! てか、バカ息子のバカだけ語気強くなかった!?

 沙耶乃は我慢していた笑いを堪えきれなくなり大笑いする。

 「ふふふ、先輩が今晩お説教を受けるって……笑いが収まりませんわ!」

 「ほんとだよ理不尽だよね! 誰のせいだよ!」

 「って、お前のせいだよ!!」

 状況について行けなさすぎてセルフツッコミしちゃったじゃん! しかも滑ってるし!

 あー、なんか疲れたら冷静になってきた……

 「そもそも、お前はよかったのか? 昨日のお婆さんと違ってこれからも顔を合わせるかもしれない人に勘違いされて」

 朝の通学時間だし同じ制服きた人にも手を繋いでるところ結構見られてるぜ?

 「わたくし、先輩のこと……嫌いではありませんから……」

 沙耶乃は歩みを止め、まっすぐと俺の目を見つめてくる。

 「浦影……」

 「……別に特別好きでもないけど」

 沙耶乃は目を逸らしてボソリと呟いた。

 期待させてから落とすな! ドキドキして損したわ!

 いや、期待してたのか……俺は……?

 「先輩もしかして期待しちゃったんですの?」

 沙耶乃のいつもの悪戯っぽい笑顔に何故かちょっとムカつく以外の気持ちを覚えてしまった。

 変なこと考えるな俺……相手は噂の漆黒堕天使ちゃんだぞ……

 めちゃくちゃ美少女だけど。

 「バカにされてちょっとムカついただけだよ!」

 ムカつく以外の気持ちを感じてしまったのは伏せた。

 なんか悔しいから……

 「先輩のお母様に明日お伝えすることができましたわね……」

 「ごめんね! ムカついたなんて嘘です!」

 「まあ、嘘でしたの? 嘘をつかれたって報告しないといけませんわね……」

 「理不尽だ! どうすれば許してもらえるの!?」

 「じゃあ、学園に到着しましたので手を離してもらえます?」

 あ……手を繋いだまま校門まで来ちゃた……

 慌てて手を離すと沙耶乃は一瞬だけ笑顔を見せて校舎へと入る雑踏へ消えていった。

 一方俺は先ほどまで繋いでいた手のひらを眺めて予鈴がなるまで棒立ちしていたのだった。

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