第6話 風紀が乱れるのはよくないんです!


「俺たちの核になった原石が隣接しているものだったのだろうな。兄に触れていると落ち着くのだ」


 シトリンは冗談を言えるような鉱物人形ではない。

 ということはこれは真実。

 私がアメシストを見ると、照れ笑いを浮かべていた。


「いやあ、ほんと、触れていると回復が早いんだよねえ。理に適っているでしょ?」


 まじか。

 鉱物人形が原石だった頃の影響を受けるだなんて初めて聞いた。論文が書けそうなネタだな。

 しかしなるほど。さっき私の目の前でアメシストに抱きしめられていたシトリンが抵抗しなかったのも、それで頷ける。普段からくっつき合っていて、しかもそれで肉体的にも精神的にも安定するのであれば、咄嗟に拒みはしないだろう。どうしたのだと疑問に思えど、されるがままになってしまうのはわかる気がする。


「でも」


 アメシストの手が私の頬を撫でる。

 触れられて、私は現状が危機的な場面であることを思い出した。

 ぴくりと身体を震わせる。


「僕は君と触れ合っていたほうがもっと気持ちがいいんじゃないかなって考えてるよ?」


 紫水晶の瞳が私を映す。

 まずい。話題をそらさないと酔わされてしまう!


「そ、そんなことはないですって」

「どちらが気持ちがいいか、確かめてみないことにはわからないと思うが?」


 反対側からシトリンの手が伸びてきて、私の鎖骨をなぞる。服を脱がそうと考えているのが視線の動きから明白だ。


「いやいやいや。お二方とも落ち着いてください。よくないです。こういうことはよくないんですって。部隊の風紀が乱れたら、今後の士気にも関わります。お付き合いもしていない男女が、身体を触れ合わせるのはよくないんですって」

「む……風紀の乱れ、か」


 先に私の言葉に反応したのはシトリンのほうだった。

 

「爛れた関係って言うんですか、そういうの。ダイヤさんやサファイヤさんが嫌うでしょ!」


 ウチの部隊で堅物だと名高いふたりの名を出す。

 金剛石の鉱物人形・ダイヤも、青玉の鉱物人形・サファイヤも潔癖のきらいがあり、女の子を口説きがちな紅玉の鉱物人形・ルビを叱っている場面によく遭遇する。私だけでなく、鉱物人形たちもそういう認識のはずだ。

 シトリンは怯んだが、アメシストには刺さらなかったらしかった。アメシストの指先が私の唇を弄ぶ。


「どうだろう。僕は君のこと、ちゃんと大好きだよ? 弟のこと以上に、君に興味があるんだ」


 そう告げて。

 アメシストの綺麗な顔が近づいてきて。

 あ、これ、ダメなやつ……

 逃げられないままに口づけを交わした。

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