第2話 本音と建前
建前としては、私が契約主である以上、鉱物人形たちの健康状態を気にかける必要があり、肉体及び精神に異常がないか見ていただけで、個人的な感情は何もない、ということである。私は彼らを異性として見ていないし、ましてや自分とどうこうなどとは想像したこともない。
まあ、婚約していた男に逃げられて、年齢的に普通の結婚は難しいからと精霊使いになったような女である。女としての価値はもうないと社会的に捨てられたわけで、そんな私が彼ら精霊サマと恋愛だなど妄想するのは憚れるというものだ。おこがましいではないか。
本音としては。
私はアメシストとシトリンの距離が他の鉱物人形たちよりも近いことをたいそう気に入っていた。美青年と美青年、しかも色違いのよく似た男が並んでいるだけで癒される。健康にいい。
兄弟で気にかけているのもいい。兄弟特有の触れ合いが多いことも最高にグッとくる。この仕事をしていてよかったと思えるくらいに、彼ら兄弟がセットで何かしている様を見て幸せにふけっていた。
私が力説すると、ふたりは顔を見合わせた。シトリンはよくわからないといった様子で首を傾げたが、アメシストはポンっと両手を叩いてニコッと笑った。
「なるほど、マスターは僕たちがこうしているのが好きなんだね?」
私の訴えを理解したらしい。アメシストはシトリンに一歩近づくと、ぎゅっと抱きしめた。
シトリンが目をまんまるくしている。でも拒んではいないようで、されるがままだ。
私は思わずゴクっと生唾を飲み込んだ。
アメシストはシトリンを腕の中に捕まえたまま明るく笑った。
「あっはっは~。予想以上にいい反応。僕らの恋人みたいな言動に興味があるのかぁ」
「なるほど。それはわかったが、兄よ、離せ。ほかの鉱物人形たちと比べたら距離が近いと捉えられてしまうことは理解できるが、俺たちは恋人じゃないんだ」
シトリンが身じろぎせずにたんたんと抗議すると、アメシストが悲しげな表情を浮かべた。
「え、僕は弟のこと、好きだよ?」
「お、俺も兄のことは嫌いではないが、そういうことじゃない」
「ふふ。それならいいや」
なんだこのご褒美タイム。ご馳走様です。
弟から嫌いではないという評価をもらって、満足げにアメシストが離れた。改めて私に向かい合う。真面目そうな表情に変わっていた。
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