第3話 根回し済みですか。
「それはそれで、マスター? 僕は君に触りたいんだよ」
「俺も兄と同じ気持ちだ」
「私は興味ないです」
即答だった。想像以上に冷たい声が出た。
それはそれ、これはこれなのだ。
沈黙。
じっとふたりから見つめられると冷や汗が出た。
見た目が美しい彼らだが、魔物と戦うために召喚した兵器である。従える力を持っている私ではあるが、だからといってパワーで押されたらあっさり負ける。身体能力では確実に劣るので、私が契約解除の術を使う前に圧されるだろう。
実力戦にならないために、関係は良好であるように努めよとは精霊使いになる研修でよく言われているが、仲良くなりすぎても詰みではなかろうか。
さて、どうしたものか。
強引に迫ってくるようなら、正面から戦わない方法を使って契約解除をすることは可能だろう。だが、この部隊でも上位の戦力であるアメシストとシトリンを失うのは、今後も増えていくだろう任務を考えると得策ではない。
誰か止めに来ないかな……
他力本願。
これでも私は優秀な精霊使いなので、確認されている鉱物人形のほとんどをある程度の戦力を伴って保持している。単体でアメシストとシトリンとやり合うことはできないと思われるが、全員であればどうにかできよう。
私が執務室の出入り口をチラッと見やれば、アメシストは薄く笑った。
「みんなには大事な話をしているから入らないようにって言ってあるよ」
「根回し済みですか……」
大食堂で鉱物人形たちと夕食を終えたあと、ふたりから話があると言われてこの部屋に入った。深刻そうな様子に何かと思えばこの告白だったわけで。
私は大きく息を吐いた。
「何が問題なのかな?」
首を傾げるアメシストはすごく不思議そうだ。私が何に困っているのか想像できていない様子である。
私は説得を試みることにする。
「……私は魔力を持っているだけの人間です。その価値しかないから精霊使いになったわけで。そして、偉大なる精霊であるあなた方は、私と契約をしているから私の下で手を貸してくださっているに過ぎないわけですよ。なので、私があなた方と任務以外の関係を結ぶのは不釣り合いだと――」
「僕たちが君を望んでいるんだよ?」
ずいっとアメシストの美麗な顔が近づいてきて、そちらに気を取られている間に右手を掴まれた。
「そうだ。だから、選ぶだけでいい。どちらか、あるいは俺たちふたりを」
反対側からもシトリンの煌びやかな顔が近づいてきて、同じように左手を取られた。
「いやいや。私の気持ちはそういう話な訳で、そもそも協会も禁じているんですよ。交わるなら結婚という形で契約をし、一体だけにしろって」
道徳的な意味合いか倫理的な意味合いなのかわからないが、交わることを前提として鉱物人形と結婚してもいいが、一体のみに限ると協会によって決められている。
これだけ華やかな鉱物人形に囲まれていたら、気の迷いで交わる者も多いことだろう。そもそも、鉱物人形が破損した場合は精霊使いが魔力を与えるのだが、その方法が体液を介して行うのが効率的とされているあたり、なるべくしてなるんじゃないかと思うが、いかがなものか。
手を離せと振っているのに、全然どうにもならない。さすがは戦場を駆け回る鉱物人形だ。
私の言葉に、アメシストはニコッと笑った。
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