鉱物人形《ミネラドール》と精霊使い

一花カナウ・ただふみ

見ているだけでよかったはずが、気づけば間に挟まれまして。

第1話 追い詰められました。

 戦況を聞いて軍議を開くための執務室。

 職場であるはずのその場所で、私は今、貞操の危機に瀕している。


「――ねえ、君はどっちが好みなの?」


 紫水晶そのもののの美しい瞳が私の目を覗く。壁に追いやられているから逃げられるはずはなく、渋々顔を横にそむける。すると今度は別の、よく似た黄水晶の瞳が私を捕らえた。


「君は弟のほうが好き?」


 耳元で囁かれてたまらず首を横に振る。


「どちらと言わず、両方であるなら、俺はそれなりに努めるが」


 澄んだ黄色い瞳の彼が真面目すぎる声で誘惑してくる。

 ってか、そういう問題じゃないんですけど!

 私はプルプルと震えながら、左右から迫ってくる彼らの胸を押した。

 仕方ないといった様子で、ふたりは距離をとってくれる。とはいえ、肉薄している。私が絶対に逃げられない距離だ。

 ふたりを私は睨む。


「いいですか、アメシストさん、シトリンさん!」


 名を呼んで威嚇。

 彼らは驚いた顔をして、私を見つめた。双子みたいなものだけに、彼らの表情も態度もどことなく似ている。

 紫水晶の鉱物人形、アメシスト。黄水晶の鉱物人形、シトリン。鉱物人形は美形の男性型であるので、彼らもまたスラリとした体型の美青年である。鉱物人形に年齢の概念はないが、彼らの見た目は二十代半ばといったところだろう。若々しく逞しいのも鉱物人形の特徴だ。

 柔和な表情であることが多く、天然ボケで純粋な感性の持ち主である兄がアメシストだ。どことなく色気がある。紫水晶の力を授かっているだけあってお酒には強いし実際に酔わないのだが、契約主(マスター)である精霊使いを恋に酔わせるとして有名。

 一方、素のときは気難しい表情をしがちで生真面目さが売りの弟がシトリンだ。兄と比べたら男らしい振る舞いをしがち。黄水晶の力を授かっており、金運と繁栄をもたらすとされる。実際、彼がいる部隊は財政難とは無縁の傾向があるし、この部隊もまた金策で苦労したことはない。

 そんな彼らを従えているのが、精霊使いの私。つまりは私のほうが立場が上。ここは毅然とした態度で説得し、任務に影響が出ないように努めなければならない。

 覚悟を決めて私は両手を腰にあてた。


「私はあなた方と関係を持とうなどとは考えておりません! 私があなた方をよく見ていたのは、おふたりがとてもとても仲がよくて絵になるからであって、そこに私は不要です。私は壁です。いいですかっ⁉︎」


 あれ。しまった。本音のほうが出ちゃったぞ。

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