壊し愛（統合版）

3．💝💝🚧

──舞台は整った

電子書籍の端末を手に入れた時に私は、ようやく今が何月何日であるのか、知ることができた。

11月3日

全部書けと言われても、自分の気持ちがよく分からない。

とにかくぐちゃぐちゃ。

ユラが熱を出した。あの男もちゃんと人の子だったらしい。

11月7日

ユラの熱が下がったから自分の部屋に戻ったら、また眠れなくなっていた。

ユラと一緒に眠ると寝付きやすいことに気が付いた。

この二日で久しぶりによく寝た気がする。

あのココアがなくても、眠りやすくなるなんて、ユラは不思議。

『支払い』をしているうちに、眠りについていた。

11月8日

あの野郎、私が襲いかかりに行く時間に待ち伏せして起きていて、布団の隣をポンポンと叩いて来やがった。

でも、まぁ、あたしも眠れなかったから、試しに来てみただけだったんだけど……。

やはり、ユラの隣はよく眠れた。

11月12日

心地よすぎて困る。溶かされそう。

ユラの話し方も心地よくて、つい長々と話を聞いてしまう。

またお姉さんとも話した。

気付いたらユラの隣で一緒になってフルーツを食べられるようになっていた。

ほんの少しの変化だけれど、それを見てユラは笑って頭を撫でてくれる。

普通にはまだ程遠いと落ち込めば、彼はまた教えてくれた。

『比べるなら、過去の自分と』

11月15日

私、ユラの話を書きすぎじゃないか？

自分の話を書かないと意味が無いのかな？

それとも、ユラに気持ちを振り回されてる自分の気持ちとして書いてるなら、このままで間違っていないのかな。

確かに前よりも、気持ちを出しやすくなった気がする。

毎日が無理でも週4日を基準に書くように言われてきた。

習慣化？身につくのにこのペースを続けるのが最低ラインらしい。

11月17日

慣れてきたのか、最初の頃と比べて明らかに書く量が増えてきたことに気付く。

最近はユラの隣にばかりいて、自分の部屋で寝ることも減ってきた。

ユラの隣で寝て、ユラの隣で目覚める。

そうすると日記を書く時間なんて、ユラの仕事の時間しかとれなくて。

けれどユラは私を引き止めたまま昼間の仕事はあまりあの部屋に引きこもらなくなって、夜中に数時間だけ引きこもる。

そんなユラに佐渡さんがまた殴り込みに来ていた。

そんな騒がしさにも、幸せを感じた。

ユラ

ゆら

優藍、優藍、優藍──

11月19日

医者が来た。薬を受け取った。

これでもう、終わらせなければいけない。

優藍（ゆら）

私が初めて、心から信じたいと思えた人。

私のガチガチな固定概念を、壊してくれた人。

この時期、もう朝日の登る時間がだいぶ遅くなってきた。

まだ外は暗く、扉を開けた先にあるこの寝室も、暗かった。

ゆらりゆらりと、一歩一歩、横になっている彼に近付く。

彼の頭の横に両手をついてそこに乗り上げれば、彼はゆっくりと目を開き、私に視線を流す。

「どうしたの？あかね」

呼吸が、浅くなっていく。

けれどこれは症状じゃなく、緊張。

私が素直になる、最後の、決断。

ごくり、つばを飲み込む。

乾ききった口の中、顔に集まる熱、けれど今ならそんな赤みも見られない。

手汗？知るか。

そんな細かいことを考えてる余裕はもう、これっぽっちもない。

暗い部屋の中、どうしても彼と最後の日、欲しいものがあった。

忘れたくないものがあった。

最後、だからこそ。

だから、優藍。

最後にするから、優藍。

「あんたが欲しい」

もう、見て見ぬ振りなんて耐えられなくなった、私の気持ち。

彼のそれが例え、偽りの愛だったとしても。

これまで向けられてきた言葉に、例え、この人の本当の気持ちが込められていなかったとしても。

彼は、小さく息を吐く。

「待ってたよ」

薄暗く見えにくい中、暗闇に目が慣れてきて、微かに細まる瞳を捉える。

「でもちょっと誘い方が男前すぎない？まさか夜這いに来るとは……」

「知らない。欲しいもんは欲しくなんの」

「あの時のバナナジュースやベリージュースの時みたいに？」

思わずギュッと握った手のひらに、あの時のことが思い返される。

彼が言いたいのは、私の小さな独占欲のこと、なんだろう。

私のものだと思えば、それは私のもの、誰にもあげない。

自分のものと他人のものの区別はきっちり付けたいタイプだ。

私のものは大事なもの、それ以外の大半はどうでもいい。

だからこそ、私の中にいた大事な大事なあの子を奪われ、その原因となった自分すら恨み、そして『加害者』に対しても強い殺意が芽生えた。

私は決して、優しい人間なんかではない。

私の受け入れた世界のものを壊されたら、奪った相手も壊してやる。

──優藍、は。

優藍は、そんな私の独占欲の世界に入り込んでしまった。

最近は寝る時、優藍に抱えられて寝ていたから、そのせいもある。

優藍のことを別に私のものだとか、独占したいとかいうわけじゃ………………いや、独占はちょっと、これから、するんだけど。

ちょっとだけ、少しだけ、私の好きにさせて欲しい。

優藍にとっては、迷惑極まりないことかもしれない。

待ってたとか言っておいて、実際はなんだこいつ？って思われてるかもしれない。

まぁ、それも『推察』なんだけど。

けど、でも、これで終わりにするから、そしたらもう我慢するから。

この時間だけ、この最後の幸せな時間だけ、彼に甘えて、優藍と私だけしか知らないこの時間を独占したい。

優藍となら、あのクズに植え付けられた男への抵抗感を、リセットさせてくれる気がする。

「優藍」

「ん？」

「……『支払い』、する」

そう言って私から、口付けた。

自分からは……初めてだったかもしれない。

数度、口付けると、優藍が布団を持ち上げて、私に入るよう指示する。

「そこじゃ、寒いでしょう？」

優藍の体温で温まっているそこへ、するりと体を入れ込み、また彼に口を付ける。

「いいの？あかね」

「なにが」

「ハニートラップはもう絶対やらないんじゃなかった？」

『シてくれないの？』と聞かれる度、『絶っっっっっ対しない！！』と、そんな会話もしていた頃があった。

ハニートラップに挑んで失敗した後、数日はそのネタでからかわれていたのだ。

そして彼が誘ってくるように、殺意を刺激で返してくる毎日に、耐えて耐えて、耐えるだけだった。

なぜ耐えてたのか？

怖かったからだ。

呑まれて、流されて、殺意が消え失せてしまうことが、怖かったからだ。

この人は、欲を掻き立てるのが本当にうまい。

そして引き際も……私が欲しいと思った頃を見計らって止める。

私はずっとずっとずっと、お預けされて来ていた状態で。

そんな状態で殺意も、殺す理由すらもなくなってしまって、しかもこれからはもう会えなくなるのだから、もう。

──我慢なんてしたくない。

「トラップじゃないから」

「そう」

「私が……耐えられなくなっただけ」

欲しい。

欲しい、欲しい、彼が欲しい。

彼の刺激が、彼の温度が、彼の滑らかに触れる指先が。

彼の、本当の心……が。

心は、手に入れられなくても。

それでも優藍はきっと、私を受け入れてくれるんでしょう？

「あかね」

「ん」

彼からのキスが、降ってくる。

それだけで満足してしまっている私は、触れるだけのそこに段々と耐えられなくなってくる。

もっと、もっと深くまで来て、いいのに。

もっと深くまで、欲しいのに。

それなのに、浅い刺激しか、くれないから。

自ら唇を開く私に、一瞬彼の動きが止まる。

ぬるりと滑り込む舌は、唇の内側を撫でるだけで、奥まで来てくれない。

なんで？なんでいつも浅い所しか刺激してくれないの？

ぬるぬる、表面を浅く柔らかく刺激され、ムズムズとしてくる。

我慢……したくない。

私は自ら彼の舌に触れ、数度、ノックのようにタッチしてみた。

──────恥ずかし過ぎて死にそう。

ノックする舌に気付いた彼が、私にもノックをし返してくる。

ぬるりと軽く撫でれば、彼も軽く撫で返してくる。

そんな、戯れ。

同じことを返してくる、ということは。

目を開けば、目を細めて意地悪そうに笑む瞳と交差する。

つまり、欲しければやって欲しいことを自分からして来いと、きっとそういうことだ。

だから彼はいつも、その欲しがるラインで線を引く。

そこを越えてこない。

私から欲しがってくるまで、決して。

ちょっと悔しくなって、その少し出ている舌を甘噛みすれば、彼が急に深くまで入ってこようと口を大きく開く。

その動きに反射的に顔を引いて逃げようとするも、首の裏に回っていた手に阻まれて逃げられなかった。

舌を捕らえられ、浅い所から柔い甘噛みで引っ張り出し、どんどん内側まで噛み進めてくるようなその動きに、私ごと食べられてしまうような感覚に陥る。

なんだこれ、刺激の倍返し？

それに息切れを起こしていると、ようやく口が離された。

「まだキスしかしてないのに、あかね熱いね」

「き、急に、急にくる、から」

「びっくりさせちゃったかな？」

「なんでそんなに余裕ぶってんの！？」

くすくす、いつものように笑う彼に、なにが面白いのか、それとも私の反応で遊ばれているのかと、そう思っていたら。

「余裕？そんなのあると思ってる？」

鋭い瞳に、ドクリと鼓動が脈打つ。

その瞳だけで、熱くなってくる体。

「俺が抑え込んでる分は、後でキッチリ返してもらうから」

「……どういうこと？」

「うん、まぁ……そのうちわかることだよ」

愉しそうに笑う彼に、背筋がゾクリと凍る。

後で？

後でっていつ？今日？それとも、もっと未来を指してる……？

わからずに彷徨うその思考は、再び彼に塞がれた唇によって、彼方へと消えて行く。

上下の唇で食まれる感触にだんだんと慣れて来たのか、心地よく感じて来て、ゆっくりと恐る恐る彼の中に入って、中間あたりを柔らかく撫でる。

応えるようにして私の同じ位置を撫でる彼に、高揚感が増してきて、どんどん欲深くなっていく。

深く深く探っていく私に応えるように、側面を刺激されると同時に後頭部を柔らかく撫でられ、それが合図のように、さらに深く、絡まっていく。

口内への刺激と同時に、指が項を伝い、首筋を伝い、鎖骨を撫でていく。

彼から受ける刺激に、私の体が歓喜する。

優藍、優藍、もっとちょうだい。

彼の頭部に指を流すと、指の間を柔らかい髪の感触が撫でた。

頬に添えられた手により一旦離されると、近距離で彼の瞳とまた交差する。

その瞳には、早くも溶けきっている私が映っていた。

「何その顔」

「なに、が」

「すっごい唆（そそ）られる」

背中を下からつう……っと登ってくる指の感触に、腰がビクリと仰け反り、彼に体を押し付けるような形になってまた頬が熱くなる。

ゆっくりと、円を書くように触れられたかと思えば、背中に描くように予測できない動きをされる。

羽が触れるように軽く広げてはすぼめるような動きに、いちいち反応する体。

それを続けながら、首筋に埋められる唇に、またぴくりと反応する。

布団の中ということもあって、体が熱くて仕方がない。

ぎゅっと彼の服の胸元を掴むと、ぬるりとした感触が首筋を這う。

こ、れは。

この感じは、さっきのキスの時の……。

首筋を下から這って行く舌は、耳元に辿り着くと、耳たぶを遊ぶように食み、音を立てながら離される。

その音にまた、肩がピクリと跳ね、緊張する。

「あかね」

息も絶え絶えな私は、彼に視線だけを向けるけれど、耳元にいる彼とは視線が合わない。

彼の呼吸が、吐息が、耳を撫でる。

「気持ちい？」

「うっ、さい」

「威勢が良かったのは最初だけ？」

「なに？煽って、んの？」

煽られても、私にやれることなんて、わからなくて。

あ、でも、出来るとするなら。

私は余裕のない頭で思いついたことに、フッと笑う。

「煽られてあげる」

私は胸元を握っていた手を彼の腰元まで落とすと、その服の中に手を入れる。

体勢のせいで、片手しか上手く動かせない。

それで彼と同じように背に手を這わせてみるけれど。

余裕な男は私の耳の裏にまた舌を這わせて来て、また私の余裕が削られて行く。

「残念でした」

「なんで」

「言ったでしょう？男女で性感帯の場所が違うんだよ」

煽ろうと思ったけれど、やはりうまくいかず。

くすくすと笑われることに腹を立てた私は、彼の服を胸元まで一気にたくし上げた。

さすがにビクッと反応した優藍に、気分が良くなる。

理想とは全然違ったけれど。

「びっくりさせないでよ」

「どうせ、脱ぐでしょ？」

「気が早いし……脱がされる気もなかったんだけどなぁ」

「剥かれそう」とかいって笑う男に、まだ余裕があるのかとムカついて、彼の背中をあちこち触れてみるけれど、反応が見られない。

というか、背中広すぎ。

まるで私から抱きついているような状態じゃないかと自覚すると、また顔が熱くなった。

私が彼の背中に夢中になってそのポイントを探していると、ついに舌が耳の内側を這い出してそれどころではなくなる。

耳元付近で水音が立てられていてもここまで強く刺激になることは無かったのに、やはり直にそこで音を立てられると声が勝手に出てきてしまう。

あまりの刺激に、目の端から一粒、零れ落ちた。

彼はきっと今回、『本気』で。

その『本気』にさせるようなことを煽ったのは、自分、なんだけれど。

彼の今までしてきていた私への『仕返し』が、手を抜かれていたことだって、嫌でもわかった。

あんなの、この刺激の前じゃ、単なる戯れに過ぎない。

容赦なく責め立てられる水音。

いつの間にか回っていたもう片方の手で塞がれる、反対の耳。

聴覚の逃げ場を全て奪われ、その水音にしか意識が向けられない私は、逃げようと体が暴れるも、頭を抑えられているに等しい状態じゃ、逃げ場も何も無く。

ようやく耳から解放されたかと思ったら、今度は両耳を塞がれていて、真正面に彼の顔があった。

その瞳の奥には、両目が潤んでいる私が映っていて。

ふわりと笑う、いつもより少し愉しそうな顔に、悦びと恐怖を同時に感じていた。

顔が近付いてきて、まさか……？と思う。

口付けられた軽いリップ音が、塞がれた両耳に響き渡ると、嫌でも彼のしようとしてる事が予測出来てしまう。

まって、そう口に出す事も叶わないまま、塞がれていく唇。

整わない呼吸、逃げ場のない叫び、動きに激しさはないのに、ゆっくりと追い詰められていく。

深く、深く、重なっていく。

だめ、この男の『本気』は、ほぼこんな経験もないに等しい私には、毒でしかない。

しばらく口内を遊ばれてようやく離された頃には、私はもう文句を言えるほど気力が残っていなかった。

もう、恥ずかしいとか、そんなのはとっくに通り越して、考える余裕なんてものはなくて。

ただただ優藍を感じて、優藍から受ける刺激を受け止めるしか出来なくて、苦しいのに、離れてしまうとなぜか……もの足りなくなって。

「大丈夫？」

「……そう、見える？」

「見えないけど次行っていい？」

「え」

息切れも治まらない私の頬に、ひとつ、キスを落とす。

いつの間にか私を押し倒すように上にいた優藍は、ふふっと笑い、キスを落とした頬にゴリゴリと頬擦りをしてくるから。

なんだか今までまるで私の知らない人のような感覚になってたのに、「あぁ、優藍だ」って、実感してきて。

それをとても、心地よく感じた。

どんなに私の知らないあなたを見せられても、優藍だと実感すると、怖くなかった。

だって、優藍は私の本気で嫌がることをしない。

だからといって本心から求めることも、わかっているくせになかなかくれなくて、意地悪な所もあるけれど。

でも、優藍ならきっと、できる限り痛くしないでしてくれると思う。

そう思うのは、私が……優藍を信じてるということ、なんだろうか。

散々痛いことを経験してきた私には、全く想像出来ないけれど。

きっと痛いっちゃ痛いことだろうし、久しぶりなら尚更痛いだろうことは、変わらないだろうけれど。

それでも、優藍になら預けられる……いや、優藍に体も心も預けたい、この一瞬だけでもいいから。

今の、この時間だけは……。

そう思って、私の手の甲にキスをする彼を、受け入れていた。

手の甲からさらに手首の内側にまたキスを落とすと再び首筋に顔を埋める、優藍。

音を立てて落とされる彼の熱は、キスを始めた時よりずっと熱を持っていて、ムズムズとした刺激も強く感じている気がした。

首から降りて来た唇は、ルームウェア襟を引っ張り、服の下にまたキスを落とす。

そしてそのまま、吸い付かれるような感覚と、さっきまでと違ってその部分から離れない彼に、少しの違和感を覚える。

ようやくそこから離れた彼は、私に視線を合わせてニヤリと笑う。

「暗くて見えないね」

「なに、したの」

「何したと思う？」

知らない、わけじゃない。

吸い付かれることによって、その痕（あと）がつくこと。

それに、名前が付いていること。

『独占欲』の表れともいえること。

「なんで……」

ダメだ、深く考えてはいけない。

この人から離れたくなくなってしまう。

ぐっと歯を食いしばると、思考を散らすように今度は私が彼の襟を掴んで引き寄せ、首筋に噛み付いた。

また急に行動を起こした私に驚いたのか、ピクリと彼の肩が緊張するのを感じる。

唇ではむはむと柔く噛み付くと、彼は吐息を漏らした。

先程までとは違う反応に、私の心が熱を灯していく。

彼にされていたように恐る恐る舌を出し、舐める。

さらさらと、すべすべと、滑らかな感触に、少し嫉妬心さえ湧く。

なんでこんなに肌が綺麗なの、この男？

そうか、引きこもってるから紫外線浴びないんだ、肌も焼けていなくて白かったし、なんて羨ましい。

そんなことを考えていたらどんどん欲深く、彼を攻めていた。

首筋の、くぼみのライン、耳の下、そこから線に沿ってゆっくりと降りて行く。

鎖骨のラインから、広い肩の方まで唇を這わせてみた時、私の背中に彼の手が回ってくるのを感じた。

一瞬、動きを止めた、直後。

ぱちん、と微かな服のすれる音と共に開放される、胸元の締め付け。

寝る時以外はこの男と会う可能性がある時はずっと付けている、その締めつけを。

やはりあっさりと、服の上から外される、謎の手際の良さ。

「……だから、なんでそんな、手馴れてるの」

「別に手慣れてないよ。衣服の構造を頭に入れてるだけ」

いや、なんで男のアンタが女性下着の構造を熟知して……と、そこまで考えた所で腹の上を這ってきた指に、肩も腰も大きく跳ねる。

彼が私のこめかみに唇を寄せ、優しく触れると、腹の上に乗っている手もさわさわと、羽のように軽く触れてくる。

お腹、腰のライン、そしてお臍の周りを確かめるように、ゆっくりとゆっくりと撫でていく。

だんだんと上ってくる腕に、服もずり上がり、彼はまたあの時のように、胸の下のラインに指を這わせた。

やはり以前感じた通り、そのラインに沿って撫でられるだけで、それだけなのに、大きく期待感が増す。

ごくりと唾を飲み込み、彼の服をきゅっと握る。

「腕、首に回して」

そう指示され、少し躊躇（ためら）いの気持ちもあったけれど、これが素直になる最後のチャンスだと思ったら、彼に身を任せたいと思った。

ゆっくりとその首に両腕を巻き付けて、後頭部を軽く撫でる。

今日だけは、彼を受け入れたい。

流されてなんていない、これは私の意思。

私が今欲しいと思っているのは、優藍だから、そこから逃げたくない。

そんな視線を彼に向ければ、こめかみに頬擦りをした彼の指の動きが再開される。

下のラインに沿って中心から外側へと流れるように撫でられると、両脇をさわさわと触れる。

下着が鎖骨の上までずり上がっているのを感じる。

今、彼の顔がこめかみ辺りにあるから何とか耐えられているけれど、この先その肌を見られるかと思うと……抵抗してしまいそうだ。

彼の指はそのまま外側へと流れていき、わきの下に触れる。

くすぐったくてびくりと肩が上がる私に、ふっと吐息を吐くように笑う彼を感じる。

その微かな反応にさえ、喜びを感じている私は、どうやら今とても敏感になっているらしい。

彼の頭を、きゅっと引き寄せた。

「くすぐったい？」

「……くすぐったい」

「触ってほしい？」

わきの下を降りて来て、ふくらみの横のラインをさわさわと上下する。

なんで一息に触れてくれないのか。

焦らしているのか、それとも私のねだり待ちでもしているのか。

ねだるなんて、私らしくない、欲しいなんて素直に言えない、けれど、そうなんだけれど、それでもこれはあんまりだ。

欲しい、ずっと欲しいと思っている。

触ってほしい、もっと強い刺激が欲しい、その手に包まれたい、そんな期待感だけで呼吸がまた乱れて来る。

ぎゅっと彼を引き寄せても、そのラインを踏み越えて来てはくれない。

言葉に、出さないと、くれない、のか……。

ぐっと下唇を噛みしめてから、私はようやく重い口を開く。

「……ぃ」

「うん？」

「…………欲しぃ」

「どうしてほしいの？」

「……っ、そこ、触って」

「うん？どこ？」

……ぃ、意地悪！！！

「わかってるくせに！！」

くすくす、意地悪く笑う彼は、体を起こすと意地悪く笑っていた。

こ、この、鬼畜！！

体を離した優藍との隙間に、冷たい空気が流れ込んでくる。

けれど、興奮して怒っている私は、その視線の先に気付かなかった。

「うん、いい眺め」

「……は？」

すっかり服がずり上がって、その意味を成（な）していない、そこが晒されていたことに。

「……！！っこの、」

『変態！！』とでも罵倒していたかった。

『クソが！！』でも、『ドS野郎！！』でも、なんでもいいからいつものように反論したかったのだ。

けれど、その二つのふくらみの中央上部、鎖骨の下辺りに触れた唇によって、その言葉は遮られる。

決して強くはない刺激だ。

欲しいと思っていた刺激でもない、それなのに、宝物に触れるかのように優しく、愛しそうに触れる彼に、その伏目の視線に、息を呑んでいた。

その視線がスッと上がり、私の視線と交差したと思ったら、止まっていた指がそのふくらみをようやく、撫でた。

越えて来た一線、彼の引いていた一線、ようやく一歩近づいてきた彼に、体が歓喜する。

やわやわと触れる指先に、徐々に力が込められていく。

様子を見るかのように、視線だけを私に絡ませて、滑らかな動きで、マッサージするように。

「痛くない？」

私は首を縦に振って、彼に応える。

知っていたのだろうか、胸が張ることがあるという、女性特有の痛みを。

そういう時に揉まれると、痛みが出ることを。

決して痛みなんて感じないだろう程の弱い刺激なのに、痛みを気にしてくれるなんて、知っていたとしか思えない。

──あのクズの時は、そんなこと気にされたこともなかった、痛いと言っても聞いてもらえなかったというのに。

そう、ほんの少しだけ、思考が飛んだ時。

「――なに、別のこと考えてるの？」

突然その突起に走った刺激に、思わず大きな声が上がる。

それが恥ずかしすぎて、片腕で口を塞ぐけれど、出てしまった声は今更無かったことになんて出来ないのだ。

つままれた、決して強い力じゃないけれど、ずっと欲しくて欲しくてうずうずとしていた、そこに。

「あかね」

またきゅっと、そこをつままれる。

「まさかアイツのことなんて考えてないよね？」

捻られて、軽く引っ張られて、つまみ上げるように離される。

今声を出したら、言葉にならない、変な声しか出ない、しかも優藍の言葉が図星ときた。

どうやら機嫌を損ねてしまったらしい彼に視線を合わせて、ふるふると首を左右に振る。

「それでごまかせると思ってるなら、俺はだいぶ甘く見られているのかな」

首を振りながら、頭の中では混乱が渦巻いていた。

なぜバレたのか？なぜわかったのか？考えたのは一瞬だけだったのに、なんで、なんで……。

「ごめんね、ちょっと遊びすぎちゃったかな」

そう言葉が耳に入って来た直後、だった。

ぬるりとした奥にざらついた感触が、その片方の頂を覆って、軽く食まれたのは。

背中がひきつる、肩がビクリと大きく上がり、ぬるぬると動くそこに頭がおかしくなりそうだ。

さんざん焦らされてきて、展開が急すぎるのだ、段階を踏むなら同じペースで踏んでいってほしい！

そんな文句も言えぬまま、口を覆っていた手が彼の腕によって離され、抑えきれない声が漏れだす。

「あかね？」

「や、まって、違っ」

そんなところで話さないで欲しい。

吐息が触れて、唾液に濡れたそこを冷やしていく。

冷たくなるその感覚にまた刺激が強調されて、彼の首に回していた方の腕で背中の服をキュッと掴んだ。

「何がどう違うの？」

片手が腹へ、腰へ、徐々に降りていく。

ビクッビクッと、体が反応してしまう。

下腹部を撫で、ルームウェアの上から脚の付け根のラインを撫でると、内ももへと辿り着く。

その手がくすぐったくて、脚を擦り合わせて刺激を逃がそうとした。

まって、まって、混乱する頭で言葉を必死に探そうとする。

だって、アイツのこと、思い出してたのは、優藍と全然違うから、で。

「優藍、が、気遣って、くれる、から」

「うん」

「だって、そういうの、初めて、で」

「うん、それで？」

さわさわと上下に刺激される内ももに、期待感から言葉を紡ぐことが難しくなる。

腰を引くけれど、逃げ場なんてない。

いつ来るのか、直ぐに触れてくれるのか、それともまだなのか、いつまで待たされるのか、それとも今日は触れてくれないのか。

もっと、頑張ったら、優藍が満足出来たら……くれるんだろうか？

私が、素直に、求められたら。

まだ触れられてもいないのに、ひくひくと欲しがるそこに、意識が持っていかれそうになる。

「ゆ、ら」

「なぁに？」

「嬉しかった、だけ、なの」

熱に浮かされて、とか、雰囲気に押されて、でも、優藍の攻めに耐えられなくて、とかでももう、なんでもいいと思った。

なんでもいいから理由をこじつけてまで、素直になる理由が欲しかった。

あなたがくれる気遣いとか思いやりとか、一人の人間として向き合ってくれるその姿勢が、嬉しくて。

嬉しくて、心地よくて、愛しく感じて、それであのクズと比べてしまっただけなの。

あんな奴とは全然違うって、優藍と出会えてよかったって、こうして今は私だけを見てくれているって。

比べて、強く実感したかっただけなの。

だから、優藍が機嫌を損ねるようなことは、考えてない、はずなの。

「ごめん。優藍だけ見る、から」

素直に優藍を求めるのが、恥ずかしい。

いつもの私じゃない、余裕なんてない、そんな自分のペースを崩すのに抵抗がある。

それでも、崩してでも、理由を付けてでも、今はあなたが欲しい。

まだまだ素直さなんて足りないけど、今はこれで許して、優藍。

「優藍、もっとちょうだい」

これが私の精一杯なの。

体を起こして、私と顔を合わせる、優藍。

急に近付いた綺麗な顔に、唾液で潤む唇に、また顔に熱が集まる。

顔を背けたい、恥ずかしい、でも今視線を外してしまったら、この気持ちが伝わってくれないかもしれない。

ゆっくりと近付き、ふんわりと優しい口付けを、ひとつ。

頬に、瞼に、額に、ひとつずつ、落とされる。

「ごめんね、あかね」

そう紡がれる言葉に、私は肝がスっと冷えるのを感じた。

なにが？なんで今このタイミングで、謝られているの？

なんで？どうして？

こんなに勇気を出しているのに、こんなに求めているのに、こんなに欲しいのに。

「残念だけどあかね、まだ全然、足りないよ」

「足りない……？」

「だって君、まだ俺の事を一番に考えてくれているわけじゃないでしょう？」

急に冷めきる、熱。

私の中の、一番……？

何言ってるの、だって私には優藍しか今は……今、は……。

それでも私は、彼の元を離れようとしている。

私の中の『あの子』の存在を諦められないから。

まだ私は復讐を果たせていないから。

優藍だけに気持ちを向ける、ということは、確かに出来ない。

まさか、それに……優藍の元から離れることに気付いて……？

そんなはず、いや、でも優藍なら有り得そうで……。

冷えていく体、心の中も、スッと冷めていく。

あわよくば、なんて汚い思考が無意識に巡っていたのかもしれない。

離れる気ではいたはずなのに、心の底では、優藍を手に入れたいという、汚い心が。

どちらも手に入れようとする、強欲さが。

このまま、どちらも求めることを、きっと優藍は許していない。

「あかねが俺しか見なくならないと、全部はあげられない」

「……こんなに、優藍の事、見てるのに？」

「うん、足りない」

あっさりと、なんの迷いもなく、彼は言う。

「だって俺、本気で落とす気でいるから」

私の想いが、足りないと。

こんなに欲してるのに、こんなに背伸びして頑張ってるのに、優藍はこれじゃ足りないという。

私が『あの子』のことに関して、気持ちを手放せないことを、知っていて、それを求めるの……？

「ほら、こう言ってもまだ迷いが出てるからすぐに応えられない」

「……」

「だから、俺だけって迷いなく言えるまで、おあずけ」

優藍の、さっきよりも冷えた唇が、私に優しく口付ける。

胸がグッと締め付けられるようで、酷く苦しい、キスだった。

「でも、あかねが頑張ってくれたことは伝わったから、ご褒美はあげるよ」

そう言って再び動き出した指は、二つのふくらみを揉み上げ、その先端をつまんで、きゅっとねじる。

ぴくっと反応する体に、背中や脚の裏側がムズムズとして快感を欲するのを感じた。

彼の唇が耳元まで移り、ひとつ、キスを落とす。

そのリップ音が、やけに脳の奥まで響いた気がして、先程までのキスを思い出してまた顔に熱が戻ってくる。

「全部はまだあげられないけど。あかね、頑張ってくれたもんね」

耳元が、彼の吐息で熱くなる。

囁くような優しい声に、息が、乱れていく。

「ごめんね、ちょっと意地悪しちゃったね。だってあかねの反応が可愛いんだもん。仕方ないよね」

揉み込む指が、突起の先をさわさわと触れたかと思えば、きゅっとつままれ、甘く捻り、潰される。

また声が出そうになって、口元に腕を当てて耐えようとする。

「ほらまた、体が熱くなってきたよ。ここも固くなってきてるの、わかる？」

私は、いやいやというように首を横に振る。

というか、今度はなんだ、何をされてるんだ？

なんだかすごく……恥ずかしさを駆り立てられている気がするのだけど。

「わからない？じゃあ触ってみてよ」

片側の刺激が無くなったと思ったら、今度は手首を持たれて、その部分に誘導されていた。

待って？これって。

待って待って待ってまさか。

手の甲からするりと絡め取られた指先が、私の冷えた指先をその突起に誘導する。

人差し指と中指の関節できゅっと挟まされた私の指先はすっかり冷えていて冷たく、刺激をより強く感じさせた。

そのまま手の甲を抑えられたまま、緩やかに揉み込まれる。

当然のように、自分のその冷たい手と一緒に。

「まって、これ、ちょっと、や、」

「ほら、固いのわかるでしょう？」

「まって、ばか、なにして！」

「自分で揉んでるみたいで恥ずかしい？」

「言わないでばか変態変態変態！！」

「うん、かわいい」

満足しているようなその声色で、意地悪な彼は、さらに私の羞恥心を煽ってくる。

何がどうして、人前で自分の胸部を揉むなんて事態が起きているのか？

いや、こんな予定もなかったし、そもそも耳を舐め回されていた辺りからもう私の知識の範囲を当の昔に越えている。

サクッと入れてサクッと終わるかと思っていたのに、いつの間にやら空は白んで来て、うっすら室内にも光が差し始めてきていた。

このままいけば服がずり上げられている私の体は丸見えになること間違いない。

待って、それはちょっと！！

そろそろ終わらせてほしい、見られたくない、こんな貧相な体。

「優藍、もう、」

「うん？足りない？」

「…………え？」

手の甲から離れる、その手。

「そのまま続けて」

「……え？？」

まさか自分で……このまま揉んでいろと？

それを理解した瞬間、また私の顔は熱を増す。

「ばか、変態！むりなんだけど！」

「じゃあ下、このままでいいの？」

下……。

そこは、触られてすらいないその場所がぐっしょりとなっているだろうことが、もう、感覚からわかるくらい、潤っていた。

このまま終わらせる……なんて当然、この欲を掻き立てられたままの体じゃ、嫌に決まっていて。

でも朝陽が差してきていて、でも触ってもらえないままなのは気持ち悪くて。

意識してしまうとさらに欲を掻き立てられて、また脚を、擦り合わせる。

あぁ、ダメだ、負けてしまいそう。

「欲しかったら、それ、続けて？」

「……嘘でしょ」

「続けてる間はいじってあげる」

欲か、理性か。

選択肢は私に委ねられている。

いや、そもそもあんた男なのに我慢出来るの？

……余裕そうでは、無さそうではあるけど。

でも私よりきっと、ずっと苦しいはず、なんじゃないの？

「優藍、は」

「ん？」

「優藍、は……触らなくて、いいの？」

私ばかり、責められていて。

それって、性欲の強いはずの男の人の方が、ずっとずっと辛いことなんじゃないかと、思うから。

そう思っていたのに。

「あぁ、俺は先に1回抜いてるからまだ大丈夫」

「………………は？」

「あかねと会うと興奮しちゃうから。その前に鎮めてるんだよ。だからまだ攻められるよ」

まって、それ有り？そういうの？え、まってそれで抑えられるもんなの？？

なんか爆弾発言も混じっていた気もするけれど。

まさか会う度に興奮されているわけじゃないよね？

そう言った彼の指が、腰を辿り、下腹部へと伸びて……ついにルームウェアの中に入り込んできて、息を飲む。

「性急になりすぎちゃうとさ、女の子への負担大きくなるし、こっちは止められないし。でも男って出せる数にも限界があるから、そこである程度コントロールは効くんだよ」

「……なにそれ」

「まぁ興奮しちゃえばまたすぐ我慢効かなくなるんだけど。一発目よりはマシだから」

そうして伸びてきた手が太ももの内側を下から上に撫でると、ビクリと大きく体が跳ねる。

脚を閉じようとしたら、いつの間にか彼の片足が既に入り込んでいて、閉じることが出来なくなっていた。

いつの間に……。

「ほら、弄ってないとずっとこのままだよ」

さわさわと直接触れる指が、少しずつ登ってくる。

私は胸元を覆っている手を、まだ動かせずにいる。

けれど、迷っているから、そこから離せずにもいる。

どうしよう、でも、ほしいし、でも恥ずかしい、けれどこれが最後だと思うとこのまま終わるのも惜しくて……。

指が、下着との境目をなぞるように、足の付け根を行き来する。

無理、この状態でこれ以上我慢とか無理、無理、欲しい、無理、優藍、優藍ほしい、優藍……。

ごくり、唾を飲み込んだ私は、ゆっくりとその指に力を入れる。

自らの柔らかい感触が私の指を包む。

それだけで沸騰しそうなくらい、もう、熱い、やだ。

すると、その境目をなぞっていた指が、私の動きに反応したかのように、止まる。

やめて、私の動きに反応しないで恥ずかしい。

けれど、ここで止めてしまったら、弄って貰えない……。

恐る恐る、力を込めていた指を離し、柔らかいそこに再び力を込める。

呼吸が荒れ、心臓がドクドクと脈打ち、体が熱い。

彼の手が弄っていた、もう片方の頂がピンと弾かれ、また体が跳ねると、下に降りていた指の位置が、中央へと動き、潤いの上で止まる。

なんで、そこで止まるの？

あぁ、私が手を動かしていないからか。

まるで手動じゃないと動かない、からくりオルゴールのようだ。

再び指をくい込ませるように自分のものを揉みあげれば、下にある指が潤ったそこにくい込み、押し上げられる。

ぺったりと、下着の張り付く感覚がある。

「ここ、すごい」

「言うな、ばか」

「両手でしてて」

「え、ちょっ」

口に当てていた手首も取られて誘導されると、またヒヤリとした指が先端に当たってビクッと跳ねる。

両手で？は？？変態！ばか！変態！！

体の位置を下げていく彼は、一体なにをする気でいるのだろうか、私には予測不可能で、心臓に悪い。

すっぽりと布団の中に入り込んでしまった彼は、どうやら私のルームウェアの下まで脱がそうとしているようで、腰に腕を入れて隙間を作られると、するすると脱がしていく。

罵詈雑言を吐こうかと迷ったけれど、脱がされること自体は最初から想定済みだし、ここはぐっと堪えた。

まだ薄明かりの中で、下半身は布団の中、見えにくいはずだから大丈夫。

そうは思うけれど、布団が動くとどちらのものかも分からない湿った香りが鼻を掠めてくるものだから、もはや見えなくても関係ないくらいに恥ずかしさはピークに達していた。

そんな香りの籠る布団の中へと入っていった優藍が、これに気付かないはずがない。

若干匂いフェチっ気すらありそうな優藍だ、一粒食べただけのマスカットの香りにすら気付いてしまうくらい、香りに敏感な優藍だ。

優藍がそんな所にいるんだったら、もう顔を抑えて隠してもバレないんじゃないだろうかと思い下に視線を向けると、布団の中にあるその瞳と交差した。

ダメだ、しっかり見られている……。

顔を隠すことは断念した。

脱がされる為に曲げられた片足の膝裏に腕が回り、抱えられるのを感じて目を見開いて優藍を凝視する。

何を、考えているのか。

なんという恥ずかしい体勢にさせられているのか。

顔をそこに近付けた彼が、鼻をすんすんと……。

「嗅ぐな変態！！」

「はぁ……あかねの香り」

「やめろばかぁ……」

蹴り上げようと脚を藻掻こうとするも、彼の腕で抑え付けられていてダメージなんて少しも与えられない。

恥ずかしさに悶えていると、素足の晒された内ももに口付けられ、そのまま中心に向かって唇が這ってくる感覚に、そこがまたひくひくと反応してしまう。

そんな反応も、こんなに近いともう見られてしまうんじゃないだろうか。

けれどまだ太陽がしっかり出ているわけではないから、見えてはいないんだろうか。

そんな心配ばかりに意識が向いてしまう。

「ほら、手止まってるよ？」

「だ、って……」

「欲しかったら続けて。自分の気持ちいいように、ほら」

彼が爪を立てて、下着の上から突起を掠めると、今までとは違う強い刺激に、比べ物にならないくらいに体が歓喜する。

逃げたくなるくらいの強い刺激、けれどずっと与えられたかった強い刺激でもある。

ようやく与えられた刺激は、その一度だけで、また彼の指先はその上で止まってしまう。

もどかしい、動かして欲しい。

耐えきれなくなり、やわやわと指に力を入れ、両手で揉み込むことを始めると、彼もまた下の突起を爪で掠める。

ヒリヒリとするけれど痛くはなくて、ずっと続けていて欲しいようなその刺激に、声を抑えられないまま、夢中になっていた。

頭を振って乱れるし、いや、やだ、まって、なんて声は出るけれど、自分の手は止めない。

この手を止めてしまったら、この刺激も止まってしまうから。

それと反した言葉は漏れて止まらないのに、本心では止めてほしくないことが、それだけで伝わってしまう。

いや、そうなるように誘導されているとも、言えるかもしれない。

「上からと下から、どっちの刺激の方が好きかな？」

「や……あ、まって、っ！！」

「ぐりぐりされるのも好きみたいだね」

掠めたり、潰されたり、押し込まれたり、捻られたり。

止まらない刺激……いや、私が止まらないように動かさせている、刺激。

下着越しでもどかしい刺激の中、その限界が近付くのはすぐだった。

体が痙攣してきて甘い刺激が持続的に強く感じて来ると、彼の指がそれを察したように、指の動きを速める。

揉み込んでいる私の指先にも力が入り、無意識に関節で挟んでいる突起を引っ張り上げていた。

腰が浮き、背中が仰け反る。

頭から腰まで雷を打たれたような強い刺激が走り、体全体が跳ねた。

もう、何も考えられない。

ドクドクと速い鼓動、それに合わせて揺れる視界。

乱れる呼吸の中、窓から差し込む光を視界に映し、それから意識は遠のいていった。

もうすっかり、終わりの朝を迎えていた。

痛みなんてもの全くなく、愛情しか感じない情事なんて、初めてだった。