第68話 2人の味方
「それで~? 今日は改めて2人揃ってどうしたの?」
見慣れたはずの社長室。
座り慣れたソファ。
ただ、隣同士に座る俺と笑美ちゃんの心境は……いつもここに来ていた時とは少し違っていた。
井上さんや烏真社長が座るとそれを切に感じる。もちろんその理由も分かっている。
あの後、すぐに雛森から聞かされたことを笑美ちゃんへと話した。当然とはいえ、流石の笑美ちゃんも驚きを隠せないようだった。
ただでさえ、今日この場で結婚の話をしようとしていたのに……追い打ちをかけるかのような週刊誌の話。けど、全ての話を聞いた笑美ちゃんが口にした言葉は、俺と全てが一致していた。
その後、雛森から送られてきた例の写真。俺と笑美ちゃんの2ショット写真で、これ単体で見る限り芸能人とマネージャーという関係にしか見えないモノばかりだった。
ただ最後の一枚だけは、何処のタイミングかは分からないけど、俺と笑美ちゃんが手を繋いでるモノ。顔も鮮明なその1枚を前に……俺も笑美ちゃんも関係を隠すことには反対だった。
「はい。撮影の報告……の前に、烏真社長に話があります」
「おぉ~なんだい」
俺達の答えは週刊誌の記事を認め、堂々と結婚の報告をする……それ一択だった。
その為に、俺がきっちり社長に話をしよう。
「あの、俺と笑美ちゃんが付き合っているのはご存知ですよね?」
「もちろん!」
「なら話は早いです。あの、単刀直入に言います。俺は……笑美ちゃんと結婚したいと考えてます。もちろん、笑美ちゃんからも了承は頂いてます。ですので、社長として俺と笑美ちゃんの結婚を認めてもらえないでしょうか?」
言った……俺は言った。結婚を認めて欲しいと。
正直、社長の目線から考えれば今をトキメク女優である笑美ちゃんの結婚なんて、色々な兼ね合いもあってマイナスなイメージの方が多いと思うだろう。それに伴い、CMやらドラマのオファーなんかも減る。その結果、事務所としての利益が少なくなってしまう。
そうなれば……難色を示すのは当然だ。もちろん、それを分かっていてこそのお願いだ。社長に何を言われても、最悪俺が責任を取ってここを辞めてもいい。それだけの覚悟は出来て……
「おぉ~もちろんOKだよ?」
えっ?
それは余りにもあっけなく、軽い返事。その言葉に俺も笑美ちゃんも一瞬ポカンとした表情だった。
「えっ? あの社長? いいんですか? 結婚ですよ?」
「そうだよ? だって、笑美だってそれを望んでるんでしょ?」
「えっ? はっ、はい。あっ、あの……上手く伝わるか分からないんですけど、心の奥底から丈助さんの赤ちゃんが欲しいって思ったんです!」
うおっ! えっ、笑美ちゃん!?
「くっ、くぅ~! なにそれ? 本当に運命というか……本能的に求めてるんですね? 何この恋愛漫画展開! 尊いっ!」
いっ、井上さん? なんか鼻血出てません?
「たはぁ……そこまで赤裸々に言われるとこっちが恥ずかしいよ。それに、仕事のことなんかも色々考えての……覚悟の上なんだろ?」
「はいっ!」
「あの、俺が言うのもあれなんですけど……笑美ちゃんは勢いある子です。まさにこれから事務所のその……稼ぎ頭として期待されてた部分もあると思うんです。だから、そんな子とたかがマネージャーの結婚ですよ? そのもっと、難色を示されるかと……」
「あのねぇ~丈助? 事務所にとって所属タレントは大事よ? だからこそ、本人の望むことを手助けして、希望に添える返事をするもんじゃない?」
「三月社長……」
「もちろん、結婚のせいでCMとか減る可能性だってある。でもそれを覚悟の上で、こうして言ってくれてるんだよ? そんな本人の意思を……尊重するのが事務所でしょ」
「かっ、烏真社長……」
それは、余りにも想像を超える返答だった。
いくら気さくな社長とはいえ、会社のトップとなれば真っ先に考えるのは利益。あからさまに表情には出さなくても、一旦言葉を濁すモノだと思っていた。
ただ、目の前の烏真三月の答えは、実にあっさりとしていた。
そして俺達の心にとんでもなく響く言葉だった。
その言葉が素直に嬉しい。
そんな気持ちが、反射的に口に出ていた。
「あっ、ありがとうございます!」
「三月社長! 本当にありがとうございます!」
「ふふっ」
まじか……こんなにもあっさり許してもらえるとは思わなかった。これなら何の問題も……あっ!
余りにも順調な光景に、少しだけ気持ちが緩んだ瞬間だった。俺の頭の中に、もう1つの問題が浮かび上がる。それは今の安心と嬉しい気持ちを一瞬に無に帰す、最悪なモノだった。
けど、解決しなければいけない……重要なこと。
「あっ、あの社長?」
「ん~」
「実はもう1つお話が……」
「なんかその表情的に、良くない感じがするなぁ」
……正解です。
「その予感。正解かもしれません」
「やっぱり? んで? 結婚という幸せなお話と一緒について回るその悪い話とは?」
「えっと、青空出版の雛森さんご存知ですよね?」
「もちろん! 礼儀正しい良い子だよね? たしか話だと、彩華を初め皆顔見知りだったよね?」
「そうです。そんな雛森さんから、今朝連絡がありました。大衆社時代の同期から、数日後に出る記事を自慢されたみたいで……」
「なるほど? もしかして2人のことかな?」
「そうなんです。写真もあるみたいで……これなんですけど……」
俺はそう言うと、雛森から送られてきた写真のデータを社長と井上さんに見せる。2人はまじまじとその数枚の写真を見ると……井上さんが声を上げる
「確かに、前の数枚だけだと日常の仕事風景って感じですけど……最後の1枚はガッツリですね」
「そうなんです」
「みっ、三月社長……これが出たら私達……」
「ん~」
そう言いながら、写真を見つめる社長。そして数秒したのちの出来事だった。
「よっし! 決めた!」
その突然の声に、俺達の視線は社長に釘付けとなった。
よっし? 一体どんな妙案を……
「何か妙案でも浮かんだんですか? 烏真社長」
「うん! あっ、最後に確認だけど……笑美と丈助? 結婚したいって気持ちは変わらないよね?」
それは当たり前です!
「もちろんです。覚悟の上で今日来ました」
「私も……仕事のこととか色々なことを考えて、丈助さんと結ばれたいと決意してきました」
「了解。じゃあ、答えは簡単だ」
かっ、簡単?
「それって……」
「ふふっ。それはだね?」
「はっ、はい……」
「この記事が雑誌に掲載される前に……2人の結婚を、こっちから正式に発表してしまえば良いんだよ!」
なっ、マジですか!?
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