第65話 女子大生の異変

 



 目を開けると、目の前には丈助さんの寝顔。

 そして肌同士が触れ合う温もりは、布団の中でもハッキリ分かる。


 気持ち良さそうに寝息を立てる丈助さん。本当なら、ここで起こしてあげるんだろうけど……私はこの無防備で……いつもだと見られない可愛い顔を眺めるのが好きだった。それに丈助さんに起こしてもらった瞬間がたまらなく好き。

 だから丈助さんの懐にもっと潜り込んで、自分だけの特権を楽しむ。


 ……やばい。なんか今日はいつもより顔が熱い。

 自分としても、お婆ちゃんに言われたからか昨日の行為は特別な雰囲気だった。それに応えてくれるように、丈助さんもいつも以上の状態で……久しぶりということもあって凄く濃厚。

 その最中も、こんな感じで体の熱さを感じてはいたけど……お婆ちゃんの飲んでたアルコールの匂いのせいかとも思った。ただ、一晩経ってもそれが残っている。


 もしかして風邪? でも熱がある訳でもない。体の中から温かいというか。うぅん。そんなんどうでも良い。もっと丈助さんを感じていたい。


 こうして私は、また温もりの中……眠りについた。




 こうしていつもの様に、丈助さんに起こされ……一緒に居間へと向かうと、そこには豪華な朝ご飯が並んでいた。

 その瞬間、完全にお客様気分だったと思い、急いで台所のお婆ちゃんの元へ駆けだした。


「ん~? 何言ってんの? 今日は大事なお客さんだろ? それに忙しい中足運んでくれただけで嬉しいんだよ?」


 笑顔で話すお婆ちゃんに、申し訳なさを感じてしまう。必死に何か手伝おうとしたけど……正直もはや何を手伝えばいいか分からない状態だった。


「もうっ! そんな顔しないの。じゃあ、今度来たら……一緒に準備してくれる?」


 そんな申し訳なさが、前面に出ていたんだろう。見かねたお婆ちゃんが、もう一度優しい笑顔を見せた。嘘でもない、本心なんだろう。ただ、一緒に準備……その言葉に少し救われた自分が居た。


「片付けから手伝いますっ!」

「まぁまぁ……本当に出来た子だよ」


 それから丈助さんと2人で、美味しい朝ご飯を堪能。

 その後お婆ちゃんと一緒に片付けをすることになった。


「そういえば……笑美ちゃん?」

「はい?」


「丈こと好きかい?」

「えっ!?」


 いっ、いきなり!?


「ふふっ。ごめんねぇ?」

「びっくりしました。えっと……」


「大丈夫。丈なら朝シャンしに行ってるよ」

「朝シャン。あの……大好きです。というより愛してます」


「こりゃまたストレートだねぇ。でも、昨日の話も相俟って、安心したよ」

「安心ですか? そんなこと言ったら、私はお婆ちゃんとこうして隣同士片付けが出来て……温かさを感じてます」


「嬉しいねぇ。ねぇ笑美ちゃん? 私はあんまり仕事のことに口挟める立場じゃないけど、これだけは教えておくね?」

「はっ、はい……」


「本当に好きな人を目の前にすると、何処かのタイミングで必ず……この人の子どもが欲しいって思う時があるわ。自分でも分からないけど体が反応するというか、そういうことが絶対にある」

「こっ、子ども……?」


「そうそう。だからね? もしそう感じたら……自分に正直に行動しても良いと思う」

「自分に……」

「ふふっ。それこそ運命って感じだとは思うけど……経験者が言うんだからあながち間違いじゃないと思うわ」


 ってことは、お婆ちゃんもそんな気持ちになったことがある? 


「まさかお婆ちゃん……」

「昔の話よ? 時には、思うがままの行動も悪くはないわ」


 お婆ちゃんから言われた言葉。

 体が反応して結ばれて……そして新たな命が生まれる。好きな人との子どもなら、それ以上の幸せはない。


 自分にも、そんな時が来るんだろうか……そんなことを考えながら、薄っすらを汗をにじませ、私はお婆ちゃんとの時間を過ごした。


 そして、それから……私達はお世話になったお婆ちゃんの家を後にする。

 寂しさと嬉しさが交わる中、お婆ちゃんに向けて手を振り続けた。ただ、朝から続く体の異変は相変わらず。体を包む温かさは続き、かといって不快な感覚ではなかった。それこそ不思議な感覚というんだろうか。


 そんな変な感覚に不安を感じたのか、自分でも分からないけど……丈助さんへ触れていたい欲が増える。とにかく感じて居たい。変装はしているけど、そんなことお構いなしに常に手を繋ぎ、腕をからめた。

 本当に自分でも分からない。どうしてここまで丈助さんを感じていたいのか。


 ただ、そうしている間……私の心は幸せに包まれている。




 ★




「はぁ……」


 こうして無事に部屋へと戻り、いつも通りご飯を食べ……お風呂から上がった私。

 心は満足なはずなのに、体を覆う違和感だけは未だに治らない。一応風邪薬を飲んではみたものの、その火照りは一向に収まらず、むしろ余計に熱さを感じている状態だった。


 どうしたの? 体全体が熱い。

 朝よりも顕著に感じる違和感。それも胸の動悸が徐々に激しく、下腹部が異様に熱く感じていた。


 どうして? なんかアソコ……

 思わずさすってみると、熱を帯びる下腹部。そして自分の意志とは関係なしに……ムズムズとした感覚に襲われる。


 嘘……どうして?

 それは今までに感じたことのない感覚だった。


 ガチャ


「ふ~」


 その時、ドアが開いたかと思うとお風呂場から丈助さんが出て来た。お風呂上がりで、バスタオルで髪を拭く丈助さん。

 その格好は、Tシャツに長ズボンと見慣れたモノのはずだった。けど、その瞬間またしても体全体が熱くなる。


 えっ……

 その瞬間、ふとお婆ちゃんの言葉が頭を過る。


『本当に好きな人を目の前にすると、何処かのタイミングで必ず……この人の子どもが欲しいって思う時があるわ。自分でも分からないけど体が反応するというか、そういうことが絶対にある』


 子ども。

 その言葉を思い出した途端、下腹部が反応する。熱く……キュンキュンと何かを求める様な感覚。

 それと同時に……不思議と動悸が激しくなり、息遣いが荒くなる。


 嘘……私……

 いつもとは何ら変わらない光景にも関わらず、こういう気持ちに襲われる自分。

 その理由は分からない。けど……徐々にその理由が分かる気がした。


 分からないのは……当たり前かも。だって、こんな気持ち初めてだもん。これがそうなんだよね? お婆ちゃん。


 丈助さんの顔を見る度に、顔が熱くなり胸が苦しくなる。そして訳も分からず疼く下腹部。

 それは……お婆ちゃんの言うその時というのに、合点の行く状態だった。


 ……こういうことなんですね? お婆ちゃん。理解が出来たかも知れません。確かに自分じゃ理解が出来ない。でも、体が反応しきっちゃってます。


 あぁ……どうしよう。本当にどうしよう……私……私今……


 丈助さんの赤ちゃんが……欲しくてたまらない……



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