第51話 君島丈助と相島笑美
最初は可哀想な女の子だった。
やせ細り、不安に満ちた表情で弱々しい。
その姿が目に焼き付いて、どうしても守りたかった。
次に出会った時、彼女は自分が願う以上に成長していた。
それもあの頃からは想像もできない程に女の子らしく、立派な姿に……今度は俺が守ってもらった。
その行動に、理解できない部分もあった。
何か裏があるんじゃないかと疑った。
けど、彼女は真っすぐ……いつも俺を見て、話して、笑ってくれる。
少し特殊な同居生活。
烏真社長への口利き。
有名事務所への就職。
マネージャーとしての生きがい。
君はあの時のお礼だと言ってくれたけど……それにしては過剰な気もした。
甘える自分に嫌気がさした時もあった。
けど、それらは着実に……自分の心に染み込んでいたんだ。
そしていつしか君と居るのが当たり前で、笑い合うのが普通で……あの時の少女から、女性へと意識が変わった。
ただ、それに気付いた時には……いや、マネージャーとして接して行く内に、立場の違いを大きく感じていたんだ。
現実に人気の女優とただのおっさんが釣り合うはずがない。
彼女にしたって、過去の恩返しとはいえそういう感情を抱く訳がない。
だから俺は、マネージャーという立場を利用した。
抱擁の演技なんてする訳がない。けど、俺は望んでいる。
演技の練習でキスなんて普通はあり得ない。ただ、俺自身がどこかで望んでいる。
これがマネージャーの仕事だ。マネージャーにしか出来ない。
仕方のない事なんだと、自分を騙しながら……欲求を満たしていた。
だからこそ、あの時笑美ちゃんに好きな人として名前を挙げられても実感がなかったんだよ。
自分の気持ちを隠していたから。
釣り合うなんて考えられないから。
いい年こいたおっさんの、キモい恋愛感情なんて犬も食わないと思っていた?
違う。立場が逆転した彼女に対する嫉妬か?
いや、彼女に未だ小さい頃の姿をまだ重ねているのか?
一回りも違う女の子を好きになるなんてあり得ないという……ちっぽけなプライドか?
それともマネージャーとしての理性か?
そんなのはもう…………どうでもいい。
『丈助さん……私じゃ……ダメですか?』
その言葉に、何かが……弾けた。
「ダメな訳……ないだろ?」
「えっ……」
それが何かは分からない。ただ俺は、何かから解放されたかのように、欲望のまま……衝動に駆られるがままに動いていた
「笑美……」
「じょっ、丈助さ……んっ!?」
笑美の腕を優しくほどくと、ゆっくりと振り返る。そして驚いた顔を見せる笑美を、今度は力強く抱き締めた。
「はぁ……」
体に感じる肌と肌の温もりは、自分が何時からか求めて来た欲望の1つ。
それらを感じながら、俺はすかさず自分の唇を笑美に重ねる。
「笑美」
「んっ……」
そしてそれに呼応するかのように、互いが互いを求め合った。
浴室に響く、舌同士が絡み合う音。
今まで練習と称してしてきたモノとは違う。
勢いでしてきたモノとも違う。
その行為には明確に理由が合った。
激しさに互いの吐息が交じり合い、湯気なのか汗か分からないモノが頬を伝う。
吐息が息遣いに変わり、無意識の内に互いの体を触れ合う。
それがどれくらい続いただろうか。どちらかともなく、ようやく離れた唇。糸を引くそれが名残惜しく静かに消え去り……目の前には今までに見た事がない程、恍惚とした表情の笑美が居た。
「丈助さん……好き……大好き……」
その掠れる様な、艶やかな声に体中が熱くなる。もはや、止まる気は……無かった。
「俺もだよ。笑美……好きだ」
「嬉しい……」
短い言葉を交わし、もう1度口づけを交わすと……ゆっくりと抱き締め合う。互いの体をもう1度確かめながら、ゆっくりとその感触を味わうにつれて、自然とそう言う雰囲気が訪れた。
「笑美……俺……」
「ふふっ。さっきから固いのが当たってる。それだけ私で興奮してくれてるんだよね? 良いよ? 私……丈助さんに抱かれたい」
それからはあっという間だった。体を拭くのも忘れ、笑美の寝室へ。寝ころぶ笑美を前に、ようやくマジマジとその裸を目にする。
透き通った肌に、化粧をしていないのにも関わらず整った顔立ち。形も綺麗で大きい胸に、細いウエストがお尻をそそらせ……やはり魅力で溢れていた。
「裸……変じゃない?」
「変じゃない。興奮しすぎておかしくなりそうだ」
「嬉しい。じゃあ、そのまま……来て?」
「もちろん。あっ、でも……」
「もしかしてコンドーム?」
「えっ、あぁ。流石に生は……」
「ちゃんと用意してるよ?」
「えっ?」
「いつされても良い様に……準備してた。それも結構前からだよ?」
「前からって……」
「丈助さん、本当に鈍感なんだから」
「ごっ、ごめん……」
「だから待たせた分も、今日はいっぱい……シてね?」
「分かったよ。笑美」
「丈助さん……」
それから俺達は……何度も何度も交わり続けた。
まるで今までの十数年を……
取り戻すかのように。
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