第35話 女子大生のファーストキス

 



 出来るだけ、雰囲気を近付ける。

 その為に俺は、主人公へとなりきり、原作と同様のセリフを口にした。少し驚いた表情を見せる笑美ちゃん。ただ、もう止めれない。


 周りはチャペル。横には牧師さんに大勢の参列者。それをイメージしながら、俺は笑美ちゃんの肩に手を置いた。

 すると、その意図を感じたのか……笑美ちゃんは顔を見上げながら目を閉じる。まさに無防備な状態の中、俺はその艶やかな唇へとゆっくりと顔を近付けた。


「んっ……」


 それは柔らかく……何とも言い難い気持ち良さだった。軽いキスのはずなのに、それ以上に心が満たされる。自分自身が主人公になり切っているからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。

 自分と同じように笑美ちゃんが感じてくれているなら……最高の練習だと思う。


 数秒間。互いの唇の感触を確かめ合うと……俺はゆっくりと顔を離す。途端に目を開けた笑美ちゃんは……何処か満足げな……


「ファーストキスしちゃいました。じゃあ次は…………」


 なっ!


「んっ……」


 それは一瞬だった。満足げに少し笑みを浮かべた笑美ちゃん。練習の成果に安心したのも束の間、そんな言葉と共にいきなり笑美ちゃんが首に手を回し、俺を引き寄せる。そして有無を言わさず、またしても唇同士が重なり合った。


「んっ……んんっ……」


 今度のそれは……先ほどとはまるで違う。

 その柔らかさを感じていたキスとは違い、自分の口の中に温かい何かが入り込んできた。まるで何かを探す様に、容赦なく動き回るそれを感じた俺は……少なからず驚く。ただこれも、いつかあるだろうそういうシーンの為の練習だという、笑美ちゃんの気持ちだと思うと……全力で応えたくなった。


 なるほど。だったら……そういうシーンだと想像して、俺もやらせて貰うぞ?


「笑美……」

「えっ……? はむっ……ん……んっ……」


「チュッ……はぁ……んっ……」


 互いの唾液が、互いの口へと入り込み、いつしか卑猥な音が響き渡る。笑美ちゃんが零す甘い吐息と息遣いが、より一層俺の気持ちを昂らせた。


 そして時間が経つにつれて、次第に激しくなる行為に呼応する様に……俺はいつしか笑美ちゃんの腰に手を回し、こちらへ抱き寄せていた。


「はぁ……もっ、もっと……」


「んっ……きっ、きみしま……さん……」


 左右に顔を傾け、様々な角度から何度も何度も絡め合う。もはや自分の舌が分からない程に、感覚がマヒし、互いがその時間を求めあっていた。


 そんな行為がどれくらい続いた頃だろうか、ついに互いの唇が……ゆっくりと離れていく。舌に繋がる唾液が糸を引き、別れを惜しむように長く細く伸びていき……ついに姿を消してしまった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 何処か疲れ切った表情で息切れを起こし、顔にもどこか赤みの見える笑美ちゃん。

 その姿に気付いた瞬間……俺はふと我に帰った。


 ……やっ、やべっ! やり過ぎた! 途中から完全に我を失って、本気のキスを楽しんでたよっ!!


「えっ、笑美ちゃん? 大丈夫か! ごめん」

「もっ、もう……最初に仕掛けたのは私ですけど……びっ、びっくりしちゃいましたぁ……」


 よっ、良かった。怒ってはないみたい……だな?


「ごめん……」

「なっ、なんかフワフワしてますけど……全然です。でも……練習とはいえ、しちゃいましたね?」


「えっ、あぁまぁ……」

「君島さん……練習、付き合ってくれてありがとうございます」


 ……むしろお礼を言いたいのはこっちでは? 世の男性の何人が笑美ちゃんとキスしたいと思ってるか想像もつかないからな。でも、役に立てたなら良かったよ。


「全然だよ。俺なんかで良ければ」

「本当ですか? じゃあお言葉に甘えて……これからもキスの練習付き合って下さいね?」


 ……えっ?


「こっ、これからも?」

「ふふっ。じゃあ髪乾かしてきますね」

「えっ、あっ! 笑美ちゃん!?」


 えっ? あっつ、いやその……


 めちゃくちゃ意味深なんですけどぉ!?



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