第11話 村発展クエスト

 朝食を摂り終えて、本当は村長と今後のことについて話したかったのだが……


 どうやらまだ外で天日干しされていて、夕方にならないと使い物にならないと、奥さんがカラカラと笑いながら話していた。




 VOの世界でクエストを誰よりも早く効率的にこなすことに情熱を捧げてきたが、この世界ではゆったりと世界を楽しみたい。


 ユキムラはそう考えていた。


 そういえば、普通に睡眠も排泄もしたけど、現実世界のヒデオの身体はどうなっているんだろう?


 ユキムラは疑問に思ったが、同時にどうでもよかった。


 ただ、現実世界の身体が死ぬことによって、この世界での生活も終わってしまうのは嫌だなぁ、それくらいしか真面目には考えていなかった。


 どうせログアウト機能もみつからなかったし、考えても時間の無駄。特にむこうに未練もない。


 ユキムラ的にはもうそれで終わりなのだ。




 今日はどうしようか、ユキムラは屍のあふれる村を歩きながら考えていた。


 確かクエストがいくつかあったよなー、先にクエスト受注しといて一気に終わらせるかな、そんなことをぼんやりと考える。


 初期の村のクエストはすでにあまり記憶になかった。


 確か、キノコと木材と、ラビット肉、ボア肉、あとは迷子だった気がする。


 


「あの、ユキムラ様ご相談があるのですが……?」




 村をそんなことを考えながら歩いていると中年の女性に声をかけられる。


 


「はいはい、なんでしょう?」




「実は昨日女衆で話し合ったのですが、ユキムラ様が集められた食材が量質共に素晴らしくて、もしよろしければ日々の蓄えの採取をお願いいただけないでしょうか?


 もちろんお礼はお渡しいたします。


 あと、もう一つ実はこちらが困っておりまして、今朝から私の娘のソーカが見当たらないのです。


 村の見張りも昨日の騒ぎで潰れていて……もしかしたら外へ出てしまったかもしれないのです。


 レンに聞くと森で花を探したがっていたと言っていたので、その子を探していただけないでしょうか?」




 ちょうどよく村のクエストがしかも全部来てくれた。




「もちろんよろこんで」




 手間が省けて機嫌よく返事するユキムラ。




「ありがとうございます!」




「ソーカちゃんを探すのを優先しますそれではすぐに行ってきます」




「師匠ー!」




 振り返るとレンが走り寄ってくる。




「師匠! ソーカねーちゃん探すんだろ? 俺も行くよ!


 師匠だけだとソーカねーちゃんは怖がって逃げちゃうかもしれないから」




 それもそうだな、レンを守りながらでも大きな問題は起きないだろう。




「わかった、よろしく頼む。だが俺の言うことは守れよ」




「もちろんだよ! もう準備はできてるよ!」




 一緒に行けるのがよほど嬉しいのかぐいぐいとユキムラの腕を引くレン。


 尻尾がついてたらグルングルン回して空でも飛びそうになってるだろうなぁ。かわいいなぁ。




 なるほど村の見張り機能は現在完全にダウンしているようだ。


 見張り台の足元に2体の折り重なる死体、門番も柵を背もたれに夢の世界へ行っている。


 


 「師匠の虫除けのお陰で村の中の害虫も無くなったってみんな喜んでいたぜ!」




 自分のことのように胸を張るレンであった。




「とりあえずソーカねーちゃんが行きたがっていた花畑は、森入って左奥に続く獣道の先にあるよ!」




 例の蜘蛛の巣はまっすぐに行って右に枝分かれした先だ。


 村人が狩りや収集で通るうちに自然と道が出来ていくわけだ。




 森へ入るとレンが言うとおり左奥へつながる道がある。


 微かに足跡も認められる、比較的新しい足跡のような気がする。




「どうやら、当たりみたいだな」




「このあたりはそんなに魔物も出てこないし野犬も少ないから大丈夫だと思うんだけど」




 わかりやすいフラグをレンが立ててくれる。


 ついでに周囲を見渡しながら採集ポイントでささっと食材や資材を手に入れていく。




「師匠はすごいなー、なんでそんなにすぐに食べ物ある場所がわかるの?」




 ポメラニアンがくいっと首を傾げるようなキュートな仕草に思わず口角があがる。




「まぁ、だいたい食材がある場所は雰囲気が違うからな」




 それっぽいことをいうが、実際にはキラキラとしたエフェクトが見える。


 ステータスやアイテム確認画面は任意でオンオフができるので、そういったエフェクトを表示させないことも出来る。


 探索や戦闘以外は基本的にオフにしている。


 そういえばそろそろ最初のJOBチェンジだなぁ、まぁ、初手商人で鑑定取るコースで行こう、便利だからな。


 そんなことをのんびり考えて歩いていると森がパッと開ける。




「おお、すごいなこれは……」




 一面の花畑だ、様々な花が咲き乱れている。




「すごいでしょ師匠、ここは各季節で雰囲気がぜんぜん違うんだぜ!」




 所々に採集ポイントがあるので試しに採取してみる。




 花の蜜(極上)を手に入れた。


 手に入れた蜜をまじまじと見つめているとレンが驚いて声を上げる。




「し、師匠いつの間にそんなに集めたんだ!? そ、そんな量、普通は丸一日かかるよ!」




 「ははは、たまたまだよ」




(採取のコツは中央の円が一番真ん中に集まった時に行って、それを連続でやるとコンボが起きて、


 とか説明するわけにもいかないからなぁ……)




 レンに聞くと特産品らしいのでアイテムポシェットに大事に収納しておく。


 花畑には花をかき分けて進んでいる人の痕跡があるのでそれを辿っていく。


 近くにある採取ポイントからは忘れずに採取もしておく。


 


《キャー!》




 若い女の子の悲鳴が聞こえる。




「師匠あっちだ!」




「待て! レンは後ろからついてこい!」




 ゴブリンリーダーから手に入れたスチールソードを抜刀する。


 そのまま悲鳴が聞こえた方に走り出す。




「師匠! ソーカだ! 狼!? こんなところに?」




 今にも狼達はソーカと呼ばれた……少女だとすっかり思っていたが20歳位の女性を取り囲んでいる。


 ソーカは木を背に恐怖から涙を流している。




「いやぁ! 来ないで!!」




 籠のようなものをブンブンと振り回している、


 そんなものはお構い無しで狼達は段々とソーカを囲む円を小さくしていく。




 このままだと間に合わない。ユキムラは初期装備の短剣を構える。


 


(投擲スキルはないから、注意さえ引ければ!)




 ソーカに当てないように狼に近い方にナイフを投げる。


 ゲームの中でローグ系のキャラが投擲するイメージで投げると、素人ながらそれなりにマシに短剣が飛んでくれた。




「きゃっ!」




 突然のことにソーカも驚かせてしまったが狼の注意をこちらに引きつけることに成功した。




「レン、下がれ、来るぞ!」




 狼が飛びかかってくる。戦闘開始だ!

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