第9話 村の救世主

 レンの家の前に集まった村人たちの前にサリー、レン、そしてユキムラが出て来る。




「さ、サリーさんお体の方は?」




 おどおどとボレスが伺う、サリーの前だと本当に小動物のように肩をすぼめ小さくなっている。




「おかげさまでユキムラ様のお陰ですっかり元気になりました、


 みんなにも迷惑かけたみたいで本当にごめんなさい」




 頭を下げ村人に謝ろうとするサリー、部屋着であるためにこの状態で頭を下げるとどういう状態になるか、村の若い男たちは一瞬で理解して全員に緊張が走ると同時に脅威の集中力が発揮される。


 ゴクリ、緊張感が場を支配する。




「……あ、私ったらこんなだらしない姿で、ごめんなさい、きちっと改めてお礼させてもらうわね」




 ささっと室内へ戻っていくサリー、同時に一斉にため息が漏れる。


 ジト目をする村の女性陣、みな空口笛なんかをしながらそっぽを向くのでありました。




 絶対あの人はわかってやっている。ユキムラは逆に警戒心を強くした。


 これがコミュ障の鑑だ、女性が寄ってきたら、財産を狙うかイルカの絵を売るかマルチか宗教。


 彼の凍りついた女性への心が溶ける日は来るのだろうか?




 約束通りユキムラは毒袋から虫除け(魔物よけ)を作成する。




 虫除け(極上):あらゆる害虫の侵入を防ぎ、明確な敵対心を有する魔物以外の接近を防ぐ。


         低級な害獣や魔物は近づけない、極上品は不浄なものの接近さえも防ぐ。


         さらに雨に濡れようが時が経とうがその効力は弱まることはない。




 とんでもないものが出来上がったが、鑑定スキルもない村人は気がつくことはなかった。


 このお守りのお陰で未来永劫ファス村は守られ続けることになる。




 実はこれだけでゴブリン襲撃イベントを防げてしまったのだが、そんなことは誰一人知ることもなかった。可哀想なゴブリン。




 村の4方向の柵に虫除けを設置して余った虫よけはアイテムポシェットにしまっておく。


 巨大な毒袋だったので20個ストックができた。




 落ち着いた後にユキムラは村長の家へ招待される。


 村の中央、石造りの一番大きな家だ。


 若い衆のまとめ役であるボレスも一緒だ。


 室内には大きな一枚板で作られた年季のあるテーブルと、奥で火が揺らめいている暖炉が印象的な作りをしている。


 村長の奥様からお茶をうけとり、ユキムラは乾いた喉を潤す。


 


「そう言えばユキムラ殿、先ほど聞きそびれたのですが石斧などはどこで手に入れたのですか?」




 村長の当然とも思われる疑問に対する答えは村人を驚愕させることになる。




「ああ、蜘蛛の巣の少し奥にゴブリンの集落があったので壊滅させたんです」




 ちょっと散歩に行きましたみたいにサラッと言ったユキムラの言葉は、あまりに自然だったので一瞬理解されなかった。




「は? 今ゴブリンの集落とか、壊滅?


 まさか長年我らを苦しめているゴブリンをどうにかしたように聞こえましたが……」




「ええ、リーダーの魔石がこれで、首飾りもこんな感じです」




 ユキムラは机の上に戦利品を広げる。


 場は水を打ったように静かになる。


 


「ほんとに……ゴブリンの集落を……壊滅……?」




「はい」




「「「ええええーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」




 その後その事実が村中に知らされて、村総出の宴が行われることになるのは当たり前の流れであった。


 過去に犠牲者も出しているトリカスパイダーの巣を壊滅させて、さらに長い間この村を苦しめていたゴブリンの集落をたった一人で壊滅させた。


 まさにこの村の救世主と言って間違いない存在にユキムラはなっていた。


 


「もののついでだったんだけどなぁ……」




 ユキムラの発言にレンは呆れてしまう。




「師匠……もののついでにゴブリンの集落を壊滅させる人なんていませんよ、


 普通ゴブリンの集落なんて王都の軍隊がやるようなことですよ……


 でも……、さすが師匠です!!」




 レンは満面の笑みだ。


 ゴブリンの首飾りは街にある冒険者ギルドに持っていくと報奨金がもらえるらしい、しばらくこの村を拠点に活動するつもりだから街へ行くのもめんどくさいので全部村長に渡したら、




「今度街へ行く若い奴らに持たせてそのお金はユキムラ殿にお渡しする、


 これ以上は儂らも世話になりすぎて胃が痛いのでそれだけは受け取ってくれ、頼む」




 頭を下げてお願いされてしまって断れなかった。


 


 その後、宴の準備にユキムラも森へ一緒に入って、採集によって様々な食材を提供する。


 すでにこのイベントはVOでおこるイベントからはかけ離れていて、ユキムラの知識でこれから起きることはわからなくなってきている。


 それは新鮮でワクワクする冒険する楽しみを噛みしめるような状態で、ユキムラは久々に楽しんで時間を過ごしていた。


 言ってみれば初めてVOをプレイしながら、何の情報もなく手探りでクエストをクリアしていたときと同じような充実感だった。


 それに合わせて村人一人ひとりとのふれあいがユキムラにとっては楽しくて仕方がなかった。


 とてもゲームとは思えないこの世界にユキムラは少しづつこの世界を受け入れ、受け入れられている。




 ユキムラの圧倒的技術によって積み上げられた素材、食材にまたも村の人々は驚かされ、さらに様々な調理を理解できないスピードで作るユキムラ。


 すでに神格化され始めてきていた。


 宴は大いに盛り上がり初期の段階から急ピッチで食事やお酒が消費されていく。


 ビッグボアの肉や様々な食材で彩られた会場に村人たちは酔いしれていた。


 ユキムラもたくさんの村人から次から次へと杯を交わしているうちにかなり酔っ払っていた。


 来訪者としての酔いの処理がなければ確実に潰れていたのは間違いない。




「ユキムラの兄貴はすげーっす!! 俺なんて、俺なんて……」




 ボレスはボロボロと涙を流しながらユキムラの隣においてある椅子に話し続けている。


 村の若い衆はそこらじゅうで死体のように潰れていた。




「ユキムラ様、飲まれていますか?」




 ユキムラのところにこの村の若い男達をすべて潰してきたサリーが現れた。




 コマンド?


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