第8話 ユキムラ、村に戻りムラムラする。

「お、おいユキムラさんが戻ってきたぞ!! おーーい!!」




 見張り台の上から村に向かって男が叫ぶ。


 ブンブンとユキムラに向かって両腕を振り回す。


 ユキムラも軽く手を振り返して応える。




 レンとサリーさんから事情を聞いた村の皆が、ユキムラを心配していた。


 助けに行くか? でもどこに向かったかわからない、待つしか無い。


 そんな話し合いがされたが、森から煙が上がったことでボレスを中心とした若い衆で探索に出よう、そう話がついたところだった。


 みんなワラワラと森方向に設置してある弓打ち台に登ってユキムラに手を振る。


 ビッグボアの肉や素材の話が村にも広がって、皆ユキムラに感謝していた。




 ユキムラも見張り台や柵の上から顔をだす村人に手を振り返す。


 自分を待ってくれている人がいるっていうのは嬉しいものだな、ユキムラはそう感じた。




「ししょーーーーーー!!!!!」




 村の横まで来たら入り口の方からレンが全速力で走ってきてそのままユキムラの胸に飛び込んできた。




「おおっとと、ただいまレン。ちゃんと解毒薬は手に入れてきたぞ」




「ししょー! ししょー!」




 もうすでに泣くのを我慢せずにユキムラのレザーアーマーが濡れていく。




「おいおい、レン、革の匂いがついちゃうぞ、それにちょっと返り血もついてるし……」




 100体近い魔物を倒したにしてはあまりにもきれいではあったが、やはり少しは汚れている。


 そっとレンを地面におろしてあげて手を繋いで村へと戻る。




「ユキムラ! 大丈夫だったのか!? 


 トリカスパイダーの巣といえば外にいるのと比べ物にならないほどデカイ奴がいるって噂だけど……」




 村に入るとすぐにボレスが心配してくれる。




「ああ、洞窟に巣食っててジャイアントトリカスパイダーもいたけど、ほら、倒してきたよ。


 あと卵も処分してきた。しばらくは大丈夫じゃないかな?」




 手に入れたジャイアントトリカスパイダーの魔石を見せる。


 回りにいる村人がざわめき始める、トリカスパイダーは卵が孵る時期に大量の食料を捕獲する。


 動物だったり、人間だったり。この村でも過去、犠牲になってしまった人は出ている。


 もう少し放置されていたらまた犠牲になったものが出たかも知れなかったのだ。


 


「念のためにあとで毒袋、手に入れたから虫除け作っておく。


 村の柵に何箇所か吊るしておけばいい」




 ジャイアントトリカスパイダーの毒袋から作る虫よけは虫だけじゃなくて、魔物も嫌がるので毒袋は高額で取引される。




「トリカスパイダーの毒袋、しかもそんな巨大な物を買う金はこんな小さな村には残念ながら……」




 村長と呼ばれた老人が前に出てくる。ユキムラは首を振る。




「別にいいですよ、久しぶりの調合なので調合場所さえ貸してもらえれば虫よけは差し上げます」




 村人も村長もボレスも驚きを隠せない、レンだけはえっへんと胸を張っている。


 どうだい俺の師匠は凄いだろう、そんな面持ちだ。




「ありがたい、本当に感謝する」




 がっしりとユキムラの手を村長が握る。




「あ、あとこれももっててもしょうがないので差し上げます。邪魔なので」




 石製の斧やら槍やらをアイテムポシェットから取り出して地面に並べる。


 皆、シーンとなって口を開けてそれを眺めるしか無い。


 石製の武具は価値はあまり高くないとは言え、ゴブリンのスキル、石膏術で切り出された武器は実は普通の人からすると便利な代物だ。


 それらが大量にしかもただでくれる。


 村人は一気にヒートアップする。




 うおー! 村の救い主だ!


 うちのガタが来てた斧が立派になるぜ!


 いざってときの武器もこれでたっぷり余裕ができる!


 ユーキムラ! ユーキムラ! ユーキムラ!




 沸き起こるユキムラコールだ。


 レンはひっくり返るんじゃないかってくらい胸を反らせている。




「ははは、まぁ、とりあえず早くサリーさんに解毒薬を、彼女我慢してますがかなり辛いはずです」




 バッと真顔になるボレスはがっしりとユキムラの手を握る。




「頼む、サリーさんを頼むユキムラ、いや、ユキムラの兄貴!!」




「ち、近い……」




 そのあと全員でレンの家に入ろうとする若い衆を押しとどめてサリーのいる寝室へと入る。




「んっ……はぁはぁ……くっ……」




 苦悶に悶えるサリー。辛そうだ、身体が火照るのか衣服も少しはだけ気味だ。


 その見事な山が今にも零れそうで、汗に濡れた肌と乱れた呼吸と漏れる吐息……


 思わずユキムラは立ち尽くしてしまう。




「師匠、母ちゃん助かるよな?」




 心配そうなレンの声で我に返る。


 いかんいかんとブンブン顔を振る。




「サリーさん、解毒薬を持ってきた。これを飲めば大丈夫だ、さぁ」




 薄っすらと目を開くサリー、しかしその目は焦点が合っていない。


 このままじゃうまく飲むことは出来ない、これはもう口移ししか……




(あ、そういやこれがあった)




「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……」




 知性に振っていないので雀の涙ほどだが回復するヒールをMPがあるだけかける。


 その甲斐もあってサリーは目に見えて楽そうになる。




「あ、ユキムラさん。ご無事でしたか、すみませんこんなはしたない姿で」




 乱れた衣服を戻す仕草も艶めかしい、思わず喉が鳴る。




「あ、ああ大丈夫だ、それより解毒薬だ、早く飲んだほうがいい」




 解毒剤を手渡すとサリーがコクコクと飲み干していく。


 口の端から少しこぼれた解毒薬が鎖骨から胸の谷間にツーーッと流れていく、思わずユキムラの視線が集中してしまう。




「ふーっ……」




 サリーのため息で現実世界へと呼び戻される。




(いちいちすべての行動が艶っぽいんだよこの人は……)




「傷を見せてもらっても?」




「はい、お願いします」




 服の袖を捲し上げると先程の傷の周りの変色がスーッと治まってようやく傷薬の効能が出てくる、2箇所の穴のような傷もみるみる消えていく。




「もう大丈夫だ」


 


「ほんとに楽になりました、何から何までありがとうございます。


 この御恩どうお返しすればいいか……」




 すこし潤みを含んだ目でまっすぐとユキムラの瞳を見つめるサリー。




(わざとやっているのかこの人)




「き、きにゅしなくていい。レンにはこの村まで案内してもらった恩があるからな」




 ごまかしてレンの頭をぽんぽんする。


 レンは尊敬の眼差しでユキムラを見つめている。




「師匠ありがとうございます! 俺決めた!! 師匠に一生ついていきます!!」




 突然の発言にサリーが驚く。




「まぁレンったらユキムラ様が困るでしょ、無理を言ってはいけませんよ?」




「ダメかな師匠?」




 まるで捨てられた子犬が悲しそうに見つめてくるような目で見上げてくる。


 金髪美少年がそれをすると、そういう趣向をもっていないユキムラでも破壊力抜群だ。




「まぁ、急ぐことは無いだろう。まだ俺はどこに行けばいいかもわからない、


 しばらくは村の厄介になるしかないから、その間に教えられることは教えてやる」




「ありがとう師匠だーいすき!!」 




 ぱぁっと明るい顔になって嬉しそうに抱きついてくるレン。


 あまりの可愛さに胸がときめきそうになるが、そういう趣味はないと必死に心のなかで唱えるユキムラだった。

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