最終章、巡る世界編――落ちこぼれ勇者候補生と最強の魔王候補生

第273話 受け継がれる想い

 剣と魔法の世界『リューテモア』に、勇者と魔王が現れてから二百年。

 生ける伝説となった勇者の力は人々の間で受け継がれ、その力を継ぐ者を人は、『勇者候補生』と呼ぶ。

 勇者候補生たちを束ねた勇者協会の元に、人々は未だ世界へ脅威を残す魔王討伐を目指した――。


 それが、二人・・の約束の果てにあった、今の世界――『此の世』のカタチだ。

『勇者と魔王の約束』の上に成り立った歪んだ世界リバースワールドでは、そう語られ、かたられた。


 ただの憧れではない。

 勇者の活躍する物語が好きだっただけ、世界の広さに憧れただけだった、何も知らなったわたしとは違う。

 広い世界を巡って旅をして、わたしの手を引いてくれた彼がいて――そして、知ったから。


 この世界が、何を隠し、何を守るために巡っていたか。


 真実を求める炎は、いつだって胸のうちに灯っている。

 だから、そんな炎を絶やすわけにはいかないこともわかっていた。

 受け継いだから。胸に宿した想いを燃やしているから。

 真実を追い求めた長い旅の中、出会いと別れを繰り返し、皆の想いを紡いで、託された言葉を抱えて、だけど、その全てをこの手ですくえたわけではない。

 大切なモノもたくさん手の中から零れ落ちていった。


 思惑縺れた幻惑の中、敵対し救えなかった想いもあった。

 己の弱さに涙を流した友に、共に寄り添って優しさを知った。

 国を巡る騒乱の最中、大切なモノを守るために命を落とした者の背中を見た。

 悔しくて泣いた夜もある。帰りを待つだけの日々に、嬉しい再会もあった。

 だけど、望まない「さようなら」を告げて、そして、共に大切なモノを失った。


――『……まだ、全てが終わったわけでは、ない』

――『希望を託す。二人に未来を紡ぎ、この世界に訪れる真の救済を信じている』


 腕の中から消えゆく愛の重さに。白い光の中に薄れゆく覚悟の背中に。

 二人の言葉が、わたしの胸の中にも強く刻まれている。


 見送ってしまった。見送るしかなかった。

 それは決して、わたしたちがただ無力であったからではないはずだ。

 だから失くしてしまっても、二人であれるなら、一人でないのなら……そう想って、絶やすわけにはいかない炎を灯したままに、前へ進むしかない。


 世界はもう、動きはじめている。

 どうすることもできない『破滅』を前に。


 それを止められるのは、わたしたちだけだから。

 そんなことはきっと、彼もわかっている。

 だけど、今だけは――少しだけ、時間が必要だったのだろう。

 目の前で繰り返されたどうしようもない現実を受け止めるためには、きっと、わたしにも時間が必要だった。


 この世界を守ってくれていた家族は死に、この長い旅を見守ってくれた最愛の友も失った。

 立ち止まるわけではない。

 わたしたちはその想いを受け継いで、前へ進まなければいけないのだから。



――三月十九日さんのつきじゅうきゅうのひ。エリンスとアグルエが魔界より帰還を果たしたその日、勇者協会総本部は、世界のうねりに呑み込まれていく。


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