第6章、赤の軌跡編――迫る剣客、巡る世界
第81話 一人目の来訪者
「あーらら、これはまた……何が『問題なし』なんだか!」
高い城壁で囲まれたファーラス王国を目前に、その南門に掛かる石造りの大きな橋の上。
顔と首元以外全身の肌を隠す濃紺色の修道服を身に纏った女性が、城門外にできた難民キャンプ跡地を見渡しながら一人、怒ったよう口にする。
一見して、旅の
旅をしてきたにしては荷物がない。
手ぶらであり、鞄の
「こりゃー、文句の一つでも言いたくなるね」
橋を渡る人々が
「異常あり、じゃん」
スッと右手を挙げたシスターが虚空を掴むようにすると、その指の間にはペンと手帳が握られていた。
上位の魔導士にしか扱うことのできない、空間収納魔法――彼女はそれを無詠唱でやってのける。
あまりにも自然な動作に、回りを歩く人々が気づく様子もなく、シスターは橋の欄干の上に手帳を開いた。
そしてそのまま、『国の外にて既に異常あり』と書き込んだ。
閉じた手帳とペンをひょいっと上に投げるシスター。
その動作に合わせて、それらは虚空へと消える。
他人には見えない、
「はぁ、全く。嫌な予感はやっぱり当たるよ」
そう言って不機嫌そうにしながらも、切れ長の大きな目を妖艶に光らせ笑う。
橋をゆく人々は、もう彼女のことを気にしている様子もなかった。
彼女の名は――シスターマリー。
勇者協会総本部サークリア大聖堂よりとある任務を受けて、
大規模な難民キャンプ跡地。
街の外にそのようなものがあれば、今しがたファーラスへと到着したマリーにも何か異常が起こったことくらい、すぐに察しがついた。
勇者協会の職員と城の兵士たちが現在進行形で協力して、簡易テントなどの後片付けをしているようだが。
「町民の姿は見えないね」
目を細めてその様子を横目に眺めたマリーは進む先、ファーラス王国南門を見上げた。
修道服の首元より溢れた長い金髪が風に吹かれて揺れる。
「一体何があったんだか……まあ、それにこの感じ。
そろそろ追いつけるはずなんだよね、わたしの勘だと」
マリーは不敵に笑ってから、目的を遂行するために歩き出す。
その言葉には何か含みがあって――彼女もまたとある思惑を持って、
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