第43話 幕間 勇者協会に届いた報告


 サミスクリア大陸、サークリア大聖堂。

 200年前――勇者が現れてから世界の中心だとされたその地には、今やリューテモアのほとんどにまで手を伸ばした勇者協会総本部が建立されている。


 その勇者協会総本部の一室――大きな執務室。

 部屋の中の大きな棚には、旗やら盾やら勲章やらトロフィーやら、と金銀含め様々な色に光るような「功績」が並べられていた。

 これまた豪華で大きな机と椅子には部屋の主――勇者協会最高責任者である白髭を蓄えた老師マースレン・ヒーリックが腰を掛けている。

 室内にはもう一人――書類に目を通しながら考え事をしているマースレンへと声を掛ける、修道服を身に纏った女性の姿もある。


「――ってことで、ルスプンテルのほうは一段落したっぽいですよ」

「ふむ……」


 どこか見た目にそぐわない軽い雰囲気で話した女性からの報告を聞いたマースレンは、書類に目を落としたままに頷いた。

 港町ルスプンテルより届いた「今回の騒動」に関してまとめられた資料を一通り読んで、マースレンは顔を上げる。


「それで、ファーラスのほうで起きたと聞いた異変はどうなった?」


 女性の顔へと目を向けたマースレンが聞き返す。


「どうもそっちはよくわからなくて。何事もなかったみたいですよ。

 一応『問題なし』と現地からの報告は入っていましたがねぇ。

 どーも、わたしが報告を聞いても、違和感があるというか」

「ハッキリしないようじゃな」

嫌な予感・・・・って言うんですかねぇ、こういうのって」


 そう女性から報告を聞いたマースレンは、再び書類に目を通してから返事をした。


「こっちも、どうも報告書に違和がある。あの坊主レオルアが何か隠したようじゃな」


 マースレンが口にした指摘に何やら鋭さを感じ取った女性は「へぇ、そうなんすか」と一言返した。


「それってやっぱ、『魔王候補生』が関係あったから、なんですかね」


 ダーナレクという魔王候補生の出現、ルスプンテルを襲った災禍さいかについては、当然勇者協会総本部にまで報告が届いていた。

 マースレンも修道服の女性も、魔王候補生の名を知ることとなっている。


「ここでこうして報告書を見てもわからんことじゃなぁ」


 マースレンは手にした書類をポンッと投げ出すと女性へと顔を向けた。

 女性はその眼差しに嫌な予感がして、部屋から今すぐにでも逃げ出したくなるような気持ちになった。


「嫌ですよ、わたし」


 先手を打った女性にマースレンは冷酷なままに言葉を続けた。


「シスターマリーに命ず、ルスプンテルの調査とファーラスの調査、頼むぞ」


 シスターマリーと――そう呼ばれた女性は嫌そうな声を上げて、それにこたえた。


「えぇー! 二つもですか?」


 そんなマリーに対しマースレンはただ静かに一回、「うむ」と頷く。


「……わかりましたよ、めんどくさ」

「聞こえておるぞ」

「はいはいっと」


 ボソッと愚痴までこぼすようにしたマリーにマースレンが釘を刺すようにする。

 その言葉で観念したらしいマリーは手を振ると、そのまま部屋を後にした。



◇◇◇



 そうして――五日前に特例の任務を受けてサークリア大聖堂を旅立ったマリーの姿は、港町ルスプンテルを一望できる高台の公園にあった。

 マリーは未だ復興賑わう町を眺めながら、道すがら立ち寄った「白の軌跡」で白の番人クルトよりもらった名簿を片手に考えるのだった。


「へぇーエリンス・アークイル。あのときの青年かぁ」


 手にしている名簿は、現時点での白の軌跡クリア者の名前が連なるもの。

 そしてそこには同盟パーティー相手の名前も続いていた。

 仲間を探す気はないと語っていた彼の横に、続く名が。


「魔導士アグルエ、ねぇ。ふーん……」


 空を眺めながら、その名を口にして――マリーが何を考えていたのかは誰にもわからない。




        ――燃ゆる災禍に、その剣は輝く fin,

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る