第2話【誘惑】

「んぅ......おじさん、いきなりそこにいくんだ。マニアックだね」


 おおい被さるように彼女のうなじへ犬みたいに顔を埋めれば、くすぐったいのか、笑いにも似たうめき声がこぼれる。

 柑橘系のいい匂いは俺の脳みそをさらに痺れさせ、もっと彼女に触れたいという気持ちに駆らられれば、胸とブラジャーの隙間に手を滑り込ませて直接わしづかむ。

 柔らかすぎない、適度な弾力のある乳房は掌に丁度収まる具合のサイズ。

 揉む度に彼女の口からは甘い吐息がこぼれ、俺の耳元から脳みそに伝わり心臓の鼓動をさらに早めさせる。

 上だけででなく下の感触も確かめたくなり、数回揉んだあとに手を彼女の下半身へと滑らせた。

 俺が見つける前から一人行為に及んでいたこともあって、下着越しから触っただけでもわかるくらい、彼女の女としての部分は激しく濡れていた。

 指に生暖かい体液が粘りつき、ダムが決壊したかのように下着の下から溢れ出してくる。


 ――彼女を俺のものに、支配したい。


 よこしまな想いを、俺は名前も知らない目の前で甘くもだえているJKに突発的に抱き、うなじから顔を起こす。

 そしてさらなる快楽を求めて彼女にキスしようと顔を近づけた――その時だった。


 一瞬目が合った彼女の綺麗な瞳の奥底から、悲哀に似た、感情の色が感じ取れた。 

 表情や体は喜んでいるふうを装っていても、心ではどこか一歩引いた距離で自分を見ている。そう俺は勝手に思い込んでしまった。


 ――自分から誘っておいて、こいつはなんでそんな寂しそうな目をしているんだ?


 余計な考えが頭をよぎるようになり、とても行為に集中できる状態ではなくなってしまい、俺の男たる部分からも血の気が引き始めた。

 いくら気を紛らわすためとはいえ、どこの誰ともわからないこんな未成年のガキ相手に腰振ろうとまでして――バカか俺は!!

 一気に酔いがさめていくのを知覚すると同時に、後悔の波が俺を襲う。

 

「......どうしたの?」


 俺が急に体から離れたもんだから、困惑した眼差しを向けてくる。


「......やめだ」

「え?」

「んな悲しい目でされたら、立つものも立たなくなっちまった」


「ウソ、私悲しくなんかないよ? それにおじさんだって、ほんのついさっきまで私の体で興奮してたよね?」


「とにかくだ! 俺に女、しかもガキ相手にレイプする趣味はねぇ。もしプライドを傷つけられたっていうなら、今から俺を警察に突き出すなり好きにしてくれ。今晩泊まる場所が確保できて助かる」


 自分でも何を言ってるのかさっぱりだが、断る理由としてはもっともらしい雰囲気の一つは出せたのではないだろうか。


「.........ぷ、ははははははははは!」 


 困惑の表情から一転、彼女は大きく声を出して笑った。夜もだいぶ深くなった静かな公園に響き渡る。


「...おじさん面白いね。名前は?」

「名前? ......風間かざまだけど」


「ねぇ風間さん、私のパパになってよ」


「............は?」


 何言ってんだコイツは?

 体を起こし俺を見つめる彼女の真意が全くわからない。


「丁度いま、パパの席が空いてるんだよね」

「お前、俺の話し聞いてなかったのか? 見てのとおり、俺は住む家どころか、なけなしの金を酒で使っちまったばかりの所持金3円ホームレス確定男なんだぞ? そんな奴がどうやって金なんて払うんだよ?」


「違うよ。風間さんがお金を払うんじゃなくて、払うのは私の方」


 ......益々謎なんだが。酔っぱらってる俺をバカしにしてるんじゃないだろうな?

 眉をひそめる俺に彼女を言葉を続けて。


「今までのパパは私が何も言わなくてもお金を渡してきたけど、今度からは私がパパにお金を渡そうかなって。要するに一種の雇用契約だと思ってくれればいいよ」


「雇用契約......ねぇ」


 意味はなんとかく理解はしたが、彼女の突拍子もない提案にただ唖然とするばかり。


「パパっつても、具体的に何をどうすればいいんだ?」

「そうだね......とりあえず私の家で一緒に住むところか始めようか」

「つまり同居しろと? いや、さすがにそいつは無理だろ。お前の両親が許しくれるはずが――」

「何言ってるの? 私、両親いないから一人暮らしだよ。だからパパ活してるんだけど」


 どうやら俺の想像している世間一般のパパ活と、コイツが新たに実行しようといるパパ活には決定的な違いがあるようだ。


「だとしても、未成年の女と一つ屋根の下で暮らすのはいくら何でも...」

「風間さん、他に頼れる宛あるの?」


 彼女の的を射た指摘に嘆息しかでねぇ......。

 プライドよりも今晩の寝床ねどこが確保できる嬉しさの方がまさってしまう。


「じゃあ決まりね。お給料とか詳しい詳細はうちで話し合って決めるとして――あ、ちょっと待ってて!」


 そう言って彼女は再び自分で自分の体を慰め始めたので、俺は慌てて顔を背けた。


「誰かさんのせいでイキそびれちゃったからさ...んぅ......これだけさせてくれる? 大丈夫......はぁっ! ...私、手慣れてるから.....」


「だからってお前、わざわざ俺の前で突然始めなくても......」

「風間さんもやっぱりしたくなっちゃった?」

「バカいえ! 誰がガキなんかと」

「フフ」


 トントン拍子に俺がJKと一つ屋根の下で暮らすことが決定し、これはきっと夢なんだと思い始めている自分も存在する。

 だとしてもこの際だ。

 月明かりと外灯に照らされた、この絶頂間際な変態魔女様からの甘い誘惑に乗ってやろうじゃねぇか。

 ほどなくして、虫たちの合唱に混ざって人間のメスの鳴き声が俺の耳に響いた。

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