月給23万でパパ活JKにパパとして雇われた、元ヒモの俺。住み込みだから家賃もかからない。

せんと

第1話【月下の魔女】

 ――地獄。


 いま俺が置かれている状況はまさにそんな感じだ。

 1年前に仕事で自律神経をやってしまい会社を退職。

 それからは同棲している彼女のヒモとして養ってもらうも、つい一週間前にその彼女が友人に寝取られ住む家を追い出される始末――。

 昼間は主にこの公園で過ごし、夜はネットカフェを転々とする生活を続けてきたが......先程コンビニで買ったストロング系チューハイ1缶でついに所持金も3円と底を尽きた。

 ラスイチのタバコも吸い終わり、いよいよホームレス生活に王手をかけたこの絶望的状況を地獄以外に何と例えられよう。


 夜も深いこの時間、公園のベンチを死んだ目で一人佇む俺に話しかける奴どころか、目の前を通る人間さえ誰もいやしない。

 ずっとこちらを凝視ぎょうししている奴ならいるが......そいつは地上より遥か遠くの頭上、暗雲の隙間からあざ笑うかのように一つ目の眼差しを向けている。


 ――見てないで助けろや、ボケ。


 惑星規模の大きな石塊せっかいにミジンコ以下の俺の気持ちが伝わるわけがないとわかっていても、呟かずにはいられない。

 チューハイを飲み終え目的の無くなった俺を、孤独・絶望・空腹が容赦なくいっぺんに襲い掛かる。


 ――俺の人生、どうして――どこからこうなった?


 後悔という名の走馬灯が脳裏によみがえるが、枯れ果ててしまった感情では一滴の涙すら出てこない。

 どの道ではどうしようもできなかっただろうし、気づいたところで一度壊れてしまった関係は二度と元には戻らない。それが早いか遅いかの違いのみ。たまたまタイミングが悪かったとしか言えない。


 9月下旬だというのに、今日の夜風は嫌に寒く感じる。

 いよいよ俺の死期が近づいてきたか......なんて酔っぱらいが自虐的に気持ち悪くほくそ笑んでいると、ベンチの裏、芝生のスペース辺りで何やら物音がする。

 のけぞって確認しようにも樹木が邪魔でよく見えない。

 どうせ盛りのついた若い男女が我慢できなくて野外プレイでもしてんだろ。羨ましい限りで。


 ――せっかくだから、死ぬ前に覗いてやるか。


 俺は酒で酔った体をベンチから立ち上がらせると、相手に気づかれないよう静かに樹木の中を進んだ。

 ほどなくして一面に芝生が広がるスペースに辿り着き、樹木の陰からこっそり音のする方を目を凝らしてみれば、


 .....いた。

 ――しかし、妙だった――。


 制服を着たJKらしき若い女が一人、芝生の上に寝転がり、激しく色っぽい声を漏らしながら夢中で体をくねらせている。


 こいつはひょっとして――自家発電というヤツではないのか?


 初めて見る女性の自慰行為に俺は興味深々で、気がつけばもっと近くで観察したいという想いに駆られ、彼女の視界に入る距離まで接近していた。


「......おいお前、何してんだ?」


 とろけた瞳で俺を見上げる彼女は、名前も知らない通りすがりの赤の他人に自慰行為を見られているにも拘わらず、一切その手を止めようとしなかった。

 腰まで長い見事なまでに真っ黒な髪は乱れ、ワイシャツがはだけた胸元からは真っ白に透き通った肌、そして薄紫色のブラジャーが大胆に覗いている。当然、下、スカートも同様。


「んぅ.........ねぇ、知ってる? 地球上の生き物が満月の日に興奮するのって...月の引力のせいなんだって....はぁん! ......不思議だよね...あんな遠くにある石が私たちの体に影響を及ぼすなんて...」


「だからって、何もこんな場所で一人でしなくてもいいじゃねぇか」


「そんなこと私の勝手でしょ? ......家までどうしても我慢できなかったの...あふぅ......ここなら月も綺麗に見えるし、おじさんみたいな虫が寄って来るかなって...」


 どうやら俺は、まんまとこの変態JKの企みに引っかかってしまったらしい。


「おじさんも一緒に気持ち良くならない?」

「俺はおじさんじゃねぇ。まだ26だ」

「そうなんだ、髭が凄いからてっきり余裕でアラサー超えてるかと思った」

「しょうがねぇだろ。とてもじゃないが、身だしなみを気にしている余裕なんてなかったんだから」


 家を出る数日前に彼女から小遣いを貰っていたとはいえ、たかがひげ剃り買う程度の金でも食と住以外で使う気にはなれなかった。多分、自律神経が壊れた直後でもここまで伸ばしてはいない。  


「おじさんはホームレス?」

「......一歩手前だ」

「何それ?」

「住む家を追い出されたんだよ。金が無くて部屋も借りられねぇし、こうやって公園で時間潰してる」

「そうなんだ......じゃあ尚更私とエッチして嫌なことから忘れなきゃ」

「だから何でそうなるんだよ?」

「だっておじさん、可哀そうだし」

「ガキが生意気に大人に同情してんじゃねぇ」

「隠しても無駄。体は正直に反応してるし」

「触んな」


 上半身を起こし、熱くなった俺の股間を布越しに優しく撫でてくるJKの手を払った。

 ぞわりとした感覚が全身を駆け巡り、心臓の鼓動が激しさを増す。


「今なら合法的に女子高生とやれるよ? こんなチャンス二度とないかもよ? おじさん、人生に疲れてるんでしょ? 私が全部吐き出させてあげる」


 再度股間に手を伸ばし、赤ん坊の背中でもさするかのように愛撫あいぶされれば、

自分の中で静かに崩れ始めた。


 ......そうだ、どうして俺ばかりがこんな目に合わなければいけないんだ?

 あいつだって俺を裏切って他の男と楽しい思いをしているんだから、逆のことをされても何も文句は言えないよな...?


 JKに似つかわしくない、妖艶たる笑みを浮かべる魔女の甘い囁きに俺の脳内はショートし、寝取られた事実を都合の良いように解釈する。

 そして――心の奥底に眠っていた本能の赴くまま――目の前にいる彼女の両肩を掴み――押し倒した――。


         ◇

 第1話を読んでいただきありがとうございます!

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