第3話【雇用契約】
朝。
空腹で目が覚めれば、視界には見知らぬ真っ白な天井が映る。
......そうか、ここはアイツの家か。
あの後、俺は公園で偶然知り合った、名前も知らない変態パパ活JKの家に連れて来られた。
部屋に入り、リビングのソファーに座って、彼女が着替えから戻って来るのを待っていたまでの記憶はあるんだが......どうやら寝落ちしてしまったらしい。俺の体には水色
のタオルケットがかけられている。
一週間ぶりにネットカフェ以外で寝られる安堵感からつい気が緩んだのだろう。
しかしまぁ、JKの一人暮らしの部屋にしては随分と不似合いで大きなソファだな。8人掛け用くらいか?
「――ようやく起きた。おはよう」
「ああ、おはよ......おぅっ!?」
ソファに仰向けで横たわっている俺の元へ、この家の主は首にタオル一枚かけただけの、ほぼ全裸という状態でやってきた。
某黒ひげの玩具のように、俺は思わず驚いて飛び起きてしまう。
「ん? どうしたの? 歌舞伎役者みたいな声出して?」
「お前...なんで服着てねぇんだよ!?」
「なんでって......いまお風呂から上がったばかりだから」
特に恥ずかしがる様子もなく、何故俺が取り乱しているのかわからないといった眼差しを向けている。
「だとしても普通は部屋に男がいたら服くらい着て来るだろうが!」
「いや、だってここ私の家だし。それにお風呂上りにこうやって裸で過ごすのって結構気持ちいいんだよ。風間さんもやってみたら?」
「やるかバカ!」
「あー、自分の娘にバカって言ったらいけないんだー」
なるほど、コイツの中ではもう既に俺は父親という設定なわけか――だったらそいつを上手く利用するまでだ。
「じゃあ父親として命令してやる。いいから風邪引く前にさっさと服着てこい」
「はーい、わかったよパパ」
俺が父親らしいもっともなことを言ってやれば、彼女は素直に言うことを聞いてリビングを出て行った。
――ホント、昨晩からコイツの行動には驚いてばかりな気がする......最近のJKって皆、あんな感じなのか?
***
数分後。
見覚えのある制服姿に着替え戻ってきた彼女はカウンターキッチンの中に入り、トースターでパンを焼き始めた。
考えてみたら昨日の朝から何も食べてないんだったな。
リビングにまで広がる香ばしいパンの匂いが俺の胃袋を刺激し、焼き上がりを今か今かと待ち望んでいる。
「食べながらでいいから、昨日の話しの続きね」
テーブルを囲んだ反対側のソファに座っている彼女は、俺がトーストにがっついているのを鼻を鳴らして笑いつつ、契約の件について説明を始めた。
「今日から風間さんは私のパパ――お父さんとして一緒にここで生活してもらいます」
「昨日も思ったんだが、正気かよ」
「冗談に聴こえた?」
「んにゃ」
確かに、昨晩この話しを持ち出した時の彼女は、嘘偽りの無い真剣な瞳で俺を見つめていた。
内容が内容なだけに
そして何より、俺には彼女がそういうことをしない子だと、特に理由もなく漠然と思ってしまっている。簡単に信用するのは危険なはずなのにな。
「パパっていうけど、具体的に俺は何をすればいいんだ?」
「......さぁ?」
「は?」
おい雇い主、疑問に疑問で返されても困るんだが。
「その辺は風間さんに任せるよ」
「任せるったって、お前な」
「風間さんは、風間さんの理想なパパを演じてくれればいいからさ」
「俺の理想......ねぇ」
正直なところ、俺は父親に対しあまりいい思い出がなかったので理想と言われても全くピンとこない。
「あとこれはお給料ね。風間さん、残金3円って昨日ぼやいてたから、今回だけは前金で先に渡しておくね」
そう言って手渡された銀行の封筒をその場で開け、中のお札を数えてみると、
「――20万!?」
「あれ? 少なかった? 一ヶ月間は試用期間としても光熱費は私持ちだから、このくらいあれば足りると思ったんだけど」
「逆だ! え、試用期間あんのかよ!?」
「当然でしょ」
試用期間でもサラリーマンの平均月収近くとは.........本契約になったら一体いくらになるのか想像できん。
ていうかその前に、未成年がこんな大金を俺に払って大丈夫なのか?
「一応確認しときたいんだが、その金、パパ活で得た金じゃないよな?」
「違うよ。
裕福なのは高級とまではいかなくても、こんな立派なオートロック付きの広いマンションに一人暮らししてる時点で察しはついていたが――。
「風間さんが多いって言うなら減らすけど?」
「......この金額でお願いします」
「正直でよろしい」
深々と頭を下げる俺に彼女はクスリと笑った。
まぁ、本人がいいって言うなら別に無理に金額を下げなくてもいいか。
情けないが、とにかく今の俺には少しでも金が必要なんでな。
「これからよろしくね、パーパ!」
「パパはやめてくれ」
JKからパパなんて呼ばれるといかがわしいことをしている気分になる上に、なんだか自分が酷く年喰った感覚に陥る。
「しょうがないな.........じゃあ風間さんで」
「それで頼む。えーと......」
「ごめん、そういえば自己紹介まだしてなかったね。私の名前は
ようやく名前を名乗った彼女――三上世愛と俺の、
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