イカれた勇者から逃げろ 3

それにこの作戦にはメリットがある、それは俺が目立つ必要がないことだ。


あんな変態勇者に会うのは絶対に会いたくない。


ああ、あの時の勇者の顔を見るだけで鳥肌が……。


こうして皆が思った以上に仕事をしてくれたおかげで三代国家以外は、全て俺たちの手中に収めることに成功した。


賄賂や勇者への不満を煽り、時には暗殺などもして敵になり得る存在を消した。


こうやって少しづつ、努力を積み重ねることで俺たちは成功を成した。



「これであとは元凶である勇者を召喚した国のみ」


「もう1年ですか、早いですね」


「ああ、そうだな、あのおじいちゃん、いや村長はもう……」


「大変です!!」


「どうした…」


「勇者が一斉に街を攻めてきました!!」


「やはりそうきたか、よし!!戦闘準備!!俺たちがなんのために仲間を集めてきたと思っている!!覚悟を決めろ!!迎え撃て!!」


「はい!!」



俺たちは仲間を集めた、だがただ弱いもの達だけを集めてきただけではない。


世の中には勇者に匹敵する存在もちらほら隠れていた。


俺たちはそいう人たちも仲間として集めていたのだ。



「報告!!勇者4名の撃破に成功!!我々の犠牲者は300人!!」


「そうか、その地域にはしばらく休むように連絡しろ!!」


「はっ!!」


「報告します!!勇者10名を撃破!!死者は1000人を超えたそうです!!さらに戦力の一人、ガルフが勇者を道連れに死亡したとのことです!!」


「な!?そうか、ガルフ、お前はすごくでの剣士だった、その地域にも休むように連絡を」


「はっ!!」



勇者の撃破数は30人を超え、俺の予想を超える戦果を出してくれた。


だが、俺たちの死者は1万を一瞬で超えて、1日目の戦いでは死者は2万を超えた。



「ご苦労だった、皆しっかりと休むように…」



(この調子では勇者を全滅させる前に俺たちが集めた仲間が全員死ぬ、一体どうしたら…)



「どうしましたか?魔王様」


「いや、このままでは負けると思ってな」


「う…やはりここはもう撤退すべきでは?」


「それはできない、すでに最高戦力の一人、ガルフを失っている、あいつの死を無駄にはできない」


「しかし……」


「ここはやはり、魔王の秘術を使うしかない」


「なっ!?しかし、それを使えば魔王様の命は!!それにその秘術には仲間の信頼の心が必要です、いくら仲間が多くとも、魔王様のことが魔族と分かれば…」


「俺はこの数年、人間と過ごしてわかったことがある、それは人間も魔族もなんも変わりにない生きる生命なんだって…だから俺の目的はすでに変わっている」


「変わった目的とは、一体…」


「魔族と人間の共存…」


「なっ!?それは!!」


「おかしいと思うか?だが案外できるかも知れないぞ、明日俺は自分の正体を明かす、最後の賭けだ」


「魔王様…」


「最後の俺の生き様、見ていてくれ、アゲチ」


「わかりました、魔王様は一度決めると止まりませんから、ついていきますとも…」



こうして次の朝、俺は今いる全員と見届けられない人には魔法を通してこちらに集めた。



「みんな聞いてほしい、俺はずっと隠していたことがある、俺は『魔王』だ、俺は勇者を殺すためにお前達を利用した、幻滅したか!!絶望したか!!」



俺が語りける言葉などない、俺はただありのままを伝える。


皆の反応はどよめきだった。


だが、誰一人として、避難しなかった。



「何言ってるんだ!!だからなんだって話だぜ」


「そうだよ!!今更そんなこと言われても遅えって」


「もう覚悟はできてたし、俺たちは勇者を排除したいだけだ、魔王さんは違うのか?」


「それにさぁ、ちょっと勘づいていたんだよね、だって明らかに指揮とか手慣れてたしさぁ、もしかしたらって…」



意外な反応の数々、そして奇跡というべき出来事が俺の前で起きていた。


誰一人、俺を非難せず、むしろだからっと嘲笑った。



「お前ら…」


「けどよ、俺たちをここまで導いたんだ!!ちゃんと責任は取れよな!!」


「ああ、そうだな!!」


「ふん、責任ぐらい、いくらでも取るさぁ…」



そしてこれからの作戦を説明した。



「これからの作戦だが、君たちが戦場に出る必要はない、俺はこれから魔王の秘術を使う」



その言葉に皆が動揺した。



「魔王の秘術は俺自身と君たちの絆を使っての魔法だ、この効力は君たちが俺自身の信頼度にかかっている、この魔法を使えば、すべての勇者を元の世界へ戻すことができる、いいか!!ここからが本番だ、この魔法が成功したあと、再び勇者召喚を行う可能性がある、それをさせないのがお前達だ!!いいな!!以上、異論は認めん!!

!」



そう言って俺はテントに戻った。



「やるのですね」


「ああ、報告による勇者が全軍でこちらに迫っているらしいじゃないか」


「はい」


「ここで勇者がいなくなれば一気にこちら側の有利になる、止めるなよ」


「わかっております」



そして俺は人知れず、魔王の秘術を行使した。


今思えば、俺が人間と魔族の共存のために戦うなんて、思いもしなかった。


全ては勇者から逃れるために、てか普通にあの勇者とは関わりたくなかったし、これで2度と勇者と会うこともない。


俺の願いが全て叶うじゃないか!!最高だぁ!!


けど、少しだけ、悲しくもあるかな。



「始めるぞ」



魔法陣が描かれる、発動は簡単だ、神の声を聞き、祈るだけだ。


魔王は元々、勇者と対峙するために生まれた存在だ。


だが、もし勇者が暴走した時のために神の承諾を得て、勇者の強制帰還をさせることができるすべを授かっているのだ。


それが魔王の秘術。



「これで…やっと」



天から光がさす、それは魔王のみを照らしていた。



「魔王様…」



するとその光を見て、皆が押し寄せる。



「え?」


「おい、魔王!!ありがとうな!!」


「必ず!!勝利してみせるから!!」


「あんたの犠牲は無駄には絶対にしねぇ!!」


「あなたのおかげで、私たちは戦う勇気を思いだすことができました!!ありがとう」



みんなからの感謝の言葉と悲しみの言葉が向けられた。



「お、お前ら」



俺は涙が出そうになるがグッと堪えた。




「ありがとう!!お前達と出会えて俺は幸せだった!!」




その言葉とともに光は神々しく輝き、魔王が見えなくなるほどに照らした。


そして光がなくなると、そこには魔王の姿はなく、その代わりの一人の女神の姿があった。



「魔王による祈りを受託しました、これより、勇者強制送還を開始します」



その言葉とともに、攻めてきている軍隊のあちこちに光が照らされる。


照らされたのは皆勇者だった。


その光は神々しく輝き、勇者はその光とともに姿を消した。



「勇者強制送還の完了を確認、帰還します」



そう言って女神も姿を消した。


こうして魔王とイカれた勇者の戦いが終わったのです。


そのあと、魔族と人間がどうなったのかは彼らのみぞ知る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔王アナグラの目が覚めるとそこは暗闇だった。


「あれ、俺は確か、魔王の秘術を…ってなんだここは!!」


暗闇の中、何も見えず、何もなく、音すら聞こえない空間。


「そうか、ここが俺の地獄かぁ」


俺はここを地獄だと思い、受け入れた。


するとジュルリと音が聞こえた。


「うん?」


なぜか鳥肌が立ち、ゆっくりと後ろを振り返ると……


「キャハハはは!!魔王を見つけたぞ!!!!」


「ぎょぇぇぇぇぇぇ!!」


よく見ると勇者達が何人もいた。


「まさか…」


そう俺が勇者強制送還を行った際に、送還したのは場所はここだったのだ。


「はらわたを見せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「あの神のやろぉぉぉぉぉぉぉ!!絶対ゆさねぇぇぇぇぇ」


こうしてまた勇者から逃げるハメになった。



ーー完ーー

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勇者から逃げる魔王〜勇者の皆さん、殺戮衝動を抑えてください!!普通に怖いです!! 柊オレオン @Megumen

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