イカれた勇者から逃げろ 2
勇者達の叫ぶ声がただ森中に響き渡る。
「魔王はどこだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「焦らしプレイは勘弁して草ぁぁぁぁぁぁい」
「穴、穴、穴、穴、穴、穴、穴、穴」
「はらわたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
やばい声しか聞こえない。
「本当にやばすぎ」
森の木々の影に隠れ、なんとか少しづつ前に進む魔王。
時には勇者のすぐ真横を通ったり、バレないように木の実を食べ、できる限り、最短で音を立てずに小さい村へと向かった。
とはいえ、まだ20キロもある。
「これは、きついな」
ここまで距離があると本当にバレそうになる。
そんな時は木になりきったり、穴を掘って身を隠したり、時には動物の糞を集め、それかぶり、偽装したり、プライドを捨ててでもバレないように動いた。
「あと、少しだな…」
気づけば、勇者の声は聞こえなくなり、おそらく諦めたのだろう。
森を抜けたその先には小さな村があった。
「あ、あった…」
少し感動したが、まだ油断することはできず、ゆっくりと歩み、村に訪れる。
「あ、あの〜〜」
声を出すと、杖をついて、体を小刻みに振るわせるおじいちゃんが小さな村から姿を現した。
「おおお〜〜どうしましたかな」
「あ、あのですね、少し諸事情がありまして、しばらく止めてはもらえませんか?」
「おおおお、いいですよ、部屋ならいくつか余っていますから」
そう言って、おじいちゃんに部屋を案内された。
「こここ、ここがお部屋になります」
「あ、ありがとうございます」
「では、ごゆっくり…」
部屋はちょうど俺一人がすっぽり入るほどの広さ、寝る分には困らないのでちょうどいい。
「しかし、この村ってこんなに少なかったけ?」
俺が2年前、観察していた時は村の住民がたくさんいたような気がしたのだが、今、見ると小さい子供と老いた老人しかいない。
「少し気がかりだな…」
するとさっき案内してくれた老人がまた外に出た。
「なんだ?」
俺みたいなやつでもいたのか?と覗くとそこには勇者がいた。
「おい、老人、女はどうした?」
「も、申し訳ございません、勇者様、もう一人も…」
「あん?俺たちが汗水垂らしながら、守ってやってんのに、あ〜まさか、俺たちのこと舐めてる?舐めてんだろう!!」
おじいちゃんに怒鳴りつけ、思いっきり、腹を蹴り飛ばした。
「ふん、いねぇってんなら、次は子供だな」
「お、お待ちください、子供だけは…そんなことされたら村はもう…」
「そんなこと知るか!!いいか!!俺たちはお前達を守っている、ならそれ相応の対価をもらうのは当然だ!!わかるよな?」
「ううううううう」
「じゃあ、早速、そうだな、12歳以下の子供、男女問わず、20人だ、それで今週は勘弁してやる」
「は、はい」
勇者の発言とは思えない、その現場を見て俺は驚愕する。
(勇者こわ、てかこんなことしたのか、人間もお気の毒で…)
と他人事のように思うが、少しだけ怒りが湧いていた。
そのままおじいちゃんは、顔を歪ませ、苦しみながら子供20人を選別した。
「これで…」
「よし、じゃあ、また来週な!!」
「このままでは、私の村が…」
「ふむ……」
(かわいそうに…俺にできることはないのかな?)
魔王だから、ここの一般人よりは強いけど、勇者には勝てないし、いや待てよ。
あることを思いついた。
魔族である俺が人間を助けるのはおかしいとは思うけど、なぜか勇者の方が魔族に見え始めた。
周りの村の住民を見る、皆肥えていて、そして大切な人を失って悲しんでいる人しかいなかった。
「よし!!」
俺はまず、逃した魔族達を集めることにした。
俺は魔王だ…魔王には魔族全員にメッセージを送ることができる力がある、それを使って、魔族には人間に化けてもらい、ここに集まってもらうことにした。
「おじいちゃん…」
「おおお、これこれは旅人さん、どうかしましたか?」
「今の勇者に不安はありませんか?僕は今の勇者の在り方に疑問を思います、勇者とは皆を守るものであって、搾取するものではありません、そうは思いませんか?」
「ぐぐぐ、しかし、我々は弱い、弱者は強者に従うしかないのです」
「確かにそうかもしれません、しかしそれは、個人での話です」
「何が言いたいのですか…」
「僕の仲間のほとんどが勇者に殺されました」
「な……」
「勇者の圧倒的力に踏み潰され、勇者の道具にされて、俺はそれを見ることしかできませんでした」(少しだけ事実を改変しております)
「それはお気の毒に…」
「しかし、その時、俺は思ったのです、もしあの時、一致団結していれば、何か変わったのではないのかと、そう人の強さとは個ではなく団なのです、俺は勇者があなたに行った行いが許せない、今俺は仲間を集めています、今の状況を変えるにはみんなの力が必要なのです、勇者を変えるには俺たちが立ち上がるしかないのです!!」
「しかし、我が村の数だけでは微々たるもののはずです、今更そんなことをしても…」
「何を言っているのですか、確かにこの村だけでは圧倒的に数が足りない、なら他の村、町から集めればいい、勇者にばれず人知れず、俺たちは団を作るのです!!そのためにもまず、この村の団としての力が必要なのです!!」
おじいちゃんの心は揺らいだ。
今までの勇者仕打ちにストレスを抱え、訪れた村人の呼びかけについに爆発した。
「わかりました、やりましょう」
「ありがとう、勇敢な村長さん」
「でも、やるからには徹底的にやりましょう!!」
「はい!!」
『全ては勇者を正すために』
俺の完璧な演説に共感したおじいちゃんはまず、村の人たちの説得から始まった。
俺の言葉であれば、納得してはもらえないだろうが、おじいちゃんなら簡単にできるだろう。
「まずは、近くにある村から説得していく、それからどんどん広げていき、大きな国以外の全てを仲間にするのだ!!」
「しかし、それではあまりにも時間がかかりすぎます!!」
「安心してください、もうすぐ、俺の仲間達が到着するのでそれでもっと効率的になるはずです!!」
仲間が到着し、俺は事情を説明する。
「なるほどですね、わかりました、魔王様の命令ですから、従います」
『従います』
「みんなありがとう、これでもし勇者を全滅できれば、今度こそ俺たちの世界になる、その日まで頑張ってくれ」
これで準備は整った、あとは少しずつ、少しづつ、仲間を増やしていき、勇者達の敵を作っていくだけだ。
問題なのが、俺たちの行動がバレるかどうかだ。
もしバレれば、敵味方関係なしに殺しかねないからな、慎重にいかなくてはいけない。
「さぁ、反撃開始だ」
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