3-4 ただの人間たち
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「カテゴリーΩ現出ッ!!!」
「此方も残り十分で現着しますっ!」
VTOL内。降下準備を始めるフリードリヒ以下空挺部隊。ダイビングスーツを装着し、飛び立つのを待っていた。
※
「出たわね…にしたってコレは…」
「そんな…こんなのデカ過ぎだって…」
「宗士君…!」
随伴車の車窓からでも確認出来る、対象の大きさに、三人全員が息を呑んだ。
作戦現場指揮官としての焦り。
幼馴染の置かれた危機への心配。
予測を越えた同一起源の存在への焦燥。
三者がその状況を、固唾を飲んで見守っていた。
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『…』
「ラスボスだからってわざわざ巨大化ご苦労さんだよ…」
デケェ。なんつーデカさだ。高さはこのオートバイモードの五倍近い。つまりロボットモードでの二・五倍近いから、五十メートル近くか。
アタマツルッパゲで成長期なんつーのは、オッサンじゃなくて赤ん坊だったって…。
「事かよッ!!!」
思ってる内に剛拳が降って来る。兎に角アクセル全開で回避。そのまま変形。
こういう拳を叩き付け来る巨大野郎とは、大体アクションゲーとかのセオリーで…。
「腕登って……顔面ブン殴るッ!!!」
地面に叩き付けた拳から腕部を登坂。二の腕まで上がった所で変形。そのまま顔面目掛けて飛び込み、殴る。
もう何発とブチかましまくった、オートバイロボットならではの初っ端の加速攻撃。
『…』
「効いてねぇのもお約束ってか…」
しかしあの血走った眼や鼻どころか、口角まで真一文字のまま動かさねぇツルッパゲ。
いや、そもそもコイツ、もうツルッパゲじゃねぇ。このゴッツゴツの外皮…漆黒って程に黒く、眼球以外にも血流みたく迸ってる全身のレッドラインは…。
「お前…自分の家と合体しやがったな?」
『…ああ』
「!…喋れる様になったかよ」
『貴様のから発せられる音が癪に障る』
「そうかよ……煽り耐性低いなぁッ!!!」
ライフル連射と共に着地。だけじゃなくハンドル切り返しまくって、縦横無尽に動き回りながら、装甲の薄い所を探る。しかし全くもって、有効打になってねぇ。
「なら…ココッ!!!」
背後取って、足首、関節狙いで炎刀の刺突。
『…』
「一々…」
刃は入らない。つーか二股に分かれるみたく塞がれる。バックファイアその物の侵入を拒んでるみたいだ。
「見下ろすなってんだよッ!!!」
『ならば、こうしよう』
「…がぁッ!!?!」
巨体からは想像だにしないスピードで百八十度反転し、思いっきり爪先で蹴り上げて来やがったオメガ。視点の高さを自分の所まで上げた直後。
『こう…だったな』
「ッ!……ごっ…うえっ…」
顔面にブチ込まれる。巨大拳での打ち下ろしの右ストレート。
あの時の俺がブチかました一発の、意趣返しだろう。クッソ性格が悪い。
つーか…威力が、違い過ぎる。
『…』
「……ってえ…」
首千切れるかと思ったぞ…銀…いや黒ハゲ…首の回転から遅れて身体までグルグル回るとかバレェじゃねぇっつの…寝違えたら、横になってテレビ見れねえだろどーすんだよ…。
『どうした』
「ああ?今立ち上がっトコロだから待『折角のダカール・ラリーを、楽しまないのか?』?…どういう…意味だよ。てめえ」
何だコイツ、俺達がやってるもん理解してんのか?いや…それはミレオのオッサンも知ってんだから、そん位は把握してるだろう。だが…せっかく…だと?何だ…何を言ってやがる。
『そのままの意味だ。ずっと出たいと言っていたのだろう。あの時…六万一千三百六十八時間前から』
「んだその時間知ら…ねーよ…ちゃんと正月来て大晦日までで答えやがれ」
『わかった…では、換算を変えよう。七年前の、あの日から、だろう?』
「!」
そうして、俺の頭の中に、フラッシュバックが巻き起こる。
あの時の、記憶が、あの時から今までで一番、鮮明に浮かぶ。
それを知ってるコイツが、何なのか。
七年越しに、答え合わせが、出来た。
「ーーーーーーッ…………てぇぇえ…めぇかァァァァッッッ!!!!!!」
頭の中で、何か弾けたのだけは分かった。
考えずに、フルスロットルのまま六速でクラッチ離したんだろう。
水平に、弾丸の様に飛び出したんだと思う。
そのまま両脚揃えて、絶対に青天井向かせてブン殴ってやると思って、膝目掛けてドロップキックを打ち込む。
「ッ!!」
『それでは、無理だ』
微かに揺らがせた気がした。
だが、しただけだった。
なら今度は逆の脚にも打ち込む。それも防がれる。ならもう一回。それでも駄目ならまた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
ノーズダイブする程に沈み込むフロントフォークを戻しては沈み込ませ。絶対にマウント取ってブッ殺してやろうと…仕掛け続けたが。
『足りんよ…』
「っ!テメェ!!!」
終ぞ奴の重心は崩せない。ウェイトが違い過ぎる、いや、ウェイトもタッパも。
そんなもん…突っ撥ね続けて来ただろうが俺は。たかだか二・五倍如きに…。
「引き下がれる訳ねぇんだ!!!…………ぁ…ガァぁぁぁぁッ!…」
『膂力の差だけではない…お前はどうあれ、我々始祖の者には勝てない』
もう一度狙いに行った脚を、奴が上から落とした脚で踏み潰された。リアタイヤが軋み、破裂した音が響く。
そして伝わる激痛。脚が、神経全部切れたかの様に、反応を失わせる。
『……我等の現身を、この星で駆ろう等と思う事自体が…過ぎた願いなのだ。ヒトよ』
「っーーーーーーー…」
腕を、掴まれた。そのまま、持ち上げられて、コレから料理される動物みてぇに。
ただ、俎板の上には乗せられずに、放り投げられて。
『もう、会う事は、無い』
その…漸く開けやがった、真っ黒な口から吐く、あの時の十数倍デカい火で、バカみてぇな火力の球で。
ヴェシュルトごと包み込んで、焼き尽くされた。
ーーーーーーーーーー
「しゅっ………あぁぁっ!!!」
火の球の爆発の衝撃が、あたし達の方にまで来た。乗ってるトラックが、めちゃくちゃな勢いで倒れて、転がってるのが分かる。
宗士が、めちゃくちゃ怒ってた。
だって…そうだよね。あたし達にも…聞こえてたから。あいつが、あの時の、車なんだ。あの時…あたしの背中に、ううん。宗士の心に、消えない傷を付けたヤツなんだ。
そんなの…宗士怒るよね。怒るに…決まってんじゃん…それで…あんな…。
「コ…ユウコッ!起きなさい!」
「!あ…リリエッタさん」
「ミレオ!貴方も!!!」
「あぁ…分かっているよ」
一瞬だけ気を失ってたみたいだ。
リリエッタさんの大声で目を覚ました。でもトラックは上下がひっくり返ってて。リリエッタさんもミレオのオジサンも、頭から血が…あっあたしも出てるわコレ。
「ユウコ、止血しながらで良いからミレオと一緒に宗士の下へ行きなさい」
「!リリエッタさんは!?」
「私はヤツを引きつける。その間に、宗士の治療とラムダ…ううん、ヴェシュルトを可能な限り直して」
「そんな!」
引きつけるとか言ったって、相手はあんなおかしなサイズの巨人なのに…出来るわけない。
絶対に…死んじゃうじゃんリリエッタさん。
「ダメですリリエッタさんも「ユウコッ!!」っ!…」
「言ったでしょう?もしもの時は、何があってもアナタ達を日本に帰すって」
「………ハイ」
「良い女の子よ。貴女。生き延びたら、今度は日本を案内してね…ミレオ、ユウコをお願い」
ポンってあたしの頭に手を置いたと思ったら、天井になっちゃったシート下から、銃とか大砲を沢山取り出したリリエッタさん。
何時もの赤いコートを脱ぎ捨てて、チューブトップ一枚で銃のベルトを沢山肩に掛けてく。
「…あぁ。行こう。お嬢さん」
「…っ!」
リリエッタさんが、ドアを開けて飛び出した。あたし達も、反対のドアから、思いっきり駆け出したんだ。
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『…残るは…あの無粋な反逆者のみ…か』
灰の様に焼け焦げたヴェシュルトを見、今度はその視線をミレオへと向けるオメガ。
その狭間に、銃火器を担いだアッシュグレイのボブカットが割り込む。
「アナタ…騎士道精神って持ち合わせて無いみたいね?」
『人類の言葉を取得する必要性は、私には、無い』
「そう…だけど私から見ればフェアじゃない戦いに、一方的に勝って喜んでいるガキにしか見えないけど?」
『私と貴様達では幼稚性という観念に対する捉え方が異なる様だ…いや、獅子は兎をも全力で狩る。という言葉が適していると言っておこう』
リリエッタからはおよそ見えない、鮮血の眼球を下げ、侮蔑と嘲笑が籠められたかの如き視線を送るオメガ。しかしそれでもなお、彼女は身を竦ませなかった。
「あら、じゃあアナタが狩ろうとした兎は…獅子の子かもね」
『それを貴様が確かめる時は、来ない』
「どーかしらねッ!!」
『!』
ロケットランチャーを構え、発射するリリエッタ。装填された弾は、かつて由布子がミレオに渡され使用したジャミング弾だった。
「彼がその身を賭して作り続けたタマよ!ただまだあるわよっ!!!」
『小癪な…ぬうんっ!!!』
「!…(ダメね…ココまでか…)」
しかし剛腕の一薙でジャミング波を掻き消すオメガ。次弾を装填する隙に、圧殺せんと魔の手が迫る。
其処へ。
「目標カテゴリーΩ!!!四方から段階的にジャミング弾発射!!構え!…撃てェ!!!」
『むうゥゥ!!!!』
上空から飛来するVTOL。降下する落下傘部隊。
シャルル・ド・ゴール空軍基地空挺団。フリードリヒ達が、ジャミング弾を波状攻撃として放っていた。
「落下傘部隊!降着し次第順次ポイントをサークル移動で変更!配置変換と共に発射!!!」
《了解ッ!》
「フリードリヒ…!」
「中尉、お待たせしました。我々にも今出来る事を…全力で果たします」
「えぇ。頼んだわよ!私も残弾ありったけ食らわしてやるわ!」
「ハイ!」
リリエッタの眼にも再び火が灯る。必ず、希望が甦り、再び立ち向かう事を信じて。
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