3-3 砂塵、暴風、爆走

ーーーーーーーーーー


「報道官制、どうなっている」


「カメラは全て無傷の生存車両に切り替えてあります。問題は…」


「現地でのSNS等の拡散されたモノか」


 VTOLに搭乗し、急ぎモロッコからセネガル、ダカールを目指すエルドレッド及びフリードリヒ空挺部隊。想定には捉えていた事象の一つとはいえ、焦りの色は隠せないでいた。


「ハイ……隊長、オベール中尉達は…」


「シュウジ含め、随伴車も無事だ。だが現在迄に二度の急襲を受けている。幾らカテゴリーΛとはいえ、損耗が激しい事は、予想されるだろう」


「ッ……我々は…我々の取った作戦は…コレで良かったのでしょうか…」


 拳を強く握り締め、俯くフリードリヒ。歯を食い縛り、額に汗を滲ませていた。


「本来…コレはミレオ特務少尉が「フリードリヒ」ですが!最早コレは、パリダカの体を為していない。ナリタ・シュウジのコンプリートモデルを主軸とした揺動作戦…しかしココまで悉く先手を打たれ、寧ろ奴等のペースに巻き込まれている…コレでは、ダカール・ラリーである意味が…もう…」


「それでも、このまま進めるしかないのだ。外宇宙からの生命体の脅威は、過急的速やかに、最小限の支障で排除する。それがこの世界の…少なくとも一度手にしてしまった、人類にとって都合の良過ぎるエネルギーを、維持していく方法だ。その為の、ル・ダカールという隠蓑なのだ。フリードリヒ」


「それをあんな小僧に…」


 言葉とは裏腹に、悲哀の顔を見せるフリードリヒ。落胆や、失望ではなく、無力さを感じずには居られない表情と声色で、吐露した。


「あんな…ただのモーターサイクル好きな日本人の少年に、背負わせているんですね。我々は」


「ああ。そうだ」


 同様に、エルドレッドも下唇を噛み締めて。




ーーーーーーーーーー


「…作戦指示よ」


「どうだ」


「上はレースの続行を決定。予定通り明日、最終セクションのマラソンコースを行うとの事よ」


「…そうか」


「残存協力車にも同様の打診が伝わっていると思う。あくまで…局地的ゲリラによる破壊工作だってね」


「方便を立てるのにも便利なパリダカ…か」


「併せて、ダカールへ進行。今度こそカテゴリーΩを誘き出し、破壊せよとの事」


 随伴車内、運転手のミレオのオッサンに、助手席のリリエッタさんが伝える。


どうにかジブラルタルを渡りアフリカ大陸、モロッコに到着した俺達は、最終セクションのスタート地点、メルズーガ大砂丘へと向かっていた。


「もちっとキツめが良いかもしんね。血が止まんね」


「うん…」


「あーおう。そんくらい」


「こっちは?」


「そっちは絆創膏で何とかなんだろ」


 後部のキャビンスペースで、手当受けてる俺。さっきの船野郎のスクリュー攻撃の所為で、腹へのダメージのフィードバックがまあまあ来てた。


 つっても酷めの擦過傷みたいなモンだから、消毒して包帯巻いときゃ大丈夫だろう。


「よし。一旦此処でビバークをしよう」


「…見えたか…」


 ミレオさんが車を停めると、夕闇が辺りを包み始めた。

 市街とサハラ砂漠を分けるアトラス山脈も、半分を越せばもうほぼ砂漠だ。昼はクソ暑いが夜はクソ寒いとかいう、ツンデレの極地みたいな気温が一番の特徴と言っても良い。


 そんな中で、大西洋の方を向けば見えるのが、一つ。


「アレが…飛翔物MC、異星船ってヤツか」


 遠くに微かに見える。巨大な黒い山。此処からでも、地球のモノとは異なる雰囲気を放っているのが良く分かる、宇宙からの、最初の来訪者。


「…うん。ライダーと同じでエンジンには擦り傷が多いが…クラックは見当たらないな。コレなら…明日も、走れるだろう」


「そうか…良かった」


 しっかりマシンのダメージチェックしてくれるミレオさん。ただ一瞬だけ、視線を外してそっちを注視してたのが分かった。


 ざっくり言えば、実家みたいな物だろうからな。思う所は、沢山あるだろう。


「…宗士」


「?」




「どした。車から離れっと寒いだろ。あ、婆ちゃんは怪我は無さそうだから取り敢えずは大丈「帰ろう」…」


 呼び出されたかと思えば、間髪入れずにの提案。

 いや違うよな。コイツのは…ただただシンプルな心配だよな。


「もう…もうダメだよ。多分ココから先って、さっきまでよりもっとヤバくなるんでしょ。そんなの…もう絶対ダメなヤツじゃん。宗士。帰ろう」


「…ダメだろ」


「そこまで宗士がする必要なんて無いじゃん!」


 久しぶりに大声聞いたな。


 いや、大声ならちょいちょい聞いてるけど、こんな大マジなコイツの大声は、相当久しぶりな気がする。そん位の、本気で言ってる言葉なんだよな。それを分かってるのが、俺でもあって。だけど。


「リリエッタさんに頼んで、ココでリタイアさせて貰おうよ…それがダメならさ…あのバイク乗って…逃げよ?」


「そうだな」


「えっ「確かに、もうお前乗せて大丈夫だもんな」覚えてたんだ…」


 覚えてる。明日で丁度免許取ってから一ヶ月だ。

 この間のその話も…いや、それよりもずっと前の、昔の記憶…あの時の記憶。初めてタンデムする時は、由布子を最初に乗せてやるって、砂場での約束も。


「ああ。それも良い…けど、それじゃあ、ダメだろ」


「…」


「逃げても、アイツはまた、来る。そん時、また狙われて…お前が狙われたら、なんつーか…多分俺本当に暴走族になるわ」


「なんなんその例え…」


 いやもう、現代日本に自分で運転出来る奴なんてほぼ居ないから族にはならないんだが、それでもグレそうな気がした。


 自暴自棄だろうな。ちげぇや。多分…オートバイ乗ってそこら中、当たり散らすんだろう。あの銀ハゲ野郎と同じになっちまうんだ。


「だから…此処で走って、ケリを着ける」


「っ…」


「つーか…さ」


「?」


 今のは、成田宗士としての、日向由布子への理由。

 コレから言うのは、ただのライダー、オートバイ好きのバカの理由。


「やっぱりこんっっなクソみたいな状況でも、オートバイで、パリダカ走ってんの、バカみたく楽しいんだわ。俺」


「あ………」


「だから、ゴールまで俺のマシンで走りたい。頼む。由布子」


 肩に掛けてたタオル出して、あんまりにも真っ赤なコイツの目尻拭いとく。

 一応新品だとは思うが、臭ぇって言われたらどうしようとかは考えた。まぁこういう時…流石に気にしないか。


「ほんっとにさ…ずっと変わんないもんな…宗士は」


「じゃなきゃパリダカ来ねーよ」


「あはは…そだね。あと…ちょっと臭いしコレ」


「えぇ…」


 クッ…やはりライダースーツに染みった汗が移ってたか…。



ーーーーーーーーーー


 そして、最終日。


 ファイナルセクションのマラソンコース。

 ゴールまでのタイムアタック。予選の順位と、このタイムアタックでの獲得ポイントを合算して、優勝者が決まる。


 まぁ、もう殆どその規定に意味は無いのかもしれない。それでも俺にとっては。


「やっぱり…とんでも面白ぇんだよな…!」


 モロッコはアトラス山脈を超えて、メルズーガ大砂丘へ。


 待ち受けるはサハラの乾燥した大地。


 空はカラッカラの風が吹いて、地面はーーー砂利。


 砂利。砂利。砂、砂、砂利、土、砂、土、土、砂利、土、砂。


 見渡す限りの大砂漠。昨夜の寒さが嘘みたいな酷暑。ドンと構える巨大隕石。体力はゴリゴリ削られてくし。


「タイヤも…ゴリゴリ削られてくなァ!!」


 コレぞ野生のオフロードコース。小石の量が尋常じゃねぇ。


 それでも肘は拡げて撓ませて、ハンドルのブレは抑えなきゃならねぇし、ケツはやっぱり中腰で、第三のサスペンションとして使わなきゃならねぇし。


「九十度コーナーもやっぱりキツいッ!!!」


 フロントブレーキ目一杯掛けながらアクセルは全開で、全力でハイサイド抑えながら、リーンアウトでコーナー側のシートの角を正中線にして車体バランスキープして、立ち上がりのストレートにフルスロットルでV3エンジン唸らせて飛び込んでかなきゃならねぇ。


 最後まで、そんなんがパリダカだ。


 そんでもって。


「おーおーおーおーおうおう!!!最後まで御足労なこったァ!!!」


『ギィィィィァァァァ!!!』

『オォォォォウゥゥゥ!!』

『クエエェェェェッ!!!!』


 眼前から、向かって来る、五体のメタルエイリアンズ。

 この間のテレビマーク付きのバンも二台居れば、ラリーマシンのバギーに四駆型も居る。更にアレは…中継用のヘリが乗っ取られてやがった。


「先ずは鼻っ柱圧し折るッ!」


 砂丘の天然ジャンプ台から飛び出し、巨大化、変形。しかしスロットルの開けを僅かに弱め、先頭の人型バンの『下』を取る。

 そのままガラ空きの顎に、アッパーカット一撃。


『ガッ!!!』


「うるせェッ!!」


 もう一体のバンと四駆が変形。着地の隙を狙って挟撃に掛かるが、先にコッチが二丁マフラーライフルで足止めに掛かる。


「オラァッ!!!」


『ギッ…』


 着地後そのまま今度は炎刀抜刀。


右のバンを一刀で切り伏せて、リアブレーキ踏んでハンドルフルロックで切って反転。そこからアクセルカパ開けでダッシュ。詰めた所で四駆を…。


『ゴオッ!!!』


「コイツはなんだサバンナチーターかよ!」


 守る様に、バギーの変形したケモノ型のヤツが爪でガードして来た。更に。


『キィ!』


「チッ!次は鳥か!」


 上空から火球。遠近中のレンジを活かして、波状攻撃を仕掛けて来るバケモン共。どうする。


「クソッ…ライフル構えればチーターが接近。刀じゃ鳥が上からだ。それのレンジの切り替えを中距離で四駆がカバーしてる…どーすんだ俺」


 八方塞がりか…?いや、違うよな。

 パリダカってのは、砂嵐の中でも、自分で道を切り拓かなきゃ、ならねぇレースなんだ。なら。


「先ずこのマフラーレーバテインを…」


『キィッ!』


「放るッ!」


 抜刀、着火して、槍投げの要領で投げた。 

 反応した鳥型を一体。串刺しにする。そして


『ガァッ!!』


 其処をチーター野郎が肉薄して来たら…。


「別に銃として使ってるだけでドーグにならねぇとは一言も言ってねぇッ!!!」


 腰から抜いたサイレンサーライフルのバレルでブン殴った。後は…。


「一回位は手前ェが前出てアタマ張りやがれぇぇェェッ!!!」


『ア…ァァッ…』


 破れ被れに火球乱射して来る四駆に、ギア一速に入れ直してトルク上げた所で、チーター野郎の残骸を盾にして突貫。スクラップ質量弾の体当たりで破壊した。


「あー…バンは良く知らねーケド、次はレースでちゃんと戦いたい。かもしんない。うん」


 一瞬だけ瞑目し、頭ん中整えて、またかっ開いて変形解除。


 巨大バイクに戻した所で…!


「デカい影……上……ッ!!!!!」


 あの時と同じ、俺を覆う影。その形は、人型。そう、人型。

 オートバイを、このクソデカオートバイ、ヴェシュルトを飲み込む人型…。


「お前…見下ろすのが好きとかクッソ悪趣味なんだよなァァア!!!」


『………』



 一週間ぶりの、再会と来たもんだ。

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