3-2 溺れる
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「あぁ〜めっちゃよかった。マジによかった……良くは、ねぇけどさ」
多分、後ろの方はもう、かなり被害が出てる。恐らくはフランス政府の皆さんが隠匿に全力を上げてるんだろうが、それでも、アイツらに襲撃されたパリダカレーサーは…。
「クッソ…普通に勝負したかったぜ」
悪態吐いて、溜め息大きく吐く。だが今は、やる事をやらなきゃならねぇ、振り返るのは、全部終わった後だ。
スペイン、バルセロナから先、ジブラルタル海峡まではリエゾンコースという区間になる。
コレは所謂チェックポイント通過ミッションで、制限時間内でのチェックポイント通過がルールだ。
一見すればただ走れば良い様に思えるが、今回のパリダカは超ショートスパートの三日。明日一日の使い様が肝になる。天候を見極めて、速く着くのか、遅く着くのかを決めなきゃならん。
何より、マシンメンテナンスは、明日しか出来ないからな。
一日目、終了だ。
「ほい!スパニッシュオムレツ!」
ビバーク地で随伴車と合流。明日からの移動に備える。
「ご当地メニューだな」
「でも栄養バッチリじゃん?コレリリエッタさんのおばあちゃんに教えてもらったの」
「おう…ほうなのは。うもいふまい」
タマゴ、ジャガイモ、ベーコン、タマネギ。タンパク質とか炭水化物とか栄養のバランスが良く取れてるメニューである。つーか塩気がちょい強めなのは、体力消耗を考慮して…か。
相変わらず良く考えてるよ。コイツは。
「食べながら喋んなしー」
「このあと、めんへふんだ…よ」
「良いよ宗士君。ゆっくり食べなさい」
「おん…ありがとうミレオさん」
仕方のない極秘任務とはいえ、随伴車のメンツはこんだけ。メカニックはミレオさんにほぼ一任になっちまう。だから俺も、休んでるだけって訳にもいかん。いかんが、コレは。
「…何」
「別に。早速もうパリダカらしいパリダカじゃねーなって」
腕組み瞑目してるリリエッタさんに、そんな視線を送った。
「それは超短縮日程になっている時点で「分かってっけど、そう易々と割り切れるモンでもねーだろ」…貴方はただのレースをしに、此処に来た訳ではない。それを忘れないで」
「…へいへい」
そうだよ。元から違う。やりたかったパリダカじゃない。
行きたかった方法では、来てない。コレはパリダカを傘にした、超重要機密の、地球の未来が掛かった戦い。なんだろう。それに、一番適してしまったのが、パリダカなだけだ。
だけど。
「…っ…(やっぱり、スッキリはしねぇよな)ごちそうさま」
「うん」
それでもコイツのメシで腹は溜まって、空腹はスッキリ収まったんだけどな。
二日目。
スペインもスペインで情熱の国なんて言われてるだけあって中々に暑い。
しかも天候は生憎の雨。上がるのを待っていたが気配は無く、止むを得ず正午前に出発だ。
キツい湿度が体力を奪って行く。伊達にアフリカに一番近いヨーロッパではない訳だ。
「ジメッてる上に暑ぃ…」
更に言えばこの辺りから砂漠地帯の様相は既に見え隠れしている。局地的な乾燥と熱射も体力を一気に奪ってった。
「成程コレがリエゾン…移動ってだけの移動じゃねーな」
加えて他の参加者達の姿は見えず、バラバラだ。一人でのレース。孤独な戦いの様相は、考え事が多くなって集中力が削がれていけねぇ。
「時間はあるが…天候は良くない…少し先を急いで婆ちゃんのトコ……っ!?しまっ……いってぇ」
前方に、一メートル近い石段。予期せぬ障害に、スタンディングでの衝撃吸収を忘れ、パニックブレーキで立ちゴケしてしまった。
両手着いて受身取ったが、泥濘に突っ込み、両手と両膝は泥まみれ。ヘルメットにも飛び散って、視界が失くなる。
「あーー…クッソ!」
大声が出た。体力の無駄なだけの行動だが、一度苛つきを出しておかなければ、切り替えが出来ない精神状態だろう。
まだアフリカにも入って無いのにコレじゃ、先が思いやられるな…。
「ーっ…あと少し…頑張れよ。俺」
普段より、ビッグタンクの容量考えても重い気のするマシンを引き起こす。
足下が滑り易いのもあるだろうが、跨る脚も、思う様に上がらなかった。
それでもメンタルは完調しないままだが、兎に角残りのリエゾンコースを走り切り、ジブラルタル海峡へと、漸く辿り着いた俺。
だが、そこで見た物は…。
「なっ…こりゃあ…」
眼前に広がる、無数のパリダカマシン達の残骸。
「オイ…おい!オッサンの仲間いねぇのかよ!」
人馬種のペースメーカーズの反応を探る。
しかしマシンを通して返ってくる言葉は…一台も、無かった。
「そうだ…婆ちゃん!…婆ちゃんの店は…!」
急ぎ坂を下り向かう。
建物は…無事。
いや、窓ガラスが割れてる。
婆ちゃんは…。
「ッ!!」
店の手前二十メートルに居た、あのチンピラ。しかしその身体は、胴体を確認出来ない程、損壊が余りにも激しかった。
急ぎマシンを停め、店内に大声で呼び掛ける。
「婆ちゃん!!!」
「!?シュウジちゃん…かい?」
「!婆ちゃん大丈夫か!何があっ「海が…海が襲い掛かってきたんだよぉ……!」海?……ッ!」
店の中を隈無く見渡して、割れたカトラリーが散らばるキッチンに隠れてた婆ちゃんを、何とか見つけられた。
瞬間、岸に激しく波が打ち付けられた音がした。
『ーーッーー』
「婆ちゃん、ココ隠れててくれな」
「シュウジちゃん!どこ行くんだい!」
マシンに跨り、もう一度港街の破壊された姿を見渡す。その奥に居る…海路を阻む、船舶型の怪物を、睨み付けた。
「待ち構えてんなら…俺だけ待ち構えてろよなァァ!!!」
力ずくのフルスロットルなのが分かる。一速のまま巨大化、変形したオートバイは、超跳躍から、岸に立ち塞がる敵へと、飛び蹴りを仕掛けた。
「ッ!!」
しかし水中へと潜る敵。攻撃対象を見失い、沈むヴェシュルト。
案の定、コイツには水中戦の機能は…無い。
「クッ動け…ぐぅッ!!!」
クルーザーの外皮を纏った敵は、その穂先による突貫で、俺を岸壁に打ち付ける。身動きが取れねぇし、思った通り、酸素が薄い。
『ーーーーーーッ』
「離せ…よっ!!!」
バックファイア連射。しかしその火力とスピードは水中では半減。有効打になり得ない。
『ッーーー』
「!?…がぁぁぁぁぁっ!!!!」
船のスクリューを模した敵の左腕が、ヴェシュルトの腹部を削りに掛かる。めちゃくちゃいてぇ……ぁぁ…クソ…何やってんだよ俺…こんなモン…もうパリダカでも何でもねぇ、だろ…。
「だから…早く…終わらせてやるよゴラァァァァァ!!!!!」
怒りがアタマにブチ昇って、兎に角アクセル吹かしまくった。
何度も何度も開け閉め繰り返して、水中だろうがV3エンジンの爆音を轟かせた。
ダッセェ。コレじゃ本当に族のコールだ。だけど…今はオートバイ関係ねぇからな。
「こんだけ撃ちゃ良いんだろォォォォッ!!!」
三気筒エンジンだ。サイレンサーは、三本ある。残り二本、腰から生えてるそれを、両方エキパイごと引っこ抜いて、マシンガンみたく構えて。
撃って、撃って、撃って、火球…火炎の弾丸を、撃ちまくってやった。
『ッ!!!ー…』
最初は微々たる威力だったそれ。しかし蓄積されたダメージは、化物の耐久力の限界を迎え、圧壊させた。
崩壊した港と引き換えに、水路を手に入れた、俺達だった。
「リリエッタさん…婆ちゃんは無事だ…他の生存者確認…急いでくれ…」
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