2-2 世界の裏側
ーーー「素晴らしい!!コレは未知のエネルギーだ!」ーーー
ーーー「我々の星はエネルギー問題に
困窮しています…是非とも技術供与をお願いしたい」ーーー
ーーー「勿論、皆さんには定住権を差し上げます。コレほどまでのモノをもたらして下さったのですから、相応のお礼をしなければなりません」ーーー
それは、既に数十年の時を遡る記憶。
甘言。などと形容するのさえ唾棄すべき戯言。
しかし脳裏には、確と焼き付き続けているうわ言。
ーーー「ああ、話によればヤツらは半導体の内部でしかまともな生命活動は出来ないそうじゃないか」ーーー
ーーー「しかも知的生命体としての自我は保てんのだろう?コレは余りに好都合」ーーー
ーーー「良い鳥籠だよ。しかも牛や馬の様に我々を運んでくれる」ーーー
ーーー「して、何処か供給を始めるか。あえて日本車から始め、徹底した安全性を謳うのも良い」ーーー
見えたる、この星を統べる者達の思惑。
定められ様としている、自分達の行く末。
それに。
ーーー「!?な、何だ…何が起きている…」ーーー
ーーー「馬鹿な…何故こんな事が…この星の大気構造では…!」ーーー
ーーー「貴様等…侵略者共が分を弁えん故の、恩情だッ…………」ーーー
恩情を、形にしてやったのだろうと。
分を弁えようと、同じ形を象ったのだろうと。
だがもう、理由に意味は無く。
巨人は静かに、そして確実に、反旗を翻した。
『ーーッ』
モロッコ、サハラ砂漠。メルズーガ大砂丘。
三十年前、『大地が降って来た』と形容された程の巨大な山脈ーーーの、形を持つ、宇宙からの来訪船。
その、超巨大隕鉄の地下五百メートル。その中央。
暗黒の中に、蠢く砂粒。
重力に反する様に、流体を拗らせ、上昇しながら、人の形を次第に形成して行く。
『ーーガイカク…コウド…七十二%、カイフク。キソ、コウゾウカンーーー、コウドウニタイスル、シショウ、ナシ』
項垂れた型を取りながら、呟く様に、損耗箇所を把握する、巨人。
『テキセイ、タイショウ、キソコウゾウカンーーー、アーカイブミトメ、ナシ。ガイカク、トウガイワクセイニオケル、キンゾク、イッチ』
足先、指先。末端の形そのものを、数時間前までと全く同一の物に、再結成する、砂粒の中の意思。
そして。
『テキセイ、タイショウユウキセイメイタイーーーーーーアーカイブ、ミトメ』
その言葉と共に、最後に顔を上げた。
チラリと黒ギャルの方を見れば、細かく首を振った。そんな情報は教える訳ないと言えば、その通りである。
つまりそれはこのフランス女が調べた事であり、僅か一日足らずで得た情報である。という事だ。
「(流石はフランス情報局ってか)ワナビな話は置いといて、関係性を教えて下さいよ」
「シュウジのアタマでも思い付かないかしら?」
「…!」
漸くイニシアチブ取れた気になってドヤ顔してやがるなこの女。ただまぁ、そう言われて思考を張り巡らせて、思い付いた事はあった。
「サハラ砂漠か」
「半分正解」
「さっきから複数回答可な問題ばっかじゃねーか」
どうにかして主導権握りたいのが見え見えなんだよ。
「もう半分は、私が説明しよう、少年」
「うわあっ!オジサン喋った!」
「当たり前だろ」
ビックリするコイツを尻目に、冷静な風を装ってツッコむ俺だが、正直俺も今の今まで存在を見失っていた。関係者ならもう少し会話に入ってくれよこえーよ。
「んじゃココから先は一旦ミレオに説明してもらうわ」
「(ミレオっていうのか。自己紹介より先に名前明かされちゃったよオッサン)ん」
「私の名前…は今言ったか。では、早速コレ
を見せようか」
「?…!オッサンあんた…」
「えっどゆこと!?」
手を掲げたオッサ…ミレオさん。いかにも普通の中年の、ハリが無くなった様なその手が、見る見る内に色を変えた。昨日良く見た、生体的な銀色に。
「見ての通り、私も異星人だ」
「でも、人馬種って事か?」
「ああ、直ぐにそう言ってくれて助かるよ。少年…成田宗士君」
開き直った言い方じゃない。異星人は異星人でも、誇りのありそうな言い方だった。造反とかでなく、自らの意思で決別した種族である様な。
「そしてもう一つ…コレだ」
「!えっオジサンそれそんな風に出してたの!?」
「昨日は暗くて見えにくかったか。驚かせたね。お嬢さん」
「あの鍵…!」
胸に手を当てた瞬間、微かな光を伴って、昨日のあの『鍵』が身体から出てきた。言うならば、ミレオさんから分離したかの様な、肉体の一部を、切り離したかの様な光景だった。
「コレが現状、人馬種が起源種に対抗し得る可能性を持った、文字通りの鍵だ」
ミレオさんの話を要約するとこうだ。
先に地球環境に適応し、自我を芽生えた起源種であるあの銀色の巨人だったが、その意志はすべからく、生存の為とはいえ本能的な感知機能を利用された人間への反抗心、反逆の意志だったという。
人間への憎しみの心は、大気への環境適応能力だけに留まらず、原種状態であった身体を更に強化、増強して行き、彼処までの体躯へと変現させ、同様に他の個体も増やしているらしい。
だが、それに抗う様にしてまた、人馬種…ミレオのオッサンという存在も芽生えた。電子機器に混ざり合い、人間の生活を身近に感じた上で、その心の暖かさを学んだ…いや、学んでくれたって言った方が適切だろうな。
そうして人の心の善の部分を尊んでくれたのが、この人と、身体こそ未だ持ち得ないものの、各地で志を共にする人馬種達だったそうだ。
「それで…何で俺のマシンに…って俺のオートバイそういえば俺のオートバイは何処ォ!!??」
慌てふためくなんてレベルじゃねぇぜ。何でかすっかり記憶から抜けてたが、あの後俺のマシンは何処に行っちまったってんだ。やっぱり壊れて…。
「それならホラ、宗士」
「?…おぉ。あった」
庭の方のカーテンを開けるコイツ。砂場…今はもう使う事の無くなったあの砂場に、サイドスタンド立てて鎮座してあった。其処だけ切り取ると、一瞬だけ、モロッコの砂丘に居るかの様に。
「良く運べたな…」
「昨日とは真逆…応用と言えば、分かるかな」
「なるほど…デッカくなったから小さくも出来ると」
あり得る話だな。つってもデッカくなるメカニズムもサッパリ過ぎるオーバーテクノロジーだけど。
「ていうか元に戻ったのをオジ…ミレオさん押してくれただけだよ」
「マジか。あ、つかミレオさんアンタどうやって回復を?」
「君のバックファイアのお陰さ」
「バックファイア……えっ?俺のオートバイのエンジン、燃焼室で異常起きちゃったの!?」
あ〜ヤダな〜怖いな〜ヤダなぁ〜!腰上のオーバーホールとかいくら掛かるんだろう高校生の小遣いとバイト代じゃ絶対無理だろヤダなぁ怖いなぁ〜!
「ハハ。すまないすまない。人間の皆が使う意味ではないんだ。君がヤツを撃退した時、マフラーから火を出しただろう。アレがバックファイア。我々人馬種の、活力になる炎さ。型式状君達に合わせて呼んでいる」
「はぁ、なるほど」
ならどっちかってとサイレンサーから吹いてるからアフターファイアな気もするけど、良く混合して使われる呼び名だから、ミレオさん的にはそれで良いんだろう。
「そして私は、この『鍵』にのみ、力を集約する事が出来ている」
「するってーと…つまりアンタは、自分自身にヤツと対抗する為の力は無い…のか」
そりゃそうか。だったら昨日、あんなにボロボロになるまで逃げ回ったりしない筈だもんな。
「あぁ。故に探していたんだ、鍵の力を引き出せる者を。そして偶然にも見つけられたのが、宗士君、キミだよ」
「はっ?ちょっと待てよミレオさん。じゃあ昨日のロボが一番最初の「そうよシュウジ。観測史上初の完成形人馬種、我々がカテゴリーΛと呼んでいるのが、アナタのモーターサイクルが巨大化、変形した姿」!…」
今度はリリエッタさんが久しぶりに喋ったななんて思いながら、よもやオートバイロボットシリーズの第一号になってたとは思わなんだ。てっきりロボットの方も色々知ってる体で話してるのかと思ったぞオイ。
「つまり、えっと宗士?」
「だから…ヤツらに対抗出来る手段は現状俺にしかない。って言いたいんすよね」
「そうよ」
そんな事態が現実で有るのかよとは言いたくなるが、昨日の今日でツッコむのももう野暮な話だろう。にしたって流石にこの町でのローカル巨大ロボットバトルならまだしも、世界規模になると想像の向こうの話だが。
「でもバックファイアって今ミレオさん例えてたじゃないっすか。アレは?」
「コレだ」
「うおっ」
「ヤバーい!火事りそう!」
自分ち燃えそうなのにテンション上がるな黒ギャル。しかしまぁ、あの銀色のと同じ星の生命体なんだろうけど、見た目は俺達人間そっくりなオッサンが、何の躊躇も無く口から火ぃ吐いてるのは驚くな。日系人顔だけどインドで修行して来たのかと聞きたくなる。
「こういった特性の再現…我々の能力の強大な写し身を探し求めるも、生まれて来なかった。それが昨日、遂に見つけられたんだ」
「…」
随分と、落ち着いた顔をしたこの人。嬉しいという感情よりも、安心した、漸く一息つけたという顔だった。それ程までに、待ち望んでいた事なんだろうか。それ程までに、憂いていたのだろうか、この地球での自分達の現状を。
「それと、さっき言ったサハラ砂漠の話。知っての通り、パリダカは今や世界の一大イベントになってるのは承知済みね?」
「そりゃコース終盤、一番のキモにあの巨大隕石居座ってますしね。広告効果としてのビジュアルバッチリ」
「アレがヤツの拠点の可能性があると言えば、もう分かるわね宗士?」
つまり…こうか。
⚪︎起源種、カテゴリーΩが更に仲間を増やし、人類への大規模侵攻を始める前に、速やかに叩きたい。
⚪︎しかし通常兵器の効かない連中への対抗手段と、そもそもの先制攻撃を仕掛ける道筋が立たない。
⚪︎だが、俺のオートバイロボットが漸くの対抗手段となり、尚且つミレオのオッサンが誘き出すエサになる。
⚪︎それを(起源種も含め)最も効率良く行える可能性があるのが、大量のオートバイとクルマがモロッコに集うーーー。
「パリダカが一番良いって訳か」
「そ」
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