2-1 来訪者たち

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「知ってる天井だわコレは」

 こういう時は、目が覚めたらなんか殺風景な隔離施設の病室みたいな所に居ました。なのがお約束な気もするが、この天井は、多分恐らく…。

「っ!」

「ごへっ!?」

 巨人相手にはガードした鳩尾へのパンチを、この天井がある家の住人から、モロに食らう。ゲロ吐きそうになる。

 というか真上からの打ち下ろし、鉄槌だから滅茶苦茶いてぇ…。

「俺多分病み上がりだからもう少し加減しろよ…」

「〜っ!…バカ!」

 声の方を見れば、涙蓄えて怒った顔してるコイツが居た。つか黒ギャル褐色肌でも分かるレベルでクマが出来てんじゃねぇか。らしく無い事…すんなよって話だよ。

「仕方ねぇってか鍵渡したのお前だろ?」

「それはゴメンだけど…だって宗士真っ直ぐ突っ込んでくから…」

「俺だってあんな風になるとは思っちゃいねーって。第一それならあの鍵お前に預けたオッサンに…ってオッサン居たぁ!?」

「目が覚めたか。少年」

 居ない体で文句言えってスタンスだったら、コイツの部屋の端、隅で体育座りしてるあのオッサンが居た。ポジションが霊的な立ち位置だから止めて欲しい。心臓にとてつもなく悪い。一番ビックリした。

「オッサン、てか身体大丈夫そうだな…」

「ああ、君のお陰でね。助かったよ。ありがとう」

 体育座りなまま深々と頭を下げるオッサン。理解の範疇を超えた出来事ばかりだが、少なくとも当初の目的を果たせたってのは、一つ、決まりが着いて、スッキリした気がする。

 とはいえ。

「俺があの気持ち悪い巨人と戦った事とアンタの怪我は関係なくな「あるから、今から説明していい?」…は?だれ?」

 天井と俺の間に挟まる、女の顔。銀髪の毛先が鋭利に揃ったボブカット。切れ長な目。そして碧い瞳が、俺をジッと見つめ…いや、睨んでいた。





「リリエッタ・オベール…フランス政府情報局所属、治外事案漸次対応特派員……?」

「唐突過ぎて訳が分からないといった顔ね」

 うーわめっちゃ期待してたリアクションが見れたからか、腕組んでドヤ顔してる。

「直ぐに分かったらおねーさんそれはそれで引くでしょ」

「っ…ユウコの言う通り減らず口の多い男ね」

「お前俺のパーソナルデータを見ず知らずの外国人に教えんなよ」

「だってこのリリエッタさん?が色々助けてくれたんだよ!ホラぁ!」

 半ばヤケクソ気味にテレビを点けるコイツ。丁度お昼のワイドショーがどの局でもつまらなく届けられている中、そのニュースが流れていた。

『昨晩千葉県T市、N町で起きた原因不明の田園火災についてのニュースですが、未だ火元は特定出来ておらず、また現場付近に大量に残されている巨大な足跡の様な物も、事件の謎を深めています。警察は消防と連携し、『可能な限り速やかに原因究明に務めて行く』との事です』

 と、定型口調で話すアナウンサー。しかしそのニュースから届けられた映像の中には、俺も、コイツも、オッサンも、そして巨人と、俺の馬鹿デカくなった上にロボットに変形しちまったオートバイも、一切写っていなかった。

「さて、じゃあ取り敢えず一から教えた方が、良いわよね?」

「まぁおねーさんの話がスターウォーズみたいな構成でないなら、その方が良いっすね」

「…それだけ頭が回れば大丈夫そうね」

 結構イラッとした顔を見せたこの女。だが実力行使に出る訳でも無い辺り、俺達を今直ぐどうこうしようとする気は無い様だ。

 なら今の所は、何故かこの幼馴染の部屋に居る異質な二人を、認めてやっても良いかもしれない。

「先ず、確認を一つするわ。貴方が昨夜戦った相手…コレね?」

「おぉ。特ダネ画像が平然とタブレットに写った」

 タブレットに映し出された、あの銀色の巨人。ただ、周りの背景が工場?みたいで昨日の彼処ではない。つまり、アレを知っている人間と見て、間違い無い様だ。

「コレは所謂アーキタイプと呼ばれるモノ。別名起源種」

「宗士コレ何の授業?」

「理科か社会だろ。物理とか現社みたいな細かい区分は知らん」

「話聞けガキ共…そしてコレが、貴方が乗ったモーターサイクルね」

「!」

 出て来た、俺のオートバイがロボットになってる写真。主観だから全体はまだ把握出来て無いけど、それでも肩から首に巻き付いたサイレンサー…いや、この場合フルエキゾーストだから、文字通りのマフラーが、俺のだって判らせた。

「別名、人馬種」

「ケンタウロスではな…いや、そっちっすか」

「そうね。モーターサイクル好きの貴方からすれば、気づき易いでしょう。人馬一体の、人馬種よ」

「つまり、何?」

「ユウコ、貴女にも分かる様に、説明するわ」

 タブレットを捲る女…オベールさん。出て来たのは、彗星が落下する一枚の写真だった。

「あっ、現社の教科書で見たヤツだ…」

 モロッコ大災害。その名の通り、飛翔物MCが彗星に乗って来た際に起きた、未曾有の大災害。

 勿論俺達の生まれる15年前の出来事だから、歴史としてしか知らんが、特にアフリカ北西部とヨーロッパの大西洋沿岸地域の被害は、相当甚大だったそうだ。

 それでも人間というのは強い物で、数多の犠牲を出しながらも、落着した彗星から、エネルギー革命となる物質を手に入れる事が出来た。

 電力飽和と言われ、世界を賄うエネルギーに限界が見え始めていたその時期に、物流と経済を賄う自動車産業に於いて、動力への電力依存、移行に歯止めを掛けられた事、ガソリンを用いた発動機による環境保護問題に、技術のブレイクスルーが起きた事は、世界全体から見たら、怪我の功名と言っても差し支えないほどの、メリットを及ぼしたらしい。

「コレが関係あると?」

「えぇ。エネルギー革命をもたらした彗星…隕石だけど、それは決して、福音と呼べるモノだけではなかったわ」

「被害出してる時点でトントンな気もすっけ…!…はぁ…なるほど」

 画像を捲り、次の写真を見せるリリエッタさん。其処に写っていたモノこそが…俺が昨日戦った、あの銀色の巨人そのものだった。しかも複数、いや、無数に出てきて。その、隕石から。

「そう。飛翔物MC…我々は異星船と呼んでるそれは、地球外の未知の生命体も連れてきたわ」

「えっ宇宙人って事?」

「そうねユウコ。ただ、こういう場合の宇宙人のセオリー通りとは行かなかったケド」

「侵略しに来た訳じゃねぇって?」

「ん」

 そうして次に見せられたのは、相関図みたいな画像。四隅にそれぞれカテゴライズされたモノがある。左上、宇宙人。左下、電気。右上、MC混合のガソリン…そして右下、自動運転車…?

「概要を説明するとこう。三十年前、宇宙から飛来した異星船に搭載されていたモノ、それが飛翔物MCと、この起源種。起源種は播種の為に飛来した訳だけど、彼等はこの星に落着した際、地球の大気構造に順応出来なかった。しかし彼等の生体の特徴として、金属との融合、及び電気を用いた活動が可能だった」

「何だそれ戦え!超ロボット生命体じゃねーか」

「おぉ!そういう事かーわかった!サンキュー宗士!」

 オーバーに親指立てやがってやっぱわかってなかったなこの黒ギャル。今のもロボット生命体の所だけ切り取って、分かったつもりでいるんだろう。

 そもそもかなり眠そーな顔してやがるから、寝た方が良い。眠っとけクマギャル。つかリリエッタさんもうリアクション取るの止めたな、諦めたな。

「ただ、そうなった場合の彼等は、あくまで生命維持の為の状態。自由な意志は無くなる。とはいえそれでも生きねばならなかったから、一つ、人類に提案を持ち掛けたの」

「それが、飛翔物MCか」

「そう。持ち寄った彼等異星文明の、『原油比実に十万対一で排出ガスの無害化を可能にするクリーンエネルギー』の供与と引き換えにオートモービルへのAIインテリジェンスというカタチでの、自身等の生活環境の提供。コレを条件に、彼等はこの星での一つの定住権を手に入れた訳」

「なるほどな。現代社会で世界の歴史習っても唐突過ぎる訳だ」

「えぇ。リチウムイオンバッテリーの技術革新なんて建前。実態は両方異星科学よ。そもそもAIは学習を繰り返す事による経験則の積み重ねで精度を上げるのだから、当時の時点じゃ実測データがまだ足りなさ過ぎるもの」

「あっダメだまたわかんない」

 だから寝ていいっつの。

「…で、そっからが本題、エピソード3でダースベイダー誕生なんだろ?リリエッタさん」

「…」

 一度タブレットを持ち直して、数枚ページを捲る女。漸くココから本題の本題に入る訳だ。どういう話に繋がるのか…は、ある程度予測は出来る訳だが。

「ある時、一体の起源種…アーキタイプが、地球の大気環境で、順応し始めたのよ」

「で、そいつがもう少し好き勝手やらせろってか?」

「減らず口は多いけど、貴方察しが良いのは助かるわ。そうよ。順応、と言えば聞こえは良いけど、その起源種は、反抗の意志を見せ始めたの。そして少しずつ、その数を増やして行った」

 反抗の意志…いや、そんなもんオブラートに包むまでも無く、侵略の意思表示、宣戦布告だろう。

「それが昨日出たあの気持ち悪りぃ巨人って事か。漸く話見えたよ。リリエッタさん」

「えぇ。今、世界各地で散発的にあのアーキタイプをフラッグシップに…我々がカテゴリーΩと呼んでいるモノをリーダーとした、起源種による暴動、破壊活動が起こっている。昨日の様にね。奴等は通常兵器を一切寄せ付けない外皮構造で構成され、悉く我々の迎撃行動を無力化して行ったわ」

「で、アンタは俺をどうしたいんすか?そのカテゴリーΩ軍団ってのの抑止力のコマになれってやつ?」

 こういう時は遠回しでなく、スパッと聞いた方が良い。少なくとも今話した感じじゃ、この女は聞かれた事には答える意思はあるみたいだが。この質問にはどう出るか、一番の分水嶺だろう。

「…半分正解で、半分違うわ」

「竹を割った感じの性格だと思ってたっすけど、答えまで割らなくてもいいですよ」

「じゃあもっと具体的に言うわ。成田宗士、貴方は再来週、ゴールデンウィークに開催されるあるレースに出てもらうわ」

「…はっ?レース?」

 なんだなんだいきなり突拍子も無さ過ぎるだろうよリリエッタさんよ。今の今まで隕石からの宇宙人からのエネルギーだ侵略だのの話だったのに何急にレースとか言っちゃってんだこのマドモワゼルは?本当はレースクイーンとかが本職なのか?

「そう、コレに」

「コレ……あ?」

 口が開いて、目がかっ開いて、とんでもなく間抜けな声が出た気がした。提示されたタブレットの画像から、暫く、本当に数十秒、目を離せなかった。

「私はフランス人だから、レースと言ったらコレよ」

「ぱっ………パリダカァァ!!!????」

「うわぁビックリしたぁ!うるさい宗士ぃ!!」

 あ、やっぱ寝てやがったなコイツ。




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