第14話 ジェーンの仕事
アケボシ本社ビル襲撃事件、倉庫街のジェーン自爆、倉庫街の簡素な爆弾。
1ヶ月も経たずに連続した爆破事件が世間を騒がせる中、3件目は威力や爆弾の構造から模倣犯との見解を警察は示していた。
コウリンの部屋でニュースを見ていた2人は自分たちに関わる事件にも関わらず退屈そうに欠伸をしている。
「マスコミさんたちも元気だねぇ。もう何度目これ?」
「ループ動画みたいに成ってきたな。てか1件目はジェーンも覚えてるんだろ?」
「私に依頼してきた連中はアケボシに恨みが有るって言ってたよ。恨みの内容はバラバラだったから『被害者の会』ってやつかな」
「でもアケボシに対して要望とか声明を発表、とかが無いんだな」
「そう言えばなんか言ってたなぁ。爆破したら次は俺たちの要望を伝えるんだ、アケボシの横暴を世間に伝えるんだ、とか」
「そんな様子無いんだが?」
「そだね」
興味の無さそうなジェーンだが、雇われの彼女からすればこの程度の思い入れなのだろう。
「そう言えばバスケコートに来たテロリストは殺すつもりだって言ってたけど何で?」
「えっとね、別の依頼が有ったからだね。襲撃事件後にテロリストたちを無力化してくれ、デッドオアアライブで構わないって」
「スパイだったのお嬢さん?」
「ふふーん。ピチピチのライダースーツでも着てあげようか? お兄さんの閲覧履歴に『囚われの潜入捜査官・嗜虐の取り調べ記録』とか有ったよね」
「何てもの見るのこの子は!?」
これでは『死んだら記録データを破壊してくれ』の意味が無い。既に知られているなら破壊しても手遅れだ。
「私の場合だと『飛び級捜査官の失敗・お兄さんに捕まった7日間』とか?」
「腕力で手錠とか破壊できるじゃん。てか俺が捕まえるのか」
「女の子に殺されるかもしれないギリギリの緊張感を味わえる作品に成っております」
「お兄さんが捕まってない? 失敗って力加減の話してない?」
馬鹿な話は横に放り投げた。
「で、依頼人は?」
「顔も声も加工してたから素性は分からないかな。ただこんな仕事を頼んでくるのはヤマタノオロチのどこかだと思う」
「え、アケボシ含めて? 何で?」
「仮にアケボシなら、本社ビルが破壊されてでも不穏分子を消す事ができる方が良いって思うかもしれない。あと全部の企業に当て嵌まるけど、死体でも半殺しでも新鮮な人体は研究に使えるから、テロリストって行方不明になっても良い人たちは都合が良かった、とか」
「物騒」
「ヤマタノオロチ絡みなんて全部こんなだよ~」
笑いながら首に絡み付いて来るジェーンの感覚はやはり自分と違うと感じながらもコウリンは天井を見上げて考えた。
「やっぱ報酬良かったのか?」
「凄かったよ。お兄さんが居なければあのコートは血の海だったね」
「マジか。でもさ、同じ仕事を他の誰かが受けたりしてないのか? テロリストは結構な数が居たみたいだし、ジェーン1人で全員無力化なんて現実的じゃないと思うんだ」
「可能性は有るかなぁ。今までもこんな感じの仕事は早い者勝ちか参加者全員サービスだったよ」
「……爆弾の依頼人は流石に別人だよな?」
「名義は違ったね。まあ見るからに捨てアカだから同一人物の可能性は有るけど」
「テロリスト皆殺しを失敗したジェーンの口封じに呼び出したとか?」
「おお、名探偵。まあそっちはミズハに任せた方が良いかなぁ。私の仕事の窓口、ミズハが追ってくれてるし」
コウリンの推理通りの可能性も有るが既にミズハが調査を始めていたらしい。
普通の万事屋が仕事探しに使う万事屋集会というアプリをジェーンは使っていない。ディープな仕事ばかりなので情報屋を窓口にするか誰かにミズハの連絡先を聞いた者が直接依頼してくる事に成る。
ジェーンの身体能力から破壊工作的な仕事は多く、その為に彼女はディザスターなどと物騒な異名で呼ばれるのだ。
「気になる? 気になる?」
「まあ爆破なんて物騒な事件だしな」
「私の事、心配? 心配?」
「そりゃ心配だけど」
「ふふーん」
妙に上機嫌なジェーンが頬擦りを始めたのでコウリンは頭を撫でてやった。気分は気紛れな猫が妙に懐いてくる時のようだ。
「一応、また別の仕事が入ってるんだ。今度は依頼人も何回か会ってる人。定期的に貰う依頼でね、耐久力実験の協力」
「耐久力実験?」
「個人ラボの所長さんでね、新しく作った素材の硬さを調べたいから新素材を殴ったり蹴ったりしてって」
「な、なるほど」
「発生する腕力を測定するのにライダースーツみたいなの着るんだよ」
「ここで『潜入捜査官』に戻ってくんのかよ!」
「鼻息荒いからちょっと気持ち悪いんだよね」
「危険人物じゃねえか!」
「研究以外のお仕事はレズビアンSM女王サービスだよ」
「情報量! そして業が深い!」
「ちなみにSもMもいける」
「何でそんなバカが素材研究なんてしてんだよ!?」
色んな方面に危険な人物のようだ。あまりジェーンに近付いて欲しくないタイプだ。
「ん? そんな危険人物、ミズハさんが許すのか?」
「別にミズハは私の保護者じゃないんだし、お仕事までに口出されたら大変だよ」
「お、口出された事有るんだ?」
反抗期の少女のようにミズハの顔を思い出してジェーンが不機嫌そうに唇を尖らせた。
「まぁ、ね。と言ってもこの研究者さんはミズハも知ってる人だよ。私が万事屋を始めた頃からのお得意様でミズハの伝手だったし」
「マジかよ」
「最初は普通だったんだけどね、1年くらいで趣味が変わっちゃったらしくて」
「ああ、狂わせたのか」
「言い方!」
何が有ったかは聞かないがコウリンはSM研究者に同情を禁じ得ない。
どんな人物なのか聞くだけで印象は最悪だが、ジェーンに狂わされたと思うと少しの同族意識も沸く。
「お兄さんも来る? 困ってる事は多いけど万事屋集会じゃ細かい事を頼むの大変ってボヤいてたよ」
「あ~、軽く話が通じる相手ならウィンウィンに成れそうって?」
「そうそう」
「ふむ」
「今ならピチピチライダースーツのオマケ付き」
「乗った」
「……お兄さんの閲覧履歴、もう少し探しとこ」
「止めてお願いこれ以上俺を丸裸にしないで!」
下手に能力の高い相手が身近に居るのは凡人には危険でしかないのだ。
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