第20話 新政権


 新しい部屋、新しい役職……そして新しい仲間。

 

「というわけで、新生ギルドがんばろー!」


「おー」


「なんかやる気なくない!?」


「いやだってこの人数は……」


 だが、そこにいるのは私とファウスの2人だけである。


「だってみんな移籍しちゃったんだから……仕方がない、というか過ぎたことは気にしない!」 


 生命線が誰一人残らず移籍……まあ確かにここまで来れば開き直るしかない。1からのやり直し、というかスタート位置に立っているすらも分からないが、とにかくやるしかない。


「となるとまずは人集めからか……で、この紙切れは何だ?」


「一応ここ所属の冒険者をランク毎にリストアップしてみたの。こういう時に役立つかなーって」


 流石はデキるチーフのファウス。私が人望でギルド長に推薦されたのなら、ファウスは確実に能力でチーフに推薦されているはずである。


 リストによると、このギルドの現役冒険者は総勢80人。その内【Fランク】が78人、【Bランク】は1人、【Aランク】も1人いるらしい。

 ちなみに主力にできる冒険者はEランク以上の5〜20人という決まりがある。

 

「主力全員放出ならこうなるか……不幸中の幸いとしてはAとBが1人ずつ残っていることか。とりあえず2人は埋められたな」


 だがファウスはあまりいい表情ではなさそうだ。


「いやぁそれなんだけど……」


 ファウスはリストの中の文字を指さす。見てみると、そこにはその人の名前の横に小さく何かが書いてあった。


「Bランクの方は御歳71……流石にベテラン過ぎる。そしてAランクに関しては行方不明……これはぁ……どうしようもないな」


 ということで残ったのは78人のFランクだけである。


「ここからがギルド長の出番というわけ。諦めちゃう? それとも何かやってみる?」


「まあ、やることは決まっているな」



 という訳で私たちは主力を決めるための大々的なオーディションを行うことにした。

 Fランクはすぐになれることから、対象はラウラスギルドに所属することのできる全員とし、どうせならと町中だけでなく他の都市などにもバンバン広告を出すことにした。

 ちなみにそのせいで予算の3分の1を消耗してしまった。おそらく私の貯金を切り崩すのも時間の問題だ。


 そしてその広告の甲斐あってか、応募は思ったよりも多く集まった。やはりある程度のラウラスの全国的知名度と、


『その力で、世界を掴め』


 という私の考えたイカしたスローガンが効いたのだろう。


「いやぁ、シオンちゃんの考えたスローガンがダサすぎるって少し有名になったおかげでかなり人が集まったねー」


 ――あれ?


「……とにかく、だ。早くしないと日が暮れるどころか日付も変わってしまう。みんな待っている事だし、早く始めよう」


 オーディションはミルヴァムという国内最大の都市のひとつの巨大フィールドを借りて行うことにした。


 応募総数はおよそ300人、この中から最大10人を決めることができる。

 審査員は私とファウスの2人だけでは逸材は見抜くのは難しいので、


「チャーリー、めぼしい人とか応募者にいるのか?」


「僕より立場が上になったからっていきなり先輩にタメ口とは……まぁ、少し名の知れた人は数人いるが言ってもアマチュアレベル、過度な期待はしない方がいい」


 チャーリーは元々ウチにいる敏腕スカウトで、この度クエストのプロデューサーも兼任してくれるということで首脳陣に加わってくれることになった、煙草が好きなお兄さんである。

 そして、これでギルド内の仕事の主任はファウス、外はチャーリーという磐石な体制を築くことができたことになる。


 ということで今回はこの3人で見ていくことになる。


「1番、○○です、よろしくお願いします!」


「準備はいいね、じゃあ始めて」


 チャーリーの掛け声で起動したのは、全長3メートル超のラウラスお手製土属性ゴーレムである。

 内容は簡単、制限時間内にこのゴーレムの攻撃を避けつつ頭の上にあるスイッチを押して停止させるだけである。


「なにこれ……強い!」


「制限時間あと半分ー、休まずに続けてー」


 だが、今回は事情も事情なので少しイジってゴーレムの強さを3倍くらい強くさせていただいた。だが正直、このゴーレムの頭を叩けないようじゃどこのギルドでも主力なんて無理である。


「はいお疲れ様、次の人どうぞー」


「ありがとうございましたー」


 だが、


「42番△△です。一発芸やります!」

「54番☆☆です。皿回しやります」

「108番□□です。サルの鳴き真似やりまーす」

「歌を歌います」

「逆立ちで果物の皮を剥きます」

「ジャグリングを……」

「一輪車を……」


 気づけば、芸能オーディションになっていた。

 

「どういうことだ? なんか趣旨が変わってきてないか?」


「うーん、これってゴーレムが倒せないから別のことをしてアピールしてるんじゃないかな」


「こういうのは誰かひとりがやったらその後も続いていく。次第にそれが正しいと認識されていく……最初に止めなかった我々の責任だ」


 恐らく何千人も冒険者を見てきたであろうチャーリーが頭を抱えている。それほど事が重大ということだ。


「どうする……このまま続けるべきか」


 うーん、確かに止めるのもありなのか……


「でもまだ受けてない人もいるし分からないぞ?」

 

「もういっそ芸能人オーディションにしちゃおうか」


 馬鹿野郎っ!


「私の財産を結構つぎ込んでるんだぞ! ていうか芸能人取って何になるんだ」


「冗談だ冗談。でも、あまり合格者は出なさそうだ」


 そしてそのまま、私達はおよそ200人の持ちネタを見る羽目になってしまう。


「あと何人だ……? もう途中くらいから皆同じように見えてくるんだが……」


「あと2人かなー、あと少しがんばろ。でも、しんどいのも分かるなー。私も最初らへんの人の芸もう覚えてないし」


「僕もしんどいのは分かるが、300人でこれだと鼻で笑われるぞ。もっと大きいギルドでは1日1000人以上もザラにあるらしい」


「うげぇ……私は絶対無理だなーそれ」


 だが、この地獄もあともう少し。この2人を乗り切ればひとまずは終了だ。


「はい次の人ー」


 そして、ラスト2の人が部屋に入ってきた。

 だが、


「頼もうッ! 勇者が参ったッ!」


 聞き覚えのあるフレーズ、見覚えのある白い布切れを身にまとい、紫の渦目を輝かせた――そう、リューバがそこにはいた。



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(自称)勇者と始めるギルド経営 ナスの覚醒 @nassun

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