第8話 呼び出し


 翌日、私はなんと町長からお呼びがかかっていた。

 ということなので私はギルドに隣接してある町役場に来ている。


 とりあえずフロントのベルを鳴らす。しばらくすると、それを聞きつけた1人がこちらに走ってきた。


「私だ、何か呼ばれたみたいなのだが……」


「あ、シオンさん! 要件は聞いています。どうぞお通り下さい」


「なんの用事か分かったりしないか?」


「それは……重大な事としか……」


「そうか、それならいい。ありがとう」


 少し先に知っておきたかった程度なので、知らないのなら仕方がない。

 私はすぐ奥にある階段を急いだ。町長室は最上階、上り終わった頃には、もうクタクタになっていた。


 

 そして町長室の前に来た。

 廊下の一番奥、一つだけ重厚な木の扉の部屋なのですぐに分かった。心臓の鼓動がやけに聞こえるのは息が上がったからだろうか、それとも緊張なのか。

 一度深呼吸をしてドアに手をかける。


 『コンコン……』


 軽くノックすると、その扉は重々しく開く。だが、その先にいた老人は、思っていたよりも優しそうな顔をしていた。


「朝からすまないね」


「し、失礼します!」


 そう言って部屋に入ると、そこには辺り一面に記念の剣、盾、ペナント、杖、王冠やマントまで丁寧に飾られている。

 

「どうぞここに座って」


「あ、はい」


 そう言われて、机を挟んで2つあるソファの手前の方に腰掛ける。私の職場とは全く違い、とてもふっかふかだ。


「……あ、どうもすみません」


 次に町長は私の前にお茶を出してくれた。が、緊張する中でお茶なんて飲めたもんじゃない。町長もそれを分かっているのだろうか、手を膝の上に置いてどこか一点を見つめる私に対して比較的落ち着いた口調で話し始めた。


「それで、シオン君を呼び出した用だけど……」


 その言葉を遮るように、私は前の机に手をついた。


「昨日は本当に申し訳ございませんでした! まさか町長がいらっしゃるとは……いや、いらっしゃらなくても私のしたことは失礼極まりないもので……」


 謝罪は先手必勝、後にとっておくとどうしてもやらされた感というものが出てしまう。私は額も机に打ちつけてとにかく誠意を見せることにした。


「いやまぁその件ではあるんだけど……とりあえずお茶こぼれてるから頭上げようか」


「あぁっ……! すみませんすみませんっ!」


 どうやら頭と手を付けていたせいで机にも振動が伝わっていたらしい。

 私は机をとりあえずそこら辺にあった布でフキフキした後、すぐに町長の前に座り直した。

 後になって分かった話だが、その布は大事な大事なペナントだったらしい。


 そんな事も知らぬまま、私は下を向きつつ黙り込んだ。なんかこれ以上動くともっと罪を重ねてしまう気がした。


 そしてようやく私の気が落ち着いてきた頃、町長は口を開いた。  


「まずはじめに、はいこれ。置き土産」


 そう言って出されたのは、1枚の縦長の紙だ。

 ふむふむ、何だって……『解雇通知予定書、シオン=エンフィール殿』……って、それは……



「えっ……?」


 スーっと血の気が抜けた様な気がした。

 いやある程度分かってはいた。ていうか言われてたし。


 でも、どこか期待していたのだろう。

 昨日ベテラン冒険者が励ましてくれたように、何とかなるものだと安心していた。『あの人』とは恐らく町長のこと。ということは、私の声は届かなかったのだろう。


「いやいや深刻な顔はしなくていいさ。言ったじゃないか、置き土産だって」


 ここら辺で、私は町長の解雇通知にしてはやけに軽いノリに気づき始めた。


「置き土産……ですか?」


「そう。役員――前ギルド長と言うべきだろうか、相当君に怒っていたようだ。ギルド内の件については干渉できないからね、こういう形になった」


 ということは、あの人はギルド長を外されたということだろう。私を道ずれに。

 町長は話を続ける。


「でも僕は、あの時の君の判断は間違ってはいないと思うし、むしろあそこで刃向かえる勇気を持った人材の流出こそギルドの終わりだと思う」


 すると町長は私をまっすぐ見て言った。


「シオンくん、スカウトという形になるがギルドに戻ってきてくれないか? 今度はギルド長として」

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