第13話 支えるもの

 僕はこの頃のある時期から、毎日「死にたい」と思うようになった。

 たまに来る高校時代の友人からの連絡も全て無視した。

 もう彼らとは「合わない」気がしたのだ。

 自分が考えている事、悩んでいる事、その全てが自分しか抱えていない問題に思える。

 みんなこんな事考えないんだろうな、こんな事で悩んでいないんだろうな、みんな当たり前に友達がいて当たり前に楽しくて、当たり前に家族も仲良く、自分にはその当たり前がひとつもないのでは。

 何か、自分一人だけ別の場所に取り残されていっているような......。


 この悩みは、自分の家庭における唯一の味方の母でさえもきっと理解できないんだろうな。

 そんな事まで思い孤独感と疎外感と劣等感を溜めに溜めて、まともに働く事さえできない自分は、それこそ本当に「糞尿製造機」で、いっその事自分なんかいない方がいいんじゃないかと思い、自己嫌悪と自己否定で潰されそうになり、幾度となく狂いそうになった。

 しかし、それでも母の存在と音楽が、僕をギリギリの所で踏み止まらせた。


 母の存在は、僕の今にも狂いそうな理性を食い止め、音楽は、今にも潰されそうな僕の心を癒した。

 僕は発狂しかけながらも、どんなに無気力な虚無状態になっても、なぜかギターを弾く事だけは辞めなかった。

 そうして音楽とギターで、なんとか現実に立ち向かうエネルギーを微量ながらこしらえたのである。


 次の年の一月、バイトを始めた。

 新たにオープンする店のオープニングスタッフで、全員同じスタートというのが良かったのか、周りのスタッフが皆穏やかな優しい気質だったからなのか、そのバイトはなんとか続ける事ができた。

 しかし友達はできなくて、この頃はそれまでの友人達との関係も完全に絶たれていて、僕には本当に友達が一人もいなかった。


 この頃には自分の性質も、幼稚園生の時のような、極端に臆病で警戒心の強い人見知りに逆戻りしてしまっていて、人と話す時は常に胸がドキドキして、バイト先では、仕事以外の内容で自分から話しかける事などはほとんどなかった。


 友達もいない、作る事もできない、そんな自分を支えるものは、母と音楽だけだった。

 しかし、その二つがあっただけでも、十分マシだったように思う。

 もしそれすらもなかったら、きっと僕は取り返しのつかない事になっていたに違いない。

 そして僕は、一人も友達がいないまま、二十歳を迎えた。


 それから一年、挫けそうになりながらも必死でバイトを続けた。

 一年が過ぎ、なんとかやっと、それなりにお金を貯める事ができた。

 専門学校二年分の学費には届かなかったが、足りない分ぐらいは市でお金を借りる事ができる事を知り、二年間のフリーター生活からどうにか念願叶い、僕はこの年の四月から無事、学生となる事ができた。


 この時は「死にたい」とは思わなくなっていて、これから二年間一生懸命頑張ろうという気持ちでいっぱいだった。

 二年間全く季節も何も感じなかったが、この時ばかりは、桜を見て春を感じた。

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