4-34 ティエスちゃんは叱られる②
「で、なんか申し開きはあるかい」
「いや、ちゃうんスよ」
整備班詰所の床に正座させられてるティエスちゃんだ。試合? ああ勝ったよ。俺が奥の手切ったんだ。そりゃもう瞬コロよ瞬コロ。フフ、ドンカッツのやつ、負けたってのにスッキリした顔をしてやがったなぁ。まあその奥の手のおかげでこうやってガン詰めされてるわけなんですけどね。
目の前にはモヤっと怒気をにじませたおやっさんwith整備班がズラリ。圧が、圧が強い。俺は弁明した。
「『王国の"顔"にゃ、傷一つつけるもんか』だったっけか?」
「ぎゃふん」
しかし俺の弁明はおやっさんの皮肉めいたちくちく言葉にさえぎられる。いやそれ一回戦の時の話だから~~という文句がのどまで出かかったものの飲み込んだ。それは火に油というやつである。ティエスちゃんそれくらいはわかる。おい整備班の連中、手でスパナを弄ぶのはやめろください。怖いので。
「そりゃな、おれたちだって、まったくの無傷で帰ってくるとは思ってなかったさ。ああは言ったが、親善試合の三回戦だ。出てくる相手はみんな一癖も二癖もある強者ぞろいだろうよ。それなりの損傷は覚悟してたし、予備部品の手配もかけてた。だがなぁ」
おやっさんが、ス……と肩越しに親指で詰所の窓をさす。促されるままに俺も窓の外へと視線を向けると、そこには格納庫の床に横たわる巨人の姿があった。なんか腕とか足とかもげてるそれは、なにを隠そう先ほどまで俺が操り激闘を繰り広げていた我が愛機だ。なんというか、こう、見るも無残ってこういうコトなんだなってのが実感される有様になってしまっているなぁ。
「あそこまでズタボロにされるとは思ってねぇんだよこっちはよォ!!!」
「仕方ねぇだろこちとら負けられねぇんだからさァ!!!!!」
俺は逆切れした。ウオー俺は悪かねぇ!! なんならそのまま床でじたばたした。凍てついた視線が突き刺さり、むわりとした殺気が詰め所に立ち込める。どうする? 処す? 処す? なんて会話がひしょひしょと囁かれる。おもむろに整備員のひとりがセメントの袋を確認しだした。いやんコンクリ詰めにされて湖に捨てられちゃいそう。まぁ俺なら脱出できるが……。俺はそそくさと居住まいをただした。
そんな俺の様子を見て、おやっさんは特大の溜息をはいた。さっき怒鳴ったおかげでちょっと溜飲が下がったのだろうか。そうだといいなぁ。おやっさんはしゃがみ込んで俺と目線を合わせると、肩にポン、と手を置いてくれた。ゆ、許された……!
「使うな、つったよなァ。あの技は」
「アッハイ」
あ、ダメだ全然怒ってるわこれ。肩におかれた手にぎりりと力が籠る。たくましい職人の手だなぁって痛い痛い痛い痛いせっかく接いだ骨がまた砕けちゃう!
「機体各所の関節も電子機器も全部ぶっ壊れちまってる。部品交換でどうにかなるレベルじゃねぇ。オーバーホールしたって治るかどうかわかんねぇ損傷だ」
「いやあハハハ、ドンカッツは強敵でしたね」
「バカ野郎、こっちでもちゃんと機体の情報はモニタリングしてんだ。機体がここまでになったのは、あんたが無駄に調子に乗ったからだろうが」
うーんぐうの音。確かにちょっとテンションが上がっちゃって、しないでもいいアクロバットをしちゃったという自覚はあるが、でもさァ、王国の力を見せつけられたとはおもんだよ俺はさあ。結果オーライってことにならんか?
「なるか馬鹿。それにあんたが見せつけたのは王国の力じゃなくて、あんたの異常性だろうが。王国の力っていうなら、機体のスペックの範疇で勝負をつけやがれ」
「ゴモットモデス」
俺は反省した。というかしれっと思考読んだ?
「全部口に出てるよ。ったく……」
「おっといけねぇ」
俺は手で口をふさいだ。それを見て心底呆れた風にまた溜息をはいたおやっさんは、よっこらせと立ち上がる。どうやらお説教は終わりのようだった。
「予備機を一機持ち込んでおいて正解だったよ。……野郎ども、仕事にかかるぞ!」
整備員たちが、三々五々にへーいと気の抜けた返事を返して詰め所を出ていく。恨みがましい目こそ向けられたが、先ほどまでの殺気は霧散していた。一種のポーズだったらしい。驚かせやがって。
「隊長さん、もう予備の機体はねぇんだ。くれぐれも大事に扱ってくれよ」
「わかった。肝に銘じる」
「ったく、どこまで信じていいもんやら」
失礼な。ティエスちゃん嘘つかない。たまに結果としてウソになっちゃうことがあるだけだ。おやっさんはじっとりとした目を向けてきた。なんだよう。
「とりあえず着座調整だけはすましちまうぞ。きてくれ」
「おう、わかった。世話かけるね。今夜はいっぱいサービスするから♡」
「今日は徹夜だよ」
ひえー、ごめんて!
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