4-35 ティエスちゃんはエルフの長老とお茶会?①

「えぇ!? 俺もいくの!?」


「そうだよ。40秒で支度しな」


 エルヴィン少年の素っ頓狂な声をさらっと流すティエスちゃんだ。現在俺はおやっさんたちにさんざいびられながら着座調整(まさに針の筵ってかガハハ)を終えた後、二足目のわらじであるリリィ姫の護衛騎士としての仕事で忙しくしている。今回はエルフの偉いさんと折衝に行くんだと。ちなみにこの辺の動きは全部クーデター軍である「野生の後継者」に筒抜けてるそうだから、襲撃にも十分注意されたしとのお達しだ。いや防諜ォ!!

 まあこの期に及んでクーデター軍の首魁である賢狼人の王は姫を泳がせてるらしいのでまぁじでなに考えてんのかわかんねぇなコレ。それをいいことに味方づくりに奔走してる姫も姫でしたたかだがね。ちなみに、オーク軍閥への働きかけについては交渉をドタキャンされたらしい。うーん取り付く島もないってか。

 で、今回のエルフ邸カチコミと相成ったわけだが、ここでハラグロイゼ卿が思いもよらぬ提案をしてきた。今回の折衝には、エルヴィン少年を連れてくようにってね。提案というかもうほぼ業務命令だったけどな。


「でも俺、自分で言うのもなんだけどだぜ? 向こうの心証悪くするだけじゃねーの??」


「そいつは俺も思ったんだがなぁ」


 エルヴィン少年が自分の髪を摘まみながらのセリフに、俺も頬を掻きながら同調してしまう。まざりもの、つまりエルフと人間の交雑種は、人間からもエルフからも排斥の対象とされる。どっちも自分のほうが偉いって思ってるからな。もちろん人間のほうが偉いんだがそれはさておいて、そういう公的の場に連れて行くには存在自体がリスキーなのがエルヴィンという少年だ。しかしハラグロイゼ卿が言うにはやな。


「なんか向こうから顔みせぇって言うて来とるらしいねん」


「ほな失礼とちゃうか……」※実際は別に関西なまりではない。ティエスちゃんの翻訳である


 何とも奇妙な話である。なんだろう。アレかな。いざ連れてったエルヴィン少年を嘲笑の的にして交渉を保護にしようとか考えてんのかな。そうなると俺も剣を抜いちゃう自信はあるが……しかし今回会談するのは若いエルムではなく長老格のエルダーたちである。さすがにそれはないと思いたい。相手がエルムだったら間違いなくそういう展開になる確信はあるんだがな。あいつらとにかく喧嘩を振りまく生き物だから。


「そういうわけだ。時間もねぇし、行くぞ」


「ええ、でもそんなとこ着ていく服もねぇし……」


「夜会の時に来てたやつでいいだろ」


「えぇー、あれはなぁ……」


 そんなにいやかね王子様ルック。割と決まってたと思うんだがね。さすがブルーブラッドが流れてるだけはあるっていうか、馬子にも衣裳っていうか。


「つべこべ言ってねーでさっさと着替えろ。主人の命令ぞ? YOU従士ぞ?」


「わ、わぁーったよ。着替えりゃいいんだろ着替えりゃ!」


 まあ本人が嫌がっても着せるんですけどねマジで時間がねぇんだ。今日はこの後もスケジュールがひっ詰まってんだよおう早くしろよ。髪のセットは……まあいいだろ車ン中で櫛を入れてやりゃあそれだけで決まる。こいつ素材がいいんだよなほんとにな。


「中隊長さーん、準備できましたかぁー」


 ちょうどエルヴィン少年が着替え終わったタイミングで、無遠慮にドアが開かれた。入ってきたのは看護士もといミッティである。いやあそれにしてもタイミングが完璧すぎませんかねぇ絶対見てたろお前。


「やだなぁ、盗聴器なんて仕掛けてませんよー」


「語るに落ちてんだよなぁ」


 ほんとにこの女マジで曲者すぎる。しかもエライゾ卿のご息女だからなこれで。王国からすればリリィ姫と同格くらいの地位あるお方なんだわ。今回はミッティも交渉団に同行することになった。ハラグロイゼ卿が正式に賢狼王統軍に肩入れすると決めたのがきっかけで、色々表立って動いてるらしい。おっかねー。


「そういやイ……ジェイムズはどうしてるんだ、一緒じゃねーのか?」


「あらー、ききたいですー?」


「イエゴエンリョシテオキマス」


 だからその笑顔がこえーんだって!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る