4-32 ティエスちゃんは三回戦④

「やってやろうじゃねぇかこの野郎ァっ!!」


 相手の安い挑発に乗っちゃうティエスちゃんだ。現状は割と不利な感じ。足をやられたのはデカいな。吹っ飛んだのがつま先だけとはいえ、なくなれば歩くこともままならなくなるのは人間もマシーンも一緒だ。おまけに右足全体のコンディションも悪い。あんまり機敏には動けないだろう。

 だから何だってんだチクショウめ。俺は土魔法のりょっとした鷹揚で即席のつま先を生成すると、余裕をうかがわせるドンカッツへ向けて飛びこんだ。も~怒ったかんね。ボコボコにしてやる。

 駆け出して思ったが、やはり機体のバランスは悪い。バック転で稼いだ距離を詰めるのに、たっぷり3秒はかかった。主脚がぶれれば剣の振りも甘くなるし、踏ん張りも効かないとなれば、俺本来の太刀筋は再現できず、なによりホバー野郎と切り結んでパワー負けする。クソがよ。

 つばぜり合いのさなか、ドンカッツの嬉々とした声が響く。


『その意気やよし! やはり貴公もまた、ひとかどの猪武者とみる!』


「お褒めにあずかり光栄だ! でもなぁ、王国ウチじゃそれ誉め言葉じゃねぇから!!」


『郷に入っては郷に従うものであろう、がっはははぁ!』


 ドンカッツはこちらの剣を弾いて滑るように後退すると、背に懸架していた杖を起動し、こちらに向けて魔法の雨を放つ。文字通りのだ。ちょっと収束率と速度がえげつないけどなァ!


「ウォーターカッターぁ!?」


 おい猛火はどうした猛火は! てめぇの名前に誇りはないのか!? ないんだろうなぁ! 兵は詭道とか言ってたし!!

 しかし確かにメタとしてはこれ以上ない。基本単発の火の玉や風の刃、砲弾なんかの単射系は剣で斬りはらうのも容易だが、ああいう照射系というかいわゆるゲロビみたいのは相性最悪だ。

 俺は咄嗟に機体の前面に風の壁を出現させる。タッチの差で高出力のウォーターカッターがそれと接触し、その表面を這うように半球状の飛沫を上げた。わーIフィールドみたーいとか言ってる場合じゃねぇ!


『これを止めるか! 見事!』


「うるせー! 奇策ばっかり弄しやがって!」


『それこそ誉め言葉よ! 貴公も我が奥の手をことごとく躱すものだ! だが、ならばこれはどうだ!』


 ドンカッツ機はウォーターカッターを放出したまま滑るように距離を詰めてくる。水の圧が増し、即席風バリアーがきしみを上げ始めた。くそう、作用反作用の法則はどうなってんだ!

 それに加え、今度は肩が展開してあらわになった砲門から雷光がほとばしる。雷の矢ァ!? あれ、大質量金属をめがけて若干追尾する上に水とのシナジーも抜群だ。おまけに弾速もめちゃクソ早い!

 咄嗟に剣を投げて避雷針代わりに。雷の矢を誘導しつつ、俺は足を引きずるように後退する。雷の矢は狙い通り剣に向いて迸り、あたりに白光と轟音とオゾン臭をまき散らした。

 辛くも難を逃れたものの、武器を手放してしまったうえにしょせんは狭い石舞台の中。逃げ回るには限界がある。割と詰みに近いのでは? 俺は半笑いになる。試合開始前の余裕がウソみたいだねー。まっさきに足をやられたのは本当に痛いんだよなぁ!

 まぁ、打つ手が全くないかといえば、そんなこともないのだが……。以前それをやったときにはおやっさんから死ぬほど詰められたんだよな。できる限りやりたくねー。


(隊長さん)


「っ!」


(聞こえるかい、隊長さん。今、あんたの心に直接呼びかけてる)


 おやっさんの声!?


(隊長さん、をやるつもりなんだろう。構うな、やっちまえ)


 おやっさん、でも、それじゃあ機体が!


(バカ野郎! 後のことは俺たちが頑張りゃあいいんだ! あんたはとにかく、勝つことだけを考えるんだ)


 おやっさん……! うん、わかった、俺、やるよ!


 え、おやっさん風魔法も使えるのかって? 使えるわけねーだろ全部俺の妄想だよ。ということでイマジナリおやっさんの熱い承諾も得たことだし、俺は奥の手を発動することにした。


 よーし、各部関節ロック、全解除。可動域オールフリー……っと!

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