4-14 ティエスちゃんはSP
「それで、具体的な作戦などはあるんでしょうか」
「はい。まずティエス卿には、式典の開催中、わたくしの
口の中が灰でじゃりじゃりするティエスちゃんだ。もう一杯水もらえませんかね。とはいえリリィ姫の発言の最中に水を含んでいたらハイドロポンプかましてた自信があるので、結果的にはよかったか。いやよくねーわ。まず、で繰り出されるパンチじゃねぇ。
「おそれながら姫、小官はあくまで王国の兵です。指揮系統のあれこれとかありますし、さすがにそれは……」
「こちらをご覧ください」
言って姫が差し出してきたのは、厚手の上等そうな紙っペラだ。こういう書類にありがちなまどろっこしい書き方がなされているが、内容を軽くまとめるとそれは借用書だった。借主はリリィ姫、貸主は王国、貸し借りの対象はティエス・イセカイジンである。ねぇ聞いてないんだけど!? なお、王国側の責任者として名を連ねているのはおなじみワリトー・ハラグロイゼ伯爵と、意外にもミッティ・エライゾである。そういえばあいつついてきたわりには影薄いなと思ってたらこんなところで暗躍してたのね。これでただの医官は無理あるってぇ……。
とりあえず、この使節団のリーダーであるハラグロイゼ卿と、おそらくエライゾ卿の名代としてのミッティの署名がある以上、俺にはもう覆しようのない話である。外堀ってこうやって埋めるんだぁ、参考になるなぁ。俺は半笑いになった。
「ヒトをモノのようにお扱いになる」
「それについては謝罪します。ティエス卿に命令書という形でこの話が行く前に、ハラグロイゼ様にお願いしてこちらへご足労頂くようにしたのは、わたくしの口から非礼を詫びたかったというのもあるのです」
姫は伏し目がちにそう言った。なるほどね、良心の呵責ですか。俺は盛大な溜息をついた。
「小官も軍人の端くれ、命令されれば否もなく従いますが――しかし、当初の任務は此度の親善試合への出場です。そちらはどのように?」
「出ていただいて構いません。親善試合の際はわたくしも貴賓席で鑑賞する運びとなっていますが、あのように大衆の目のある場では、オティカが仕掛けてくることはありますまい」
「ずいぶんと、知っておられますね」
姫はにこりと笑う。その詮索について答えはないという意思表示だろう。まったく厄介だ。
「では小官は、つまり激忙しい親善試合がらみのスケジュールを縫って姫を護衛し、事があればそのオティカとやらを相手取り、殺さずに分捕れと。なかなかのハードワークでありますな」
「ご苦労を掛けます」
これは疲れがポンと抜ける
「部屋についても、すでにこの天の間に用意させています。何かご不便があれば、この……ライカに何なりとお申し付けください」
側廻りから姫に促されて進み出たのは、若い雄の賢狼人だった。精悍な顔つきで、体もよく鍛えられているように見える。黒づくめの装束は、どことなくNINJAを彷彿とさせるたたずまいだ。連絡役――兼、監視役と言ったところか。ライカは静かに頭を下げるだけして、姫の背後へと戻った。
「ひとつ、懸念があります」
「なんでしょう」
「賢狼人は森域でも有数の軍閥。統合軍に与していない独自の戦力も多く保有しておられるはずだ。そんな中で王国軍人である小官を姫君の護衛騎士などに任命して、反発は起きませんか」
「それはないでしょう。父もみなも、今はひどく
不思議な物言いだった。断言するわりには、その根拠はあまりにも希薄に思える。確かに式典の警備だなんだで森域氏族が皆多忙なのは疑いようもないことだが、だからって外様に頭を飛び越えられて嬉しいわけがないし、それにかかずらう間もないほど忙しいとは思えない。姫様の護衛騎士任命が些事になるような事態が、動いてるってことか……?
「さて、少し喉が渇きましたね。ティエス卿、お茶でもいかがですか。もちろん、エルヴィン殿もご一緒に」
俺が嫌な想像を巡らせているのをよそに、姫が重い話は終わりだとばかりに言った。すっくと立った姫は、ん~っと背伸びをする。公人が人前で見せていい態度じゃねぇぞ。
「姫、下々のものの前でそのようなお姿は」
後ろに控えていたライカ君もさすがに見咎めて諌言する。そーだそーだ。舐められても知らんぞ。
しかし姫はにこりと笑むと、いいのです、とライカに言う。
「ただいまよりティエス卿は御身内なのですから。あんまり鯱張っていても肩がこるわ」
それでいいのかねぇ? あ、ライカ君が額に手のひら当ててやれやれ系主人公みたいなため息ついてる。なるほど。さてはこの姫様、結構おてんばだな?
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