4-12 ティエスちゃんは招かれる②
「この度はお招きにあずかり、光栄です。リリィ・ル・リン殿」
「こちらも。お越しいただき感謝しますティエス卿。お忙しいときにお呼びだてしてしまいました。どうぞ、ゆるりとおくつろぎください」
控室みたいなとこで待たされて数分、ついに御目通りかなったティエスちゃんだ。よく大河ドラマとか暴れん坊将軍とかで出てくる感じの謁見の間に通される。座布団とかはないな。床直だ。ひとまず胡坐をかいて座ると、両こぶしを床につけ、軽く頭を下げてアイサツ。実際大事。エルヴィン少年も見よう見まねで倣う。しかしこの仕草、洋服だと様になんねぇなぁ。
対する賢狼の姫は、ふわりとした笑みを口許に浮かべ、昨夜にはさっぱりなかった余裕をもって言葉をよこす。明るいところで見ると、なかなかの上玉だな。俺は内心で加点した。
賢狼人と犬人は同じ犬系の氏族であるが、犬人が人の体に犬の首が載ってるくらいののケモ度なのに対して、賢狼人はさしずめ名探偵ホームズくらいのケモ度だ。一般性癖の人間でもイケるやつはイケるって感じのラインだな。なのでまあ、俺でも表情の機微やらはわかる。
装いは平安貴族ライクだが、女人が顔を隠す文化はないらしい。リリィ姫はこちらが頭を上げたのを見てから、ついで深々と首を垂れた。
「昨晩は助けていただき、ありがとうございました。ティエス卿には、最大限の感謝を」
「……顔を上げられよ、リリィ姫。謝辞はありがたく受け取りますが、そう軽々と頭を下げられるべきではない。侮られます」
俺は苦虫噛み潰しフェイスで苦言を呈した。一国の姫がそんな簡単に頭下げないでほしぃなあ! 側近の方々の目とかあるんだよ? 確かに属国と宗主国の間柄だからって、属国の姫と宗主国の一兵卒ないしは木っ端貴族なら、属国の姫のほうが偉いんだ。その、なんというか、困る!
「この場には、わたくしの最も信頼するものしか置いておりませぬ。むろん、こうすることは伝え聞かせ、納得させておりますゆえ。今は、どうか」
「しかしですね……そこまでされる謂れは、小官にはありません。小官としては、襲撃に対し応戦したまで。そこに巻き込まれた民間人――といっていいのかはわかりませんが、それがあったならば護るというのは、王国軍人としての当然の務めでありますので」
敵との位置取りめんどくせぇ、こいつ邪魔だなぁと思っていたことなどは悟らせないほどの凛とした顔でつらつらと述べる俺。ティエスちゃんってばこういう顔もできるんだよね。
とはいえ貴人の言葉を無碍にしすぎるのもよくないし、とりあえず俺は場当たり的に言葉を並べた。
「もちろん、知らずとはいえ御身をお守りすることができたのは僥倖の至り。それだけでも光栄なのです。むしろあの程度の襲撃者を撃退することなど容易く、取り逃がしたことを叱責されこそすれ……そのうえで斯様な礼まで尽くされてしまっては、小官としてもその、困ります」
俺がそう(3割方)正直に白状すると、リリィ姫はクスリと笑ってようやく頭を上げた。袖口で口許を隠しながら、しばしの間姫の鈴を鳴らすような笑い声が謁見の間に流れる。そんなツボにはまるようなこと言ったかぁ?
「ごめんなさい、噂通りの勇ましさに、つい」
「噂、ですか?」
「ええ。ティエス卿といえば、森域でも有名人ですもの。特に反エルフ感情の強い氏族には」
思い当たる節は……まあ、あるな。こないだのオークとエルフの氏族間衝突(ほとんど内戦だ)を鎮圧しに来た時、エルフ側がトチ狂って持ち出した強化鎧骨格部隊を熨したのが何を隠そう俺である。あいつら普通にオーク市民をロボでひき潰そうとしてたからな。一応全部
「そんなティエス卿と見込んで、実は折り入ってお願いしたいことがあるのです」
おっとぉ? 雲行きが怪しくなってきたぞ。ジャブが来ると思ったらいきなりストレートが来た感じ。賢狼人の姫から王国軍人の一兵卒に直接お願いとか、正直キナ臭すぎて鼻がもげそう。
「それは……お引き受けしたいのはやまやまなのですが、小官も公務がありますので」
「それは重々承知しています。そのうえで……伏してお頼み申し上げます」
リリィ姫は先ほどの笑顔はどこへやら、どこか切羽詰まった表情をすると、今度は先ほどよりも深々と、額が床につくほどまで叩頭した。か、勘弁してくれ~~!
「わ、わかりました。お伺いします。ですからどうかお顔をお上げになられて――」
「感謝します、ティエス卿」
狼狽する俺に対して、リリィ姫の顔はまさに「いくさ人」のそれだった。もうマジ勘弁してくれ~~~!!
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