2-22 ティエスちゃんはロボットがお好き(現在)

「――そんで今の俺がある、ってワケ」


『中隊長殿?』


「いや、何でもない。こっちの話だ。そちらの準備はどうか」


『は。総員配置につきました。いつでも開始できます』


「よろしい。合図あるまで待機だ」


『イエス・サー』


 というわけで向こうが陣形を整えるまで物思いに耽ってたティエスちゃん(20)だ。こいつに乗るとどうしたって思いだしちゃうんだよなあ。光画盤モニタには演習開始までのカウントダウンが表示されている。あと30秒か。

 あの後俺は前世むかしの知識をも総動員して魔法を勉強し、翌年には無事認可を取ったわけだが……あの時の親父の顔はなかなかに傑作だったな。写真がもっと一般的だったら記念に残しておきたかったほどだ。

 しっかし、つくづく変な世界だ。ここは。魔法の存在を差っ引いてもさ。

 俺は自分の第二の手――強化鎧骨格のマシニカルなマニュピレーターを眺めようとする。すると東部のカメラ・アイが動き、撮影した映像が光画盤モニタに映し出された。手のひらをぐーぱーする。人工筋肉とアクチュエーターがぎゅむぎゅむという音色を奏でながら、機械の手指は極めて有機的に動いた。

 強化鎧骨格の操縦は簡単だ。拡張された感覚がどうのこうのと一見小難しいように思えるが、実際のところは"思う"だけでいい。自分の手足を動かすのに、そんな難しいことは考えないみたいに、操縦桿というマン=マシーン・インターフェースでつながった巨人の手足を使って、思うが儘に動ける。その感覚をつかむまでは自分の体ごと動いちまったりもするが、コツさえつかめば幼稚園児でも動かすことできるだろう。まぁ、マリオカートみたいなもんだ。

 もっとも、動けただけじゃ戦働きはできないからな。第2の手足をどう動かせば良い動きができるのか、ってのは、センスの多寡もあるが結局は訓練の量で決まるもんだ。

 視線を足元に移すと、2本の華奢な――それにしたって人の数倍はある――足が地を踏みしめて立っている。かすかにゆらゆらと揺れながら、絶妙にバランスをとって。

 いやほんと、どんだけオバテクやねん。つくづくのことだが俺は半笑いになった。前世むこうじゃ、せいぜい等身大のヨチヨチ歩きがせいぜいだってのに。でかいロボは結局下半身をタイヤで妥協するからな。水道橋工業のクラタスとかさ。いや、あれはあれですごいし好きだけど、でもこっちのマシーンを知ってしまうとどうしたって霞む。

 あれかね。ボストンダイナミクスの技術者でも転生したんかね? 強化外骨格の歴史は何気に古い。記録によれば、最初のモデルがロールアウトしたのなんて100年は前のことだ。転生するときについでに時間遡行でもしたんだろうか? いや、転生者と決まったわけじゃないけどさ。

 んで、こんなメカトロニクスが大発展してる世界だってのに、それでいて写真とかテレビとか全く一般化されてないんスよ。なんなんだろうねほんとね。テックツリーが歪過ぎるってレベルじゃねぇぞ。

 考えられる要因としては資源不足か、あるいは宗教的なタブーなんかが挙げられるけど、資源に関しては土魔法の存在によって解決されてるし、宗教に関してもそんな影響力のある宗教勢力がいないんだよな。

 魔法が幅きかせてる異世界なのに宗教観は前世むこうの日本人とどっこいなほどに希薄だ。いや、無神論とか無宗教とかではないんよ。ただ、それは生活様式に組み込まれてるふわっとした感じの……ほら、日本だと「お天道様が見てる」って言ったりするじゃん? あんな感じ。こっちだとお天道様じゃなくてお星様って違いはあるにせよ、まあそんなもんだ。

 なので国の技術発展を阻むほどの宗教的権威ってのがいないんだよな。

 ただ自然にそうなったとはどうしても思えないレベルの変な発展をしてるので、俺はそれ以上は深く考えないことにしている。

 ほら、俺ってなまじっか天才だから、もしうっかりお国の陰謀とかに気づいちゃうととんでもないことになるからね。そんなのはごめんだ。

 まぁ考えようによっちゃ、前世むこうも情報科学分野の恐竜的進化に比較してハードウェア側はからきしだったし、わりかしよくあることなのかもしれんしね。なにぶんまだふたつしか世界を見たことがないから、比較対象が足りなさすぎるんだ。ひとつで十分ですよって? そりゃそうだ。

 さて、益体もないこと考えるのもこれくらいにしよう。何はともあれ、この世界にはロボットが存在してるわけで。しかも巨大で人が乗れて、なんなら今もそれに乗ってるわけだから、ロボオタクの俺としては言うことなしだ。親父の影響じゃないぜ? しいて言うなら前世むかしのダチの影響だよ。


「っし、そろそろ始めっか」


 俺は舌なめずりをしながらつぶやいた。カウントは残り3秒。稈を握りなおし、気を引き締める。さあお前ら、本気で気やがれ。軽くもんでやるよ。

 カウントが0を切り、演習開始を知らせる電子音が狭い筐体内に響く。俺は杖を腰だめに構えながら、残ったほうの腕で剣を抜いた。

 足を一歩、踏み出す。

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