2-21 ティエスちゃんはロボットがお好き(回想)
「ねぇとーちゃん。俺の見間違いじゃなかったら、向こうからなんかでっけー巨人が列をなして歩いてきてるように見えるんだけど」
「むすこよ、それは狭霧じゃ」
「ンなわけあるかタコ! あと俺はれっきとした女の子なんですけどォ!?」
「女の子は俺とか言わないと思うのよね、おとーさんはね」
ばっかオメーそんなこと言ってると今のご時世多様性でぶん殴られるぞ。というわけでティエスちゃん(5歳)だ。現在おやじの運転してるトラクターに乗せてもらってるところ。のろのろとウチの田んぼまで移動中の出来事である。……この世界普通に農業が機械化されてるんだよなぁ。ガソリン駆動ではないみたいなんだけど、納屋にはちゃんとコンバインもある。
「ていうか! 逃げなくていいのか? あれ、モンスターって奴じゃねーの?」
「いんや、アレはモンスターじゃない。むしろ逆だな。俺たちをモンスターから守ってくれる、頼もしいお味方だよ」
「……巨人と共存してんの?」
「ちがうちがう。アレは生き物じゃないよ」
おやじが車上から巨人にへらへらと手を振ると、それに気づいた巨人が控えめに手を振り返してくれた。なるほど、確かに友好的な存在らしい。しかしでっけーなー。目測で5メートルくらいか? 数字で表しちゃうとちびっちゃく感じるけど、平屋の民家くらいのタッパがあるわけだからな。そんなのがのっしのっし歩いてるわけだから、まぁ普通に迫力ある。
この世界におぎゃあしてから5年と少し、行動半径が狭いながらも収集した情報によれば、この世界にはモンスターや魔物と呼ばれるやべー生き物がいる。実際にお目にかかったことはまだないけどな。聞いた話じゃ小山のようにでけーのもいるらしいし、人類に友好的な種もいるとかなんとか。
しかし、おやじの言うところには生き物ではないらしいねん。ほな生き物違うか……。いまいちどころかいまさん信じられないいい加減なおやじの言とはいえ、生き物じゃないとなると……つまり、アレか? アレなのか?
いつの間にかすれ違うほどの距離になっていた巨人を見上げる。さすがタッパがでかいだけあって、1歩がでかいな。それに動きも人間並みに機敏だ。慣性とかどうなってんだろ。ティエスちゃん5歳だからわかんない。
おやじも俺と同じように巨人を見上げながら、口を開いた。前見て運転しろや。
「われらフェンヴェール王国の技術の結晶、魔法と科学のハイブリット。ヒトがヒトの身のままモンスターと渡り合うための、鎧であり剣。そういうマシーンなのさ、アレは」
「……とーちゃんさ、ポエマーにでも転職したら?」
「あれェ!? 今の流れ、完全に「わぁ、すっごいや!」ってなる流れじゃなかった!?」
「せっかく人が感動してたところに水を差された気分だよ」
「わが娘、5歳にして辛らつに過ぎんか……??」
いやだって、いい年した冴えないおやじがキメ顔しながらスカしたこと言ったって特定の層以外には刺さんねーよ。俺にそんな趣味はね……いや、シチュエーションだけ箇条書きにしたら結構アリだな? いや落ち着け。それ言ってんの実の親父だからな。はたから見たらどうか知らんけど、実子の立場からするとさァ、やっぱねーよ。俺は自己完結した。
巨人の群れとすれ違ってゆく。近づいてみればなるほど、それは確かにれっきとした工業製品だった。人型に準じながらも、わずかに人型を外れたシルエットであったりとか、全身の装甲版の隙間からチラ見えするコードの類であったりとか、鈍く光るカメラ・アイであったりとか。
武装を懸架するためのハードポイントであったりとか、各所に印字されたコーション・マークであったりとか、随所に設けられたハッチであったりとか、アクセントで入れられたとしか思えない用途不明のブチ穴とか。
……やべーな。俺の中に眠っていたオトコノコの血が騒ぎだしてきやがった。クッ鎮まれ俺の左手っ……!
「おっおっおっ、なんだなんだ? 興味あるのかいティエス」
ひそかに興奮するそんな俺の様子を見て、さっきまでしょんもりしていたおやじが急に息を吹き返してきやがった。なんだろう、
「……興味ないね」
「えぇー! そんなこと言うなよォ」
俺がプイっと顔をそむけてやると、おやじは実に情けない声を出した。釣り針にかかった魚をバラしてしまった時のような悲壮感がある。まあ気持ちはわかるぜ? 俺もオタクだ。同志が増えそうなタイミングはテンション上がるよな? でもこのおやじの影響で興味を持ちましたってなるのはなんか癪なので、俺は雲のような手ごたえのなさを装う。
「ちなみにさ、あのマシーンって名前とかあんの?」
「あるぞぉ。強化鎧骨格っていうんだ」
ふぅん、強化鎧骨格ねぇ。ああ、これはもちろん俺の翻訳だぞ。英語でいうとこのパワードアーマースケルトンみたいな感じだから、それを日本語に直訳した感じだ。え? それなら強化外骨格でいいだろって? そこはほら、まぁ、俺のセンスよ。
「あれって誰でも乗れんの?」
「おっ興味出てきたか!?」
「でてない。参考までに聞きたいだけ」
にやにやすんじゃねー。反抗期突入すんぞ。
「アレに乗るなら、軍に入らないとな。それに魔法も使えるようになったほうがいいなぁ。認可の一つでも取れば、一足飛びに操縦士になるのだって夢じゃない。まぁ、5歳のティエスにはまだまだ先の話だろうなぁ」
「認可……認可か。とーちゃん、魔法の教本って持ってる?」
「ん? ああ、領学校時代に使ってたのがあるが……ティエスにはちょっと難しいと思うぞ? 「おおぞらにかがやくほしのおはなし」のほうがいいんじゃないか?」
「そっちも好きだけどさぁ。……いいから、帰ったら読ましてよ」
「なんだ、やっぱし興味津々じゃないか」
「ちがわい!!」
ちがくはないけども! ちがわい!! おやじはふんがーと憤慨する俺を見てからからと笑いながら、俺の頭にポンと手を置いた。でかくて熱い手だった。
「よしゃ、いいだろ。代わりにちゃんとお手伝いしてくれよ~」
「あ"-!! わかった、わかったってば!」
うおー! がしがしなでるんじゃねー! ハゲたらどうしてくれんだ!!!
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