2-20 ティエスちゃんはアグレッサー①

「とりあえずね、まずおまえらの連携がどれくらいかみさせてもらう。5対1だ。楽勝だろ?」


「中隊長殿、さすがにそれは分が悪すぎます。せめてエレメントを組んでいただきたい。自分が僚機を務めましょう」


「いらん。しれっと勝ち馬に乗ろうとするな。副官、指揮はお前が取れ」


「了解であります」


 というワケで格納庫のキャットウォーク上からティエスちゃんだ。地獄の訓練メニュー初日はまず小手調べということで、俺vs俺以外でチーム分けして模擬戦である。ちなみにエルヴィンはラッカのところに置いてきた。この訓練にはついてこられないからな……。ちなみにラッカは露骨に迷惑そうな顔をしていたが、あれで面倒見のいい男だから問題ないだろう。問題はラッカの犬どもだな……変な影響受けなきゃ良いけど。

 副官はやれやれといった感じですんなり引き下がった。おおかたストッパーでもやるつもりだったんだろうが、望みが薄いのも自覚していたって感じだ。まぁパフォーマンスやね。

 ウチの中隊にあてがわれた格納庫には、身長5メートルの人型戦闘マシーン、強化鎧骨格がハンガーケージに収まった状態で居並んでいてなかなかの壮観だ。まるで逆ガリバーだな。巨人の国に迷い込んだみたいになる。前世むかしに見たお台場の実物大ガンダムほどの圧倒的な感じはないが、自分の身長の3倍弱という大きさははるかにリアリティがあって、威圧感はむしろ上かもしれない。実際動くしな、これ。


「なお、この模擬戦で負けた側は訓練メニューを倍にするからな。心してかかれ」


『サー・イエスサー!』


「よし、全員搭乗!」


 俺の号令と同時に、目をぎらつかせた選抜隊メンバーが自分の機体に乗り込んでいく。まあ訓練が倍になるのはやだもんな。気持ちはわかる、俺もそうだ。手加減はしねー。

 俺もさっそうと踵を返し、自分の愛機へ飛び乗った。王国陸軍が正式採用している強化鎧骨格「アーゼェンレギナ」のコクピットハッチは背中側にあって、ハッチの上に載ってる頭部ごと開閉するタイプだ。ちなみに胴体正面にも緊急脱出用のハッチがあるぞ。どんな体勢で擱座してもだいたい脱出できるようになっているから安心だ。

 コクピットのレイアウトとしては、シートが一つに正面と両側面で計3枚の光画盤モニタ、左右にレバーが1本ずつと、あとは右手側のアームレストに入力用コンソールがひとつだけで、窮屈ではあるが実にシンプルかつ簡素なものとなっている。あとは踏ん張るための鐙くらいか。

 俺はクッション性という概念を知らない奴が設計したとしか思えないシートに着座し、4点式シートベルトで体を縛り付けると、左手側のアームレストにある鍵穴に起動キーを突っ込んでひねる。コンソールをぱちぱちやって機体を立ち上げると、正面の光画盤に王国陸軍の紋章クレストが浮かび上がり、つぎに文字の羅列が上から下へ流れ下る。正直かっちょいいんだこれが。この起動シーケンスを考えたやつは絶対転生者だと思う。いい仕事してますねぇ!

 ちなみにこの世界にもコンピューター的なものはあるんだ。ただ電気回路で2ビット信号なノイマン式ではなくて、元をたどればお札とか魔法陣とかの文字魔術から発展したいわばゴーレム式。それでもまったく一般化されてないので、パソコンという概念はこの世界にはない。大学にいた時に大衆向けパソコンを作ろうとしたらいろんなところからやんわりと(しかししっかりと)止められたので、まぁなんらかのタブーがあるんだと思う。怖いのであまり考えないことにしている。

 機体が立ち上がると、人工筋肉の奏でる弦をつま弾くような高音が聞こえてくる。ピンピンピンピンみたいな感じの音だ。ギターの1弦をかき鳴らしてるような感じかな。この音が聞こえてきたら、起動が完了した合図だ。アガるぜぇ~!

 コンソールを叩いてハッチを閉鎖すると、外界の音と光から完全に遮蔽された空間が出来上がる。閉所恐怖症だったらきついだろうな。俺はむしろ興奮するんだが。光画盤に映る足元の整備員が、頭上で大きく丸を作ってゴーサインを出した。俺は外部スピーカーのスイッチを入れた。


「ティエス機、出すぞ! ケージ開放!」


 俺が言うのと同時に、ずしんという衝撃がシートを介して尻に伝わり、背骨を駆け上って頭のてっぺんから抜ける。戒めを解かれた機体の足が、地を踏みしめた合図だった。

 レバーを握り締める。とたんにやってくる、体が拡張したかのような感覚。新たに生えた第2の足を踏み出せば、俺の愛機も同じように足を踏み出す。イメージフィードバックとマン・マシーン・シンクロナイズがもたらすこの一体感、たまんねぇな!

 第2の頭を振れば、同期した頭部ユニットの拾った映像が光画盤に映し出される。ほかの連中も、すでに強化鎧骨格を起動させていた。よしよし、さすがにここで手間取るやつはいないようで安心したぜ。

 そんじゃ、いっちょ揉んでやるとするか。俺はハンガーに懸架してあった杖をとって肩に担ぐと、意気揚揚と格納庫の外へと踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る