2-19 ティエスちゃんは結成する

「……と、いうわけで。ここに集まってもらった諸君らが、はれて今回の親善試合選抜メンバーに決定した。はいみんな拍手~」


 そういいながら率先して手を叩いて見せるティエスちゃんだ。まばらな拍手が響く会議室には俺を含めて9名の人間がいる。内訳としては俺を含めた選抜メンバー6名と、俺の従士であるエルヴィン少年。そしてついでにスーパーバイザーとしてズニノール大隊長とエライゾ卿が臨席している。上司二人いるのマジで勘弁してほしいな。

 まばらな拍手が収まるのを待って、俺は話をつづけた。


「本日は初日ということで、簡略ながら結成式を行う。本当は基地を上げてやりたいところだが、時間的余裕もそんなにないからな。代わりに壮行会は盛大にやってもらえることになったから期待しとけ。ではまずズニノール卿からお言葉を戴く。ズニノール卿」


「ウム」


 席を立ったズニノール卿は老齢ながらはちきれんばかりの筋肉をみちみち言わせて登壇すると(ちなみにこの会議室は教壇のような小上りが設けられている)、俺に目配せをしてきた。今回俺は司会進行役である。


「敬礼ッ!」


 俺の号令に続いて、エライゾ卿を除く皆が起立し、敬礼する。ズニノール卿もバシッと音のなるような敬礼を返した後、隊員たちが着席するのを待って口を開いた。


「吾輩はあまり言葉がうまくないのでな。手短に話そう。諸君、まずはおめでとう。諸君らはこの度、王国軍を代表する栄えある任務に抜擢された。そして同時に、これは重大な責を背負っていることも、しかと胸に刻んでほしい」


 このズニノール卿のお言葉に対し、オーディエンスの表情は割れた。トーマスやハンスなど志願組は喜色と覚悟をはらんだ様な顔をしていて、副官やニアなどの徴集組は上官の手前露骨に嫌がるの訳にもいかず結果真顔、みたいな顔をしている。俺も後者に近いな。巻き込まれるのってやだよねー。俺も俺も。


「……そして、この場で私事について語る愚を許してほしい。諸君らの末席に、我が息子ハナッパシラが名を連ねていること、まさに望外の喜びである」


 おっと公私混同か? いやまあ、だいぶ年食ってからできた男子だから可愛いのはわかるんだがね。ほら、ハナッパシラ君も授業参観の時に後ろから「たかしー! がんばれー!」みたいな応援されてクラスの視線を一身に集めちゃって恥ずかしがってる子みたいになってるじゃん。ちょっとやめなよ男子―。

 ちなみにハナッパシラ君だが、決闘にこそ敗れたものの、その並々ならぬガッツと(俺にこそ及ばないものの)確かな技量を買われて選抜メンバーにアサインされている。まぁ買ったのは俺なんだがね。副官もやれやれみたいな雰囲気醸しながらも反対はしなかったし、決闘を木陰から見守ってたズニノール卿(暇か??)にその旨伝えたところ花咲くような笑顔をお見せになられたので、まぁいっかなって感じ。ハナッパシラ君も己の未熟を恥じ入りつつも、選抜入りについては辞退するどころか食いついてきて並々ならぬ意気を見せるものだから、こりゃもう決定でいいかなって。

 あ、帰ってきたらきっちり1年間便所掃除やってもらうからな。覚悟しとけよ。

 そんなこんなで結果として第2小隊からは一人もメンバーが採用されない結果になってしまったのだが、特に不満の声は出ていない。第2の連中、ラッカのことが大好きすぎるんだよな。ラッカがもし選抜入りしてたら、あいつら全員ついてきたかもしれん。逆もしかりってことで、マジで助かるぜ。

 それに先日の決闘の仔細はすでに中隊内で共有されているわけだから、ハナッパシラ君に突っかかるやつもいない。あんだけのガッツを見せつけられたらな。譲ってやらぁって気分にもなる。

 ちなみにハンスだけはジャックに財布がカラになるまで驕らさせれたらしい。麗しき友情って奴やね。ブロマンスブロマンス。


「森域の連中に、辺境の護りがいかに強靭であるかをしかと見せつけてこい。諸君らの健闘に期待する。励めよ」


「敬礼ッ」


 益体もないことを考えているうちにズニノール卿の挨拶は終わった。本当にシンプルに要点だけを話した感じだな。ハナッパシラ君のくだりは除いて。

 実際ズニノール卿も言っているが、テッテンドット卿からの推挙という話がなくとも、地政学的な関係でこの基地に白羽の矢が立ったであろうというのは想像に難くない。連中、つい最近文明を獲得したけど頭蛮族だからな。こういう機会に力の差を見せつけてやるのは重要だ。せいぜい暴れてきますよ。


「では、エライゾ卿」


「うむ」


 エライゾ卿は鷹揚に頷いてから登壇すると、ハナッパシラ君に向けてバチコーンとウインクを放った。まあこの人からしても甥御だからな、気持ちはわからんでもないが。またハナッパシラ君が居心地悪そうにしてる……。

 敬礼を済ませ隊員の着席を待ってから、エライゾ卿は口を開いた。


「大体のことはズニノールが言ってしまったのでな。私からは激励を送るのみとしよう。みな、頑張りたまえ。このひと月の訓練を乗り越え、来る試合で功を上げれば、諸君らの前途は明るい。楽しみたまえ。以上である」


 エライゾ卿は本当に短く言葉を投げて、降壇した。

 結成式はこれにて終了。さぁ野郎ども、地獄の訓練の始まりだ!!

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