2-16 ティエスちゃんは面接官③
5. ジャックとハンスの場合
「おう、来たか二人とも。まあ座れや。一応確認だが、二人とも参加の意志ありってことでいいんだな?」
「ウッス」
「ったりめーっすよ」
うむ、士気が高くて大変結構。引き続き面接中のティエスちゃんだ。
ジャックとハンスはともに俺の小隊の隊員で、階級は伍長。軍に入って3年目の17才だ。とはいえこの中隊が編成されたのも3年前なので、何気に最古参メンバーでもある。
特にハンスは大学こそ出ていないが火魔法の認可を持っており、実に優秀だ。相方のジャックも火魔法の認可を取るべく、試験勉強に忙しいらしい。見た目がちゃらんぽらんな不良高校生っぽいくせに、案外根は勤勉でまじめである。
そんで腕も立つってんだから、囲い込みたくなるのも仕方ないね。今のところ俺が一番目をかけている部下でもある。
「理由を聞かせてくれるか?」
「そりゃ、森域の正規軍と戦争以外でしのぎを削れる機会なんてないからっスよ。俺、将来は将軍にまで上り詰めるつもりなんで」
「それに国の代表で招かれてるってことは国賓待遇っしょ? ヒトの金で国外旅行できる機会も早々ねーんで、逃す手はないっス」
うーん欲に忠実。さすがは男子高校生(相当)。ちなみにこいつら兄弟でもなんでもないんだけど息ぴったりのうえ言動も振る舞いもなんなら背格好も似てるからたまにどっちがハンスでどっちがジャックだかわからなくなるな。助さん格さんみたいな。
「そう、国の代表だ。俺もお前らを連れて行ってやりたいのはやまやまなんだが、そこが懸念点なんだよなぁ。おまえら礼儀作法ちゃんとできるか? テーブルマナーとか挨拶の仕方とか」
「いやぁ、中隊長が大丈夫なら」
「俺らでも大丈夫っしょ」
ええいユニゾンするな! あと普通に失礼だなお前ら。俺はこう見えて大学出の士官様だぞ? 礼儀作法くらい叩き込まれとるわい。
俺は盛大にため息をついた。
「そういうトコなんだよなぁ。もうう良いぞ。結果は追って知らせる」
「ウッス、失礼しまーす」
「選抜よろしくお願いしますねー中隊長」
軽い口調のわりにきれいな敬礼をして二人は退室していった。うーん、軍隊の作法はしっかり身についてるんだよなぁ。
「副官、どう思う?」
「まあ物覚えは良い二人ですから、最低限のマナー程度ならば半日あれば習得できるでありましょうなぁ。しかし採用するにしてもどちらか一方でしょうな。残りの枠を二人で埋めてしまえば、他の小隊の志願者たちが不満を持ちます」
「だよなぁ」
今のとこ、選抜メンバーの内訳は俺(第1)、副官(第1)、トーマス(第3)、ニア(第4)だ。ニアはいやがらせ枠なので最悪ほかの志願者に譲るにしても、過半数を第1小隊が占めては隊内不和を招きかねない。管理職はつらいぜ。
ここは試験勉強に専念してもらうって名目で、ジャックに涙を飲んでもらうかぁ……。
暫定残り1枠、次行ってみよう。
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12. ハナッパシラ・イキリマクッテンネンの場合
「俺さぁ、毎回こいつの名前見るたびに吹き出しそうになるんだよね」
「そりゃまたなんでさ」
「エルヴィンにゃわかんねーよ。多分俺の知る限りだと、弟のヒョーイくらいにしかわかんねぇんじゃないかなぁ」
「麗しき姉弟愛といったところですかな?」
「ま、そんなとこだ」
この世界の人間、ちょっと名前が変なんだよな。いくら俺が察しの悪いティエスでもわかる。具体的には妙に日本語っぽい。でもまあなんかこの辺深掘りしだすと色々こわいので考えないことにしておく。
イキリマクッテンネン家は、こんなカスみたいな字面のくせしてエライゾ家に古くから臣従する武家で、家老的なポジションにある名家である。こうして近代的な軍隊が組織されるずっと前の時代から陰に日向に主家を支えてきた忠臣で、思慮深くそれでいて勇猛果敢な武人を多く輩出してきた。家訓が激厳しいことでも有名で、その家訓を解説・翻案した書籍がたびたびベストセラーにもなっている。なので、その家名の示すありさまとはマ反対に、絶対にイキリ散らかしたりはしない一族だ。
ハナッパシラ(15)はそんな一族の本家の嫡男であり、去年軍に入隊したばかりのニュービーである。所属は第4小隊。ニアからの報告によると、家名に恥じない立派な青年らしい。もちろん今回の選抜にもいの一番に志願してきた。
「とはいえ、俺はあんまり喋ったことないからな。いい機会だし見極めてやるか」
「他の小隊員と直接交流を持つ機会はあまりありませんからなあ」
「中間管理職の難しいとこだな。よし、エルヴィン。呼んできてくれ」
「あいよー」
こいつで面接は終わりなので、みんなどこかほっとしたような雰囲気を醸している。なんやかんやで4時間ほどぶっ続けだったからな。気疲れがひどい。肉体的疲労はそんなだけどな。鍛えてますから。シュッ。
「ハナッパシラ・イキリマクッテンネン戦士、入ります!」
「おう、入れ」
そうこうしているうちにハナッパシラがやってきたようだ。そういえば入室の許可を求めたのこいつだけか? うーん、フレンドリーすぎるのも問題かもな。ラッカに言って後で綱紀粛正の素案を作らせよう。
俺の声の後に入室してきたのは、赤いメッシュの入った金髪をオールバックにした青年だった。ちなみに王国陸軍は髪形やメイクなんかについて特に規定はない。個人の自由に任せられているが、まあ肉体労働職だから短めにしている奴がほとんどだ。長いと鎧とかの隙間に挟まっちゃったりするんだよな。単純にうっとおしいってのもある。
ともあれ、ハナッパシラは見た目、誠実そうな雰囲気を醸すイケメンであった。ふむ、見た目は合格だな。俺は面食いである。
ハナッパシラはきびきびとした所作で俺の前まで来ると、足を肩幅に開き、手を腰の後ろで組んで気持ち胸をそらしながら、意を決するようにスッと息を吸い込んでから、口を開いた。
「ティエス中隊長殿ッ! 貴官に、"決闘"を申し込むッ!!」
おいおいおいめっちゃイキっとるやんけ~~!?!?
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