2-15 ティエスちゃんは面接官②
3. トマス・ロコモの場合
「ぜひとも自分を選抜隊に加えていただきたいっ!」
「お、おう。まあ一応座れや」
入ってくるなり圧マシマシな部下に着席を促すティエスちゃんだ。現在面接続行中。
トマス・ロコモ――通称トーマスはそろそろ50代にとっつくころ合いのナイスミドルで、農村の三男坊として生を受けるも十五で軍の門戸を敲き、一兵卒から叩き上げで士官まで上り詰めた大ベテランだ。ウチの隊の最高齢だが、俺みたいな若造相手でも上官である以上はきっちり筋を通す職業軍人の鑑のような男である。俺もここに来たばっかの時はたいそう世話になった。熱意十分だし、こりゃほぼほぼ内定だな。
「一応、志願した理由を聞いてもいいか?」
「ハッ。自分がもはや軍人としての余命幾ばくもないロートルだという自覚はありますが、されど軍人として禄を食む身なれば、最後に一旗揚げたいと夢想するのも仕方なく……つまりは、我欲であります」
「ロートルなんて卑下するには、10年ばかり早いと思うがね。なぁ?」
「イエス・サー。肯定であります。こと強化鎧骨格での戦闘において、トマス小隊長に比類するものはおりませんからな。中隊長は例外として」
褒めるな褒めるな。
副官の言う通り、トーマスの戦闘センスはピカイチだ。まあ来歴を聞けばそりゃそうよとなるんだが、こいつは一時期王都本軍の教導隊に籍を置いていた。老いを理由に10年前にここに転属してきて、以来老いを感じさせない活躍をしている。俺でもサシでやれば10戦中3戦くらいはとられるだろうし、部隊同士でぶつかれば下手すると五分五分である。普通に指揮もうまいんだよな。
「過分なお言葉であります」
「謙遜の必要はない。俺にならともかく、ほかの奴には嫌味だからなそれ。ま、採用だな。副官、意見はあるか?」
「ありませんなぁ。何なら自分の枠をお譲りしたいほどです」
「それは却下だ。じゃあトーマス、ほぼほぼ本決まりだが、一応結果は追って知らせる。退室していいぞ」
「ハッ! 失礼しますッ!」
トーマスは年季を感じさせる堂に入った敬礼を見せ、部屋を後にした。うーん、相変わらず王国軍人の見本みたいな立ち振る舞いだぜ。シンプルかっこいいな。
「よし、エルヴィン、次の奴を呼んで来い」
「次って、ニア小隊長でいいんだよな?」
「ああ。いいか、どんなに嫌がっても引き摺ってでも連れてこい」
「えぇ……? 急に何?」
「いいから。さっさといってこい」
「り、了解」
エルヴィンが不格好な敬礼をして部屋を出ていく。トーマスを見た後だと際立つなあ。やはり早々に教師をつけないとな。
4. ニア・テッテンドットの場合
「よし、採用」
「ちょっと! まだなんにも言ってないでしょうが!」
見るからに渋々といった様子で入室してきたニアに選考結果を通達してやると、ふんがーと憤慨しだした。まあ座れよ。
「まあ座れよ」
「あのねえ、私は断固として辞退しますからね」
ぷりぷりと怒りながらも着席したこの女はニア・テッテンドット。第4小隊を預かる小隊長で、俺にこの仕事をぶん投げてきやがった王国近衛のテッテンドット卿の娘御である。逃がさねぇからな?
「うるせぇ。おめーのとーちゃんのせいでこっちは厄介ごと押し付けられてんだ。ちったぁ責任取れ」
「うっ……た、たしかに父が丸投げしてきたのはその、少し悪いと思うけど、だからって私にお鉢が回ってくるのは違うくない!?」
「お前を引っ張り出せばテッテンドット卿にちょっと嫌な思いをさせることができる。俺の胸がすく」
「そんな理由で!?」
このニアの実家であるテッテンドット家は古くから王家につかえる武門の一族で、根っからのお貴族様だ。その娘が何でこんな辺境で軍人をやってるのかといえば、20以上も年の離れたおっさんと無理やり結婚させられそうになって出奔してきたからである。いわゆる家出娘やね。
「それにな、今回の親善試合で武功を上げれば、きっとエライゾ卿の覚えもめでたいぞ?」
「うっ」
ちょろいな。こいつ、20以上年の離れたおっさんと結婚させられそうになって出奔してきたわりに、身元を保護してくれた20以上年の離れたおっさんであるエライゾ卿に懸想しているのだ。家格が釣り合ってるのがまたなんともね、ワンチャンあるので厄介。この世界、貴族は普通に多夫多妻が認められてるからね。
「ま、ほかの連中次第でどうなるかはわからんが……一応覚悟しておけ。結果は追って知らせる。以上」
「ぐぬぬ」
ニアはエルヴィン以上にだらしない敬礼をして、部屋を後にした。おいおい、親しき中にも礼儀ありだぞ、まったく。
さ、小隊長連中は片付いた。どっちかって言うとこれからが本番だ。残り二枠、さて誰が勝ち取るかな?
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