1.『白狼』のリーダー。









「……ねぇ、リキッド。なんか、周囲の目が怖いんだけど」

「あぁ、完全に値踏みされてるな」

「うわぁ……」




 アクシスさんの率いるパーティー『白狼』は、自分たちで拠点を構えている。王都最大規模、実力ともなれば当然だが、貴族の屋敷と見紛う大きさの建物には委縮してしまった。

 中に入ったら入ったで、他の冒険者たちの視線が痛いんだけど。

 ボクは苦笑するリキッドの後ろを小さくなって続いた。


 そうして歩くこと、十数分。

 ようやく、アクシスさんのいる部屋の前へとたどり着いた。



「リーダー。リキッド、入ります」



 リキッドは、慣れた様子でドアをノックする。

 そして一言そう確認すると、物怖じせずにドアを開くのだ。すると広い部屋の奥にいたのは、一人の女性。長い金の髪を後ろで一つに結び、鋭い赤の眼差しは見るものを震え上がらせる。しかし思わず息を呑むのは、恐怖によるものだけではない。

 何よりも、アクシスさんは美しいのだ。

 整った顔立ちに、エルフ特有の長く尖った耳。スラリとした身体つきをしているが、しっかりと引き締まった四肢、肌には傷一つなかった。



 絶世の美女であり、最強の冒険者。

 異端の存在であると同時に、絶対の存在。



 それこそ、王都最大のパーティー『白狼』を率いるリーダーの姿だった。

 ボクは二度目の対面にして、改めて言葉を失う。



「あぁ、リキッド。待っていたぞ」

「お待たせして申し訳ございません。ミトスをお連れしました」



 そのため、ボクはリキッドに促されるまで呆けてしまっていた。

 彼に背中を押されて、ハッとしてようやく挨拶をする。



「あ……えっと、お久しぶりです!」

「そうか。やはり、あの日の少年が噂のキミか」



 するとアクシスさんはボクを見て、小さく微笑みを浮かべた。

 愛らしい表情に印象が一転し、また息を呑んでしまう。しかし、それを気取られるのはいささか恥ずかしいので、表情を必死に引き締めた。

 その上で、ボクは単刀直入に訊ねる。



「その、それで今日はどうして……?」



 『白狼』のリーダーともあろう人物が、どうして弱小冒険者のボクに興味を持ったのか。その真相が知りたかった。アクシスさんからしてみれば、こちらなんて仲間の友人、程度に過ぎないのだから。

 そう考えていると、しばし考えてから彼女は小さく漏らした。



「ふむ……。キミはまだ、確信を持てずにいるのか」

「……え?」



 思わぬ言葉に、ボクは気の抜けた声を出す。

 しかしすぐに彼女は、何度か頷いた後にこう言うのだった。



「キミのことを呼んだのは、他でもない――」





 そして、それはあまりに藪から棒な内容で。





「今ここで、命を奪うためだ」――と。




 

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