第6話 推しとの感動的な再会
人族と魔族が戦争を始めてから長い年月が経ちました。
今は小休状態になってはいるものの、もう何百年以上戦い続けています。
人族は総力を結集して魔族に立ち向かうことを誓い、『連合国軍』を作り上げました。
わたしが配属された最前線は、魔族領域との境にあります。
激戦地、というやつですね。
いつ魔族が攻めてくるか分からない場所です。
前線都市ガルガンディアには数十棟の宿舎が建っています。
各小隊には合同宿舎が与えられていて、そこで休んでいるそうです。
ただしギルティア様の宿舎は小隊員が誰もおらず、また他の人も気味悪がって近づかないため、広い御宿舎に一人っきりなのだとか。
「……むふっ」
あぁ、ダメです。ちゃんと聖女らしくしないと。
わたしは頬をこねくしまわして、表情を作ります。
…………。
……………………。
………………………………、
「むふっ。やっぱり無理です~~~~~~!」
推しと、 一つ屋根の下で! 二人っきり!!
きゃぁ~~~~~~~~~! これ、許されるのでしょうか!?
ファンとして距離を置くべきでは!?
いえでも、推しと二人っきりですよ。
生きててよかった~~~~! まぁわたし、一度死んでるんですけどぉ!
「……ふぅ、ふぅ、落ち着きましょう。わたし」
こんなに気持ち悪い笑みを浮かべていたらギル様に嫌われてしまいます。
仮にも同じ小隊に入る身なんですから、ちゃんとしないと。
ほろほら、周りの人たちが変なやつを見る顔してるじゃないですか。
「おい、あの方向って……まさか新入り?」
「若い身空で……可哀そうにな」
「だよなぁ。まさか死神に食われるなんて……」
は?
今ギル様の悪口言った奴誰ですか? 殺しますよ?
「ひっ!」
「おい、行こうぜ。なんか怖ぇよ、あの女」
「そ、そうだな。触らぬ神に祟りなしだ」
睨んだだけで逃げましたか……根性なしですね。
まぁ放っておいてもいいでしょう。ああいう手合いはそのうち死にますし。
「……それにしても、最前線の質も落ちたものですね」
まぁ、わたしが居た時は激戦を繰り広げていましたから仕方ないかもです。
戦争が小休状態になって兵士の気が緩むのは当然ですしね。
「あ」
ふと、わたしの横を仮面をつけたシスターが通り過ぎていきました。
わたしに気付くと、軽くお辞儀をして去っていきます。
間違いありません。聖女です。
仮面をつけているのは、太陽神の祝福を受けたことでこの世との繋がりを断ち、清らかさと神聖さを保つためだと言われています。わたしもあの仮面をつけて仕事をしていたんですけど、なかなかに蒸れるんですよね。まぁ今は秋なので、そんなことありませんけど。わたしは内心で『頑張ってください』とエールを送りました。
お、言っている間に着きましたね。
飾り気のない無骨な石造り住宅。二階建てでしょうか。
合同宿舎だけあってかなり大きめです。ここに一人で住んでるとは。
「掃除のし甲斐があります。では、失礼して」
すー、はー、と深呼吸。
それから意を決して、わたしは
ノックをすること数秒。中から物音が聞こえます。
そして、ついに──扉が開きます。
「誰だ」
「……あ、あの」
わたし、声が震えてませんよね?
慌てて顔を背けて髪を整え、んん、と咳払いします。
澄ました顔を保ちますが、内心では爆発する感情をおさえようと必死でした。
いけません、前を向きましょう。
均整の取れた顔立ちに黒い髪。
優しい慈悲の心でわたしを見つめる蒼玉の瞳と目が合いました。
あぁ、ほんとに。
ほんとに。ギルディア様が。
心なしかご尊顔の周りがきらきらと輝いて見えます。
「誰だと聞いているんだが」
推しが、目の前にいます!
きゃあああああああああああああ! これは尊い! 尊いです!
ご尊顔がまぶしいいいい! すごく胸がどきどきします!!
「わ、わたしはローズ・スノウと申します」
「……で?」
「閣下の小隊に入るよう異動命令が下されました。どうぞよろしくお願い申し上げます」
はぁぁ、これからこの人と生活するんですね……。
本当に最高。どんな幸運ですか。一度目のわたし、徳を積みすぎでは?
きっとギル様もようやく増えた仲間を喜んで迎えて──
「帰れ」
バタン。
…………。
……………………。
……………………………あれ?
ちょ、待って。扉閉められたんですけど。
ちゃんと連絡行ってますよね? 場所も合ってますよね?
ていうか、今のギル様でしたよね。
なんだか『一度目』に会った時と態度がまったく違うんですけど。
「あれぇ……?」
わたしはその場で立ち尽くしてしまいました。
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