コンクリート・ジャングル
高雛ギシ
コンクリート・ジャングル
携帯端末を充電ケーブルから引き抜いて、ワイヤレスイヤホンを片耳に突っ込む。空っぽな脳みそを自由にしていても良いことはないから、何を言っているのか聞き取れない洋楽を流し込んで、思考に
僕は時折(これは本当に時折で、年に4・5回、やるかやらないかというレベルのことだ)、「
若者たちは今日も元気いっぱいで、おじさんには
そのままトボトボと道路を歩く。アスファルトに白い線が引かれただけで、歩道ということにされている部分があるが、さして交通量があるわけでもないので、僕は堂々と道の真ん中を歩いていく。左手に謎の緑地。右手に千川上水遊歩道。うん、そろそろフルネームを言うのには飽きてきたな。ふと、右手の遊歩道に、水路を跨ぐ用の小さな橋(橋らしい
脇道もなく、ただダラダラと道を進んでいれば、左手のフェンスや壁が
道を行けばやがて、武蔵野運動場も通り過ぎる。するとやけに草木がぼうぼうと育ち
カメラから顔を上げると、千川上水遊歩道を跨いだ先の大通りに、彼女がいた。ああ、これは単なる三人称で、僕らの
彼女は、僕の方に気がついていない。けれど、声は掛けない。そこまで未練はない。買ってもらった黄色いカメラを、まだ僕は持っているけれど。覚えているだけだ。僕らの最後の方は、浮気したり、されたり、どうしようもなかったけれど、そこに
僕はカメラを構えた。ファインダーを覗く。コンクリートの彼女は、交通量のない赤信号を律儀に待っていて、僕はそれを見ていた。目の前で信号を無視して横断歩道を渡る人間が現れても、彼女は律儀に待っていた。僕はそれ見ていた。やがて信号は青になって、彼女は大通りを渡って遠のいて行く。小さくなって行く。僕はそれを見ていた。秋風が吹く。酔いは覚めて、僕はカメラから顔を上げた。家に帰ろうと思った。そしてもう、カメラは買い替えようと思った。今日撮った写真は、どれも最高だったけれど、ただの1枚も現像せずにこのカメラは捨ててしまおう。さあ、来た道をまっすぐ戻って帰ろう。自然と人工物とが綺麗に入り混じったコンクリート・ジャングルを。ああ、今日は最高だ。きっと明日も。
コンクリート・ジャングル 高雛ギシ @6moto_k
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