第6話 ホレツァの町(2)

 ホレツァの町と周辺の村は比較的最近開拓された地域です。泥濘の荒野を少しずつ開拓しています。

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 道は石畳で舗装されている。

 『きれいに整備されてるね』マーヤが石畳を見て嬉しそうに言って来る。

 石畳が全面に敷き詰められていて見ごたえがある。


 『あの馬車に乗った連中も楽しそうだ』ラーファは楽しそうに歌っている一団を見る。

 町の中心から来た、馬車に分乗して乗った人達が歌声と共ににこやかな顔で門へと移動して行く。

 『歌っているのは、恋の歌?』マーヤが歌詞が良く分からないのか聞いて来た。


 『恋人に告白できない男と逃げ回ってばかりいる女をからかってた友達同士がいつの間にか恋人に成ってたと言う歌ね』

 歌の元歌はもっと南の国だったと思うけど、内容は国毎に少しずつ違っていても誰もが知っている歌だ。


 『マーヤが恋に恋する乙女に成るのは千年早いけどね』

 マーヤが成人する千年先まで生きていないだろうけど。


 『ベー!』念話と同時に舌を出して下まぶたを指で下げた画像が送られてきた。

 はしたないですよマーヤ、白目に少し見える瞳は碧眼ね。

 実際の画像では無くてマーヤが作った画像なんでしょうけど、マーヤの才能が凄い事に成ってるわ。


 5月と言う事もあって納税か取れ立ての野菜を売りに近くの農村の人達が朝市で売った帰りだろう。

 にこやかな顔を見ると納税が終わって安心した顔と言うより朝市でたくさん売れて嬉しい顔に見える。


 『嬉しそうね』とマーヤ。


 『ええ、何だかとても嬉しいの』

 彼らの笑顔は伝染するのか、ラーファまで春の陽気に浮かれてしまいそうになる。


 マーヤが生まれて神域で健やかに育っている、傭兵団の追ってはラーファを見失ったようだ。

 『しばらく振りに穏やかな日常に戻ったなって』

 聖樹が失われてから初めてと言って良いかもしれないが、今ラーファは幸せを感じている。


 農民を乗せた馬車が通り過ぎた、昼も過ぎたころなので、宿を早めに取る事にしよう。

 門を出ると石の壁に沿って道が在り、町の中心へ行く道は門からそのまま南へと続いている。


 道に沿って建っている家々は石壁と同じ石で出来ている。

 石を積み上げて壁にした2階建てや3階建ての建物が多い。


 石壁で四方を囲んだ作りで、2階から上は大きめの窓やテラスが作って在って開放的な雰囲気だ。

 ベランダや窓辺には花を咲かせた植物が植えられて、黄や白に赤色の花で彩られている。

 屋根は木の板の上に青銅の板を重ねたもので作られている。


 1階の石壁には人の入れない幅の縦長の窓が開いていて明り取りにしている様だ。

 嵌め殺しに成っている木枠にはガラスが入れてある、濁りの在るガラスだが明り取りには十分だ。

 ドアは木で作られた立派なものが多く、それぞれが動物を表した彫り物で意匠をこらしていて面白い。


 『あの杖に蛇が何匹も居るドアの絵はなに?』

 目ざとく見つけたドア飾りの看板の意味をマーヤが聞いて来た。


 『蛇じゃないよ、あれはトレントで蛇に見えたのはトレントのツタだよ』

 蛇に見えたのは仕方が無いと思う、何頭もの蛇が鎌首を持ち上げている様に私も見えたから。


 『トレントのドロップ品のウルの汁から作られる板材の強化液は、大陸では船の底へ塗る塗料として売られているのよ』

 聖樹島の氷雪のダンジョンからしかドロップしない品物なはず、こんな処で売られている訳が無いのよ。


 『闇の森ダンジョンに居るトレント似の木からのドロップ品かもね』

 用途は似たような物だと思う。


 道を歩いていると所々に小さい広場がある、井戸が在り人の集まる場所に成っている様だ。

 時には女性が集まって、集会や洗濯などを楽しそうにおしゃべりしながらしている、洗い終わった洗濯物は各自の家へ持ち帰って干すみたい。

 子供も多い様で母親達が連れて来た子供の集団が広場を走り回っている。


 『子供が裸足で走り回っているけど、そのまま家に入るのかしら』マーヤの好奇心は中々ユニークで聡い。

 『母親が足を拭いているから、裸足のまま家の中へ入る事は無いと思う』

 親が綺麗好きで無ければ、他の家も家の中へ砂などを入れない様にしているのだろう。


 総じて衛生的な考え方が行き渡って居る様で上下水道も整備されていて住みやすそうな町だ。

 これもダキエ国から知識が大陸へと広がって行った事の証だろう。

 西の大陸には選挙制度のある国も生まれたと聞いているが、ダキエ国が消えた今この大陸や西の大陸の今後の変化が心配だ。


 2コル(30分)程歩くと大きな広場が在った。


 広場の中央に大きな館が在るのでここが代官屋敷なのだろう。

 やはり石作の大きな館で、塔が4隅に在って厳めしい作りだ。


 館の北側には、一つ一つ違う意匠の入り口が4か所ほど在って、それぞれが何らかの意味が在る様だ。

 でもどの門を入っても中は一つの長い部屋に成って居て、どの門から入るかは関係なかった。


 『ラーファ、あの一番東の門の上に在る麦と丸い形は何に?』

 とマーヤが興味が在るらしく聞いてくる。


 4か所の門の上にはそれぞれに何かを象ったレリーフのようなものが在る。


 『丸い形だからお金じゃないかな、麦の穂と一緒だから、麦とお金で納める税だと思うね』

 麦は判るけど、お金は人頭税とかかな。


 『じゃあさ、次の門の上には、重さを量る様な天秤が在るけど、何か売るのかな?』

 マーヤは天秤で量って売ると思っているけど、天秤は商売以外に罪も量る意味があるのよ。


 『天秤は争いの調停で公平にさばく事の意味もあるの、裁判官は代官様の役職の一つよ』


 『じゃあ、次は?』マーヤは聞きたがり屋さんね。


 次の門には、ペンと書類のような巻物がある。

 『何かの登録をする事かなぁ、新しく町に住む事に成る人とか出産とか死亡とかかな』


 『ラーファも知らないんだ!』マーヤちゃん、ラーファがエルフの長の一族でも、オウミ国の行政までは知らないよ。


 『次よ!あれよあれ!』とラーファの視線の中に矢印で最も西の門の上に在る、鐘のレリーフを示す。

 器用な事が出来るのね、視線に映像を出せるなんてマーヤは天才ね。


 ただ、ラーファにも鐘が何の意味か分からない、お知らせ的な時鐘とかかな。

 『何をする所なのかさっぱり分からないわ』


 『分からない事が沢山あって、とっても楽しい!』マーヤ嬉しそうね、マーヤが嬉しいのならラーファも嬉しいわ。


 広場の周りは比較的大きな家が建っていてこの町を代表するような商店や宿屋が在るのだろう。

 一区画全体を使った建物で中庭を持っていて広場の反対側に馬車が出入りできる大木戸を備えている。

 ラーファはその中のベッドの形をした看板に”森の鹿宿”と書かれている宿に入った。

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 オウミ国のはダキエ国からの輸入が多かった国です、ジャガイモやトマト、ウルの汁など多種多様な物品を輸入していました。

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