第7話 ホレツァの町(3)
ダキエ銅貨1枚は1万円ぐらいの購買力が有ります。
オウミ国銀貨数枚分の価値がありますが、ラーファは知りません。
公的(国の公認両替商)ではダキエ銅貨=銀貨です。
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広場の南側に在る宿で、ドアには飛び跳ねる姿の鹿の絵が掘られた立派なドアですが今は開いている。
入り口から入ると正面に受付と思われる場所がある。
宿に入った左手に在る広い食堂を見ていると、マーヤが聞いてくる。
『ねぇねぇラーファ、あの親子が食べてるお肉美味しそうだね』
母親と子供2人がパンと何かのスープに骨付きの焼いた肉を食べている。
『広場側に座って食べてる親子ね、お昼を食べに来ているみたいだね』
マーヤは人が大勢いるのが楽しいのかウキウキした念話で話しかけて来る。
『奥の壁際で食事をしている人達ってお金持ちなのかな?』
マーヤがラーファの視野の右端で、一つのテーブルに4人が固まって昼からお酒と一緒に何か食べている。
マントにフェルトの帽子を被った商人に見える姿をした4人は、大皿に野菜と肉の煮た物や薄く焼いたパンに包んだ肉などが山と乗った大皿からそれぞれの手元に在る小皿へ取って来てはお酒を飲みひそひそと彼らだけで話し大いに食べている。
皆が食べているのを見ているとお腹が減って来た、マーヤもお腹が減ったのかも。
『マーヤもお腹が減ったのかな?』
『うん、お腹減った、まだ泣いてないけど、起きてはいるよ』
とマーヤが自分の事を教えてくれる。
急いで部屋を取ってマーヤの所へ行きましょう。
受付だと思える壁で囲った正面がテーブルに成っている場所で奥へと声を掛けた。
「宿を取りたいのですが、どなたか居ませんか?」
奥からやせた男が出て来て、「泊まりかね?」と聞いて来た。
「はい、2泊したいのですが、お幾らですか?」
「今の時間から明後日の昼5時(午前10時)までだと銀貨2枚だ、食事は夜と朝の2回づつで4回だ。」
宿の主人だと思えるやせた男がすらすらと答えた。
ここらで流通している銀貨ならダキエ銅貨と同じ価値だからダキエ銅貨で良いか聞いて見よう。
ダキエ銅貨を2枚出しながら聞いて見た。
「ダキエ銅貨2枚でよいですか?」
男は目を見張り、「ダキエ銅貨だと! おお、見た目間違いなさそうだな、良し此れでいいぞ。」
とダキエ銅貨を受け取ると、その内の1枚を口で噛んでその堅さに顔をしかめながら「名前は何だ?」と聞いて来た。
「くっ、なんて硬さだ顎がいてぇ」と小声でダキエ銅貨を噛んで痛めた歯と顎に手を当ててぼやいていた。
歯が立つ訳が無いですよ、鋼鉄の斧で打ち割ろうとしてもかすり傷も付かないのですから。
「ラーファと言います」と答えると。
男は「部屋は2階の広場に面した一番奥だ、これがカギだ無くすと銀貨3枚貰うよ。」
といって大きな青銅のカギを渡してきた。
まだ顎が痛そうです。
鍵を受け取ると、「夕食は夜1時(午後6時)からだ、1階のここが食堂だ。」
と受付の横に広がる椅子とテーブルがいくつも並んだ食堂を指さした。
先ほども見たが、宿の泊り客以外に町の人も食べに来ていて繁盛している。
お昼を食べている親子連れを見て思い出します、早くマーヤにお乳を上げないといけませんね。
「はい、よろしくお願いします」
宿の亭主と思えるやせた男に挨拶する。
受付を挟んだ食堂の反対側に在る階段を急いで上って2階へ行く。
2階は階段を上ると広場に面した北側に部屋が並び廊下は南側に在った。
『中庭があるわ』とはしゃいだマーヤが念話で叫ぶ。
南側の廊下は中庭に開放されていて、下は広い中庭に成っている。
廊下はその中庭を一周するようにして作られていた。
馬の鳴き声がするので、どこかに厩が在るのだろう。
2階全てが宿泊用の部屋の様だ、宿の従業員や家族は1階に住んでいるのか1階にも部屋が在る。
中庭に色々持ち出していて、そこで繕い物や洗濯をしている。
洗濯物は2階の上に屋上が設けて在って、広い洗濯物干場に成っている。
ラーファは青銅のカギに書かれた25と言う番号に従って北側の5番目の部屋を確かめると、そこが25番の部屋だった。
部屋はベッドが1つ、テーブルと椅子が1セットある。
北側に明り取り用の嵌め殺しの窓が在り、沢山の格子の中にガラスを入れた窓に成っているが、鉄格子で仕切られていて人は通り抜けられない作りに成っている。
ベッドには干し草が敷いてあり、その上にシーツが駆けてあった。
掛け布団は厚地の毛布が2枚あり十分5月の夜の寒さに対応できる物だった。
ラーファは部屋の鍵を閉めると、神域を開けて中に入った。
マーヤがお乳を欲しがって泣いているのが聞こえる。
此処へ来る道の途中で2回ほど神域を開けて授乳しているがもうお腹が空いた様だ。
『ごめんね、マーヤ直ぐにお乳を上げますね』
『お腹空いたよう、でも泣いてるのは寂しかったからだよ』とマーヤが教えてくれます。
部屋でマーヤを抱っこして、お乳を飲ませていると。
マーヤが念話して来た。
『門番さんが安心できる宿は広場の宿だと言ってたけど、安心できそうな宿だね』
『ええ、良かったわ、あの時声を掛けて貰って』
『この後、買い物に行くの?』とマーヤ。
『ええ、そうしようと思うの、出来れば保存用のソーセージやチーズとパンを買いたいの』
授乳を終わらせると、ゲップをさせて寝かせる。
まだ生まれて2日も経過して無い新生児なので、母乳を飲む量も少ない。
『お休みマーヤ』
『お休みなさい』とマーヤ。
お昼は兵糧(レーション)で済ませる、夜の宿の食事が待ち遠しい。
市場は広場の中心の館の東側にテントが張って在って、そこで売られている様だ。
宿にカギを預けて25と焼き印された板を貰う、預かり証だそうだ。
市場の事を聞くと朝市が主だけど、昼からも売っている店はあるそうだ。
売れ残りを売っているようなので、あまり期待せずに行ってみる事にした。
ホレツァの市場は町の中心広場の東側にテントを張って30軒ほどが店を出していた。
桶や袋などの生活用品が半分ほどを占めていて、手押し車もあった。
ラーファはその手押し車をダキエ銅貨2枚で買うと、壺や袋などの生活用品を幾つか買い込んだ。
ミョウバンが大量に売られていたので聞くと、皮の鞣しや薬、染料の固定に使うそうだ。
値段は銀貨1枚で1グラン(約700g)程、洞窟で採取したミョウバン石を売っても良いけど軽銀の作成に使いたいので、今は売らない事にした。
野菜などの生鮮食料品は朝市で大半が売り切れてしまうが、保存の効く物はまだ幾らでも残っていた。
買い込んだ物は、町の周辺で取れた小麦に大麦や燕麦が1グッシュ(7kg)づつ袋に入れてもらい2袋づつ6袋をダキエ銅貨1枚で買った。
他にもソーセージは袋でバターにチーズ、塩などの調味料は壺に入れて貰ってダキエ銅貨1枚分買った。
ラーファは市場で買った物を手押し車に乗せて、人気のない路地の片隅で神域の玄関へ手押し車毎、今買った物を放り込んだ。
総重量10グッシュ(70kg)弱ぐらいに成ったが、道路と同じぐらいの高さに出した神域の入り口は手押し車毎簡単に入った。
宿に帰って板とカギを交換して2階の部屋へ帰る。
部屋で神域を開けて入って、玄関に入れてある手押し車に積んである荷物を片付け始めた。
今日買い込んだ荷物を片付け終わる頃には夕食の始まる夜1時(午後6時)を過ぎていた。
お腹も減ったので、食事に行く事にした。
マーヤは先ほど授乳しているので、今は寝ている。
マーヤが生まれて2日、生活にリズムが出来て来た、授乳と授乳の間に寝るか用事を済ませる。
まだまだ新米の母親ですが、子育てに自信が少しは持てるようになったかもしれない。
生んだ子からアドバイスを貰う様な情けないママですけどね。
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つかの間でも幸せを楽しんでほしいです、追っては諦めてはいません。
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